真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 発射一分前」(昭和60『痴漢電車 発車一分前』のVHS題/製作:日本シネマ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実・片岡修二/製作:伊能竜/撮影:志村敏夫/照明:森久保雪一/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:高嶋静子/撮影助手:片山浩/照明助手:坂本太/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/主題歌“星間鉄道の夜へどうぞ”作詩:高嶋静子 作曲:鈴木智子 編曲:中谷靖 唄:冬樹澪/出演:早坂明記・麻生うさぎ・藤冴子・彰佳響子・ジミー土田・池島ゆたか・ルパン鈴木)。製作の伊能竜は、もういいか。共同名義ともいへ、プロデューサーに関してはほぼほぼ向井寛だろ。
 「あれは小学校一年の時だつた」、ルパン鈴木のモノローグ起動。うたゝ寝から目覚めた子役(不明)は、満月を横切る機関車を目撃。慌てて母親(クレジットレスの冬樹澪)を呼んだものの、列車の影は既になく。狐につまゝれる優少年に、お母さんは“満月の夜結ばれた世界で一番素敵なカップルを、銀河の果てまで運んで行く”ハネムーン超特急であると語る。尤もママは、パパと銀河の果てに行つてはゐなかつた。十九の時に乗りかけつつ、そのボーイフレンドは、別の女と結婚してしまつてゐた。旨まで話した上で、パパには内緒と口止めしてビデオ版のタイトル・イン。絵柄は牧歌的なアニメ絵ながら、少女が大勢から中出し電車痴漢される大概ハードなシチュエーションがタイトルバック。クレジットに通り過ぎられては、絵師当然不明。
 そして電車、最早当たり前の勢ひで実車輌内。ボストンの範疇に入るのか、それとも巨大なロイドなのか最早判らなくなる、一言で片付けると壮絶なオロナミン眼鏡の早坂明記に、ルパン鈴木が電車痴漢。多分零細の旅行会社「銀河旅行社」に出社した主任の竹口優(ルパン)は、部下の山田(ジミー)から紹介された社長の遠い親戚とかいふ新入社員・杉本公子(早坂)と改めて対面し仰天する。あるとしたらこの辺りの法則性がよく判らないが、未来でも、松太郎でもないんだ。
 配役残り藤冴子も、銀河旅行社の社員・安井?みさ。麻生うさぎは竹口が秘かにでもなく想ひを寄せる、得意先の社長秘書・江梨。池島ゆたかがその得意先「大手商事」―王手かも―の社長・近松。彰佳響子は、電車痴漢を通して客を捕まへる、ソープランド「ジューシー」の泡姫・アキ。あと山田が江梨に仕出かす件の周囲に、笠井雅裕―か笠松夢路―は台詞つきで明確に抜かれ、少なくとも若き渡辺元嗣が見切れる。
 ナベも見られるだけ見ておくかとした、渡辺元嗣(勿論現:渡邊元嗣)昭和60年第二作、単独通算第四作。田舎から出て来た野暮つたい少女が、都会の伊達男の手によつてみるみる洗練されて行く、サルでも判る「マイ・フェア・レディ」―「プリティ・ウーマン」には五年早い―もの。に、渾身のファンタジーをブチ込んだナベシネマらしいナベシネマ。部屋ごとハネ超に連結してのけるプリミティブ特撮が案外満更でもなく、悲恋をクロスさせる力技で回収してみせたアバンが宇宙規模のロマンティックに見事結実する、一撃必殺滂沱の感涙作。と、手放しで激賞して済ませられたなら、どれだけ幸福であつたらう。
 たかが初代林家三平似のルパン鈴木が、確かに芋臭くはある上京直後ver.の公子を“連れて歩くだけでお得意さんに失礼になる女”とか外見を全否定。アキ篇の冒頭では女子社員の容姿が勤労意欲にも関ると公言―実際、双方向に関らなくはないんだが―し、あまつさへ山田が江梨に電車痴漢を働いた特大不祥事の詫びに、公子を近松に差し出すに至つては言語道断。息を吸つて吐く感覚の、無造作なミソジニーが今となつては到底素面で呑み込める代物ではない。保守を標榜する分際でらしからぬ綺麗事をいふやうだが、2020年に初めて触れて、流石に首を縦には振り難い一作。それでも俺は、今でもこの映画が大好きなんだよといふリアルタイマーの諸兄に於かれては、当然尊重するに吝かではない。誠実に、葛藤してをられるのであれば。美しい夢物語から意図的に女の裸を排したものなのかも知れないが、ハネ超での締めの濡れ場を堂々と撃ち抜けなかつたか撃ち抜かなかつた、匙加減ないしメガホン捌きには、裸映画的な疑問が時代の如何を問はず残る。あと少々ブッた切つたとて、電車で繋げば何とかなる、といはんばかりの雑な展開にも。


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