真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「暴行の実録 泣き叫ぶ女たち」(1997/制作:オフィスバロウズ/配給:大蔵映画/監督:柴原光/撮影:真塩隆英・山本寛久・鉾立誠/スチール:青野淳/録音:田村亥次/助監督:佐藤吏・立澤和博/編集:酒井正次・加藤悦子/音楽:野島健太郎/シネキャビン・東映化学・ハートランド・《株》ブーム/協力:上野直彦・森山茂雄・堀井正樹・タンバ・斉藤秀子/協力:松本裕治、椿原久平、ロジャー・トーマン、鈴木達仁、土屋伸一郎、丸世文寿/出演:神戸顕一・霧島レイナ・葉山瑠名・扇まや・杉原みさお・真央はじめ・マニア高橋・榎本元輝・ナベヤン・菅原恵美・吉川理沙・池島ゆたか)。シネキャからブームまでの担当を端折るのと、協力が二つに割れてゐるのは本篇クレジットまゝ。といふか、大事(おほごと)すぎて忘れてた、脚本をスッ飛ばしてのけるのも本篇クレジットまゝ、モキュメンタリーでも狙つた寸法なのであらうか。
 繁華街の夜景、傍らに置かれた、テレビの画面が不意に映る。OMB―大蔵映画放送か―局「ニュースジャングル」のキャスター・辰巳新太郎(池島)が、ニュースを語りだす。トップは江戸川区での、四十五歳主婦強制猥褻事件。刑事裁判で有罪が確定する、以前に起訴されるどころか、逮捕さへされてゐない個人を捕まへて報道が“犯人”といふ用語を使用するのに到底看過し難い違和感を覚えつつ、ここは強ひてさて措き、犯人は関東一円を震撼させ、既に指名手配もされてゐる連続婦女暴行魔・鮫島洸一(神戸)。鮫島の犯行であると特定に至つた所以が、被害者が散歩させてゐた牝犬にも猥褻行為を働いたといふ点に、“動くものなら何でも犯した”列車集団レイプ事件のレジェンド・栗村東パイセン(甲斐太郎)を想起する。辰巳が事務的に次のニュースに移つたタイミングで、タイトル・イン。そのテレビ、まさかとは思ふけど街頭ビジョンと解して欲しいだとかいふつもりではあるまいな。
 明けて本篇突入、トッ散らかり倒した自室でダラーッ寛ぐ鮫島に、巷間を騒がせるお尋ね者の密着ドキュメントを撮影しようとするTV多分ディレクターの、実名登場柴原光(ヒムセルフ)が話を聞く。柴ちやん―と鮫島からは呼ばれる―は基本鮫島と対する話者か撮影者で、声は聞かせど見切れはしないものの、後述するクライマックスでは姿も解禁する。柴ちやんを伴ひ赴いた新宿のスナックで、鮫島が店のママ(扇)を挨拶代りに犯す件。だけ、神戸顕一に髭が生えてゐないのは誤魔化しやうのない凡ミス。
 配役残り正体不明のナベヤンは、何処かしらのターミナル駅通路、サイケデリックなダンボールハウスに今は暮らすナベセルフ、鮫島の旧友。杉原みさおとビリング推定で榎本元輝は、ナベヤン・柴ちやんの三人で土手をぶらぶらしてゐた鮫島に見つかり二人とも犯される、アッちやんとその彼氏、彼氏から犯す辺りの見境のなさが清々しい。葉山瑠名は、保険会社を装つた鮫島に自宅で強姦される、未亡人の佐々木アツコ。例によつて柴ちやんを連れ深夜徘徊する鮫島が、アメイジングな嗅覚でアダルトビデオ撮影中のスタジオに闖入する天衣無縫展開。霧島レイナが大絶賛ハーセルフで、監督は真央はじめ。マニア高橋もヒムセルフで男優、もう一人撮影部が登場する。特定不能の菅原恵美と吉川理沙は、真央組のメイク―はもしかすると斉藤秀子かも―と、鮫島籠城現場のリポーターか。官憲・マスコミ込み込みで、結構な人数の現場要員が投入される、主に協力隊か。マオックスに話を戻すと、仕事を邪魔され当然腹を立てる監督が、逆ギレする鮫島と激突する神戸軍団同門対決が何気な見所。この映画案外、情報量が物凄く多い。
 柴原光1997年第二作にして、ピンク映画第二作。改めて柴原光の略歴を大雑把に掻い摘むと、旦々舎でキャリアをスタートさせ1992年から1994年にかけて薔薇族三本と、1997年から1999年にピンクを同じく三本発表。柴原光が興したAV制作会社として有名な、マルクス兄弟はどうやら目下息をしてゐるのか怪しい一方、ワンズファクトリーの方は普通に活動中につき、監督業の有無は兎も角、戦線には依然留まつてゐる模様。前作のピンク第一作「スケベすぎる女ども」(脚本:やまだないと/主演:三枝美憂)のベストテン六位―薔薇族でのデビュー作はベストテン三位と新人監督賞―に続く、『PG』誌主催第十回ピンク大賞に於ける戦績は作品本体の十位よりも、特筆すべきなのが最初で最後の神戸顕一男優賞。神戸顕一のピンク大賞はもひとつ第六回、神戸軍団(神戸顕一・樹かず・真央はじめ・山本清彦・森純)での特別賞受賞に関しては、寡聞なり浅学以前に、何を以て表彰されたのかこの期に及んでは皆目見当もつかない。
 全体の構成は基本鮫島家でのインタビューと、柴ちやんがカメラを回す暴行の実録を行つたり来たり四往復した果てに、柴ちやんを人質に立て籠つた、八王子中央病院跡地にて雑な小立回りの末に鮫島検挙。兎にも角にも、鮫島のブルータルと紙一重の出ッ鱈目な造形が出色。最初に御職業は?と問はれた鮫島の脊髄で折り返した即答が、「暴行魔」。暴w行w魔wwww、ぞんざいな口跡が、剝き出された可笑しみを加速する。暴行魔の分際で愛をテーマと称し、嘘かホントか知らない―嘘だろ―が、俺にはインディアンの血が流れてゐる。中卒で集団就職した工場を、事務員に対するレイプで馘になつた過去を想起しては、今後が「これはもうレイプしかないな」。時代的には仕方もないとかさういふレベルを超えた、「ポリコレ何それ、ポリネシアで発見された新種コレラか?」とでもいはんばかりのエクストリーム台詞の数々を鮫島が乱打。メチャクチャ面白いといふか、メッチャクチャで面白い。そして端から超えてゐたピリオドの、更にその奥に突き抜けるのがアッちやん篇後の自宅インタビュー。「いい質問だねえ」と唐突に火蓋を切ると、「僕はね、何を隠さうクレイジーキャッツとドリフターズが好きなんだよ」。その話題すんのかよ!―神戸顕一は、それで仕事が取つて来られるクラスのドリフとクレイジークラスタ―と腹を抱へたのも束の間、よもやそれは神戸顕一のリアル自室なのか、ゴミの山、もとい家財の中からドリフの指人形とクレイジーのVHSBOXに続き柴ちやんがサルベージしたのが、まさかの

