真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ドキュメントポルノ 続 痴漢」(昭和48/製作:プリマ企画株式会社/監督:山本晋也/制作:藤村政治/企画:渡辺忠/構成:山田勉/撮影:伊東英男/照明:近藤兼太郎/録音:大久保グループ/編集:中島照雄/助監督:城英夫/音楽:多摩住人/効果:秋山サウンド・プロ/監督助手:安部峯昭/制作主任:大西良夫/制作進行:石井俊一/現像所:東洋現像所/録音所:大久保スタジオ/ナレーター:都健二)。企画の渡辺忠と構成の山田勉は、それぞれ代々木忠と山本晋也の変名。
 林中を逃げる制服の女学生と、追ふグラサン。双方目まぐるしく動く、総合―格闘技―ばりの攻防にまづ目を見張る。少女の上げた悲鳴に、「これからお話しようとする痴漢行為とは、このやうな暴行ではありません」と実も蓋もないミヤコレーション起動。「ではそもそも俗にいふところの痴漢とは?」と話を適当に進めると、スカートに続き男の手に剥かれた半ケツにタイトル・イン。クレジット明けて往来を往き来する御々足に、「皆さん、貴方達は痴漢に興味ありますか?」。「ある?いやあ結構結構」と長髪の背広二人連れが、歩きながらの身ぶり手ぶりの豊富な口論を装ひ交錯する女のスカートを捲るメソッドと、歩道橋の踊り場に小銭を撒いて拾はせる、スカート覗きとを紹介する。あからさまに不自然で、まるで装へてねえといふ以前に、“いやあ結構結構”ぢやねえだろ。「エロベータ、いや失礼」と火蓋を切る小ネタは可笑しいが、続く“サラリーマンの皆さんにお勧めしたい”エレベーター痴漢に於いても、「痴漢も出来ないやうな男性は出世の見込みは全くありません」。現在の偶さかで過去を一方的に裁断する弊の存在ないし可能性自体は留保しなくもないにせよ、流石に2020年に及んで斯様に自堕落な男尊女卑は、おいともそれとも到底呑み込める代物ではない。
 “続”を銘打つにしてはドキュメントポルノの無印痴漢がどうしても見当たらない、山本晋也昭和48年第八作。エレベーター痴漢以降は画太郎先生が描いたコミタマみたいな人が登場するバス痴漢、下町での生活臭色濃い覗き。話がまるで見えないが、連れ込みの鏡が隣室の箪笥から見えるマジックミラー。国鉄山手線でのスカート切り裂き魔(は三重街竜)に、数千枚の蒐集を誇る下着ドロ。蚯蚓や蛇を使ふ農学系みたいな工学部教授と来て、最後はオーソドックスな青姦覗き。最初に提示した痴漢を博覧するコンセプトは、それなり以上十全に果たしてみせる。加へて、兎にも角にも顕著なのが同じドキュポルとはいへ、「発情族を剥ぐ」(監督:代々木忠/構成:池田正一)と見比べると一目瞭然、月とスッポン。普通にカットも割る各々の画が、一般的な劇映画の水準に達してゐる。何処がドキュメントなのかといふのは、野暮以前のいはずもがな。所々で辟易させられなくもないものの、長髪スカート篇に際してはミニに映える足の綺麗な女を揃へ、女優部のレベルは総じて高い。不明にして三重街ドラゴンしか特定し得ないが、いはゆるイイ顔の男優部も商業作のフレームを支へ得る。全体的な構成には然程のメリハリもなく、小屋の暗がりでつらつら観る分には何時しかうつらうつら微睡むのも禁じ難いのかも知れないが、ひとまづ既に失はれて遥か遠く久しい、昭和の量産型娯楽映画の肌触りは十二分に堪能出来る。都健二の名調子にも加速された、「浜の真砂は尽きるとも、世に痴漢の種は尽きるまじ」は教科書の巻頭に載せたい至言、何の教則なんだ。クシャミしてしまつた一人が青姦氏に気づかれたところ、実は周囲を包囲してゐた出歯亀クラスタが蜘蛛の子を散らすオチが、掉尾を騒々しく飾る。被せられる「ドキュメンタリー、ナーウ!」とかいふ謎シャウトは、前年放送開始の、田原総一朗らが撮つたさういふタイトルのテレビ番組があつた模様、実に猛々しい。


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