真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若妻不法監禁」(1989/製作:国映/配給:新東宝映画/監督:片岡修二/脚本:片岡修二・瀬々敬久/企画:朝倉大介/撮影:下元哲/照明:佐久間優/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/撮影助手:森下彰三/照明助手:清水康利/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:しのざきさとみ・正木直美・伊藤清美・池島ゆたか・山本竜二《友情出演》・下元史朗)。VHSのジャケットでは、正木直美が前面にフィーチャーされてゐる。
 仰角で捉へた民家にタイトル開巻、ベッドの上に猫が眠る一室にモノローグ起動「あたしは全て知つてるんです」、「あの真夜中の乱痴気騒ぎの真相を」。窓を照らす雷鳴とともに猫も起動、モノローグは淡々と続く「でもあたしはそれをどうやつて皆さんに伝へていいか判りません」。「兎に角最初から思ひだしてみたいと思ひます」、猫視点で階下に下りると、台所の食卓には画面左からしのざきさとみと池島ゆたかに正木直美。周知安(=片岡修二)でなければ笠松夢路(=笠井雅裕)でもなく、恐らく在りものの映像に多分下元史朗が声をアテたTVのアナウンサーが、狭山市の精神病院から男女の分裂病患者―劇中用語ママ、だから1989年の映画なんだつてば―が行方不明になつたのと、新宿区百人町で会社員野沢俊介(41)・妻明子(37)・長女倫子(15)の三人が惨殺された事件を伝へる。一見至つて普通の直美(仮名)に対し、池島とさとみ(重ねて仮名)は明らかにアレな初めからブッ壊れた団欒。取つ組み合ひを始めた池島とさとみに直美が仲良くするやう叫ぶと、二人の豆鉄砲を喰らつた顔からカット跨いで夫婦生活?に突入してみせるのは、幾らピンクの文法を以てしても流石に唐突。直美もワンマンショーで追走、見るから不安定な序盤が漸く落ち着きを取り戻すのは構はないが、またこの濡れ場が長いんだな、十五分費やすのには別の意味で軽く度肝を抜かれた。ただし長丁場を、走り抜いた訳ではない。直美の絶頂は、来訪者を告げるブザー音に遮られる。三人が恐々玄関口に出迎へてみると、喪服の伊藤清美と下元史朗が「バッ」とお化け屋敷感覚で現れ、たどころか「香典袋ないか」とか奇声を上げながら家内に上がり込んで来る。下元史朗の、意図的に素頓狂な口跡での「香典袋ないか」には、正直この映画大丈夫かと頭を抱へた。配役残りカメオの山竜は、全部で何人になるものやら判らない頭数要員。
 淡々と国映大戦第三十三戦は、昭和の終りに何があつたのか、一般映画なりVシネもない、片岡修二当年一本きり作。
 見るから危なかしい一家に、闖入する火に油を注いでキナ臭いストレンジャー。果たして、この中で最もデンジャラスなのは誰か。ありがちなネタ乃至オチを一発勝負のミスリーディングと、果てしなく長い絡みで乗り切る、ある意味清々しい一作。さうはいへ丁寧すぎて些か冗長のきらひもなくはない真相明かし、の以前に。どうしても躓かざるを得ない急所が、ふかふかのピヨピヨ辺りのどうしやうもない安さとダサさ。二階で直美が下元史朗に犯されてゐる間の、ダイニングキッチンにて伊藤清美主導でオッ始まる巴戦。一箇所吃驚するほど雑に飛ぶのは、裸映画的にはなほさら宜しくない。粗がそこかしこに目立ちつつも、猫が眠るやうに目を細める奇跡のショットで終りは静かに綺麗に畳んでみせるのは、師匠である深町章譲りの妙手。


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