 『人間革命』。

 途端に鮫島の顔から血の気が引き、みるみるあたふたし始める。その後も必死に矛先を躱さうとする鮫島といふか要は素顔の神戸顕一を、柴ちやんは容赦なく追撃。尊敬する人で荒井注と桜井センリに加へ、池田大作の名前を遂に聞きだす。神戸顕一にその手のデリケート乃至センシティブな演技が出来るとも思ひ難いゆゑ、暴行魔とインタビュアーといふ体(てい)だけ決めて、後はその場のアドリブで回してゐたの、だとしたら。もしも仮に万が一さうであるならば、それまで横柄にブイッブイいはせてゐた鮫島の俺様風情から一転、しどろもどろ狼狽する地金の出た神戸顕一をカメラの前に引き摺りだしてみせたのは、柴原光の神々しいまでに天才的なディレクションと激賞するほかない。重ねて圧巻なのが、数の暴力に屈した鮫島が連行される、娑婆の間際のシークエンス。パトカーに押し込まれながらも、激しく抵抗する鮫島は「俺のことが羨ましいんだらう」とブチ破つた枠の外からフリーダムを叫び、最後は官憲を振り切る形でカメラに寄つてみせた上で、「ざまあみやがれこの大馬鹿野郎!」と三尺玉の如く綺麗に弾け華々しく締めてのける。神戸顕一正しく一世一代の大芝居は、確かに男優賞も大いに頷けるだけの迫力と見応へがある。のに、止(とど)まらず。未だ完結してゐなかつた、神戸顕一畢生の一撃が遂に火を噴くオーラスには、ある程度予想し得るシークエンスにせよ度肝を抜かれるほど感動した。女の裸すらをもこの際忘れてしまへ、リスペクトする荒井注のワイルドビートを見事に継いだ、定石破りのビリングに違はぬ堂々たる神戸顕一主演映画に心を洗はれよ。

 最後に、鮫島が一週間前の死亡記事を基に急襲する佐々木家が、今なほ御馴染津田スタ。ところで、あるいはこれまで。最寄駅の描写から、津田スタの所在地は千葉県南酒々井であると当サイトは認識してゐた。ところが、アツコ篇の冒頭によれば当地は埼玉県東松山。何れにせよ東京近郊―近郊か?―とはいへ、流石に千葉と埼玉では方角から全ッ然違ふ。それこそ正反対につき、もう少し様子を見てみる。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )