真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ハードレイプ」(昭和62/製作:ローリング21/配給:株式会社にっかつ/監督:北沢幸雄/脚本:斉藤猛/プロデューサー:千葉好二《にっかつ》・北条康《ローリング21》/撮影:志村敏夫/照明:佐藤才輔/助監督:荒木太郎/選曲:ミュージックデザイン/編集:金子編集室/制作:石部肇/演出助手:若月美廣・上野俊哉/撮影助手:下元哲/照明助手:水野貴/メイク:永江三千子/効果:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/スチール:目黒祐司/車輌:田島政明/現像:IMAGICA/出演:瀬川智美・小林あい・高原香都子・藤井玲奈・江崎和代・中根徹・三木薬丸・樋口邦雄・ヒロ田島・馬鹿月美廣・上野俊也・今福平節・除福健・金子高士・北葉好康・長州刀・田辺満・李佩璇・坂西良太)。
 開けたり閉めたりするブラインドから下にティルトすると、OLの神山恭子(瀬川)が、ぼちぼち両親にも正式に紹介する心づもりの恋人・久保田六雄(坂西)と乳繰り合ふ。二回戦を玄関口にてオッ始めるのに、恭子主導の無駄な鬼ごつこで家内を移動するのは北沢幸雄の映画が相変らずダサいなあ、と呆れかけてゐると。事後久保田がドアポストから届いてゐた、京子宛の手紙に気づくといふ趣向、早とちりして済まなんだ。卒業以来五年ぶり、高校の同窓会の招待状に恭子が何故か顔色を変へる一方、同伴者可の文言に、神山家一時回避の方便か久保田は喰ひつく。裸で複雑な表情を浮かべ勿体ぶる恭子にたつぷりと尺を割いた上で、雷雨に洗はれるペンションにタイトル・イン。タイトルバックが、問題の五年前に直結。ここの外堀は終に語られないまゝ、高校生の生徒六人を連れ―同窓会会場である―ペンションに宿泊する、教師が恭子以下五人に他言無用を厳命する。恭子が二階の一室に上がると、ホッケーマスクで安置されてゐたマユミが驚愕の再起動を果たす。のは最早清々しいまでの、ペンションに向かふ久保田の車の助手席での夢オチ。一休みしようかと入つた茶店かレストラン、恭子は不動産屋の亭主が急な仕事でとんぼ返りした、同じく同窓会に出席する途中であつたと思しき美津子(藤井)と再会。改めて、三人でペンションに向かふ。美津子配偶者に、急用が発生しなければどうするつもりであつたのかといふのは、御都合なツッコミ処。
 配役残り中根徹と江崎和代は、矢張り同窓会に出る安川と、遂に何某か公に仕出かしたのか、目下は中学生相手に教へてゐる件の口止め教師。この人のみ、“先生”としか呼称されないゆゑ固有名詞不明。高原香都子は、単車で最初に到着してゐたチアキ。そして小林あいが五年前、ペンションで自殺したマユミ、自死は確かに自死。樋口邦雄は、同窓会に揃はないキクチ、初めから招かれてゐないのだけれど。三木薬丸は、マユミの弟・ヨウジ。何処にそんな頭数見切れてゐたのか釈然としないヒロ田島から李佩璇までは、概ねキクチが呑気に酔ひちくれる居酒屋要員か、給仕する荒木太郎は目視可能。
 北沢幸雄昭和62年第一作にして買取系ロマポ第三作が、ex.DMMの裏技で斉藤猛の名前で登録されてゐたりなんかする。関係者で唯一閉館する前田有楽に花を贈つた、岡輝男の監督作―聞いたことない―なんぞもリストには見当たるものの、結局実際は普通に新田栄だからな。直截にアテにならない、あるいはよく捉へれば、何処に何が紛れ込んでゐるか判らない。
 ただ一人のストレンジャーとして久保田を加へ、脛に何某か物騒な傷を持つらしき六人が集められた、因縁のペンション。果たして皆を集めたのは誰なのかといふのと、そもそも、そこで五年前に何があつたのか。そんな中、やがて出現したホッケーマスクの男に、一人また一人狩られて行く。普通に見応へのある、丁寧なサスペンス。ペンションに来るとマユミの思ひ出が多くて辛いと嘯く美津子に、安川が向ける今でいふ「なにいつてだこいつ」な表情。「学校の外では自分に正直に生きることにしてるの」とか膳を据ゑたところ、「五年前から?」と出し抜けに鋭く切り込んで来た久保田に、先生が向ける艶やかとしながらもハッとした眼差し。中根徹と江崎和代、男優部と女優部それぞれポイントゲッターの名芝居も何気に火を噴く。恭子と夕食の買ひ出しに出た車中、久保田が静かにキレる件を顕示的な伏線に、一転目のどんでん返しは、ある意味想定内。テニスコートのより慎ましやかな伏線を起点に、真相の更に裏に隠された、恭子しか知り得ない真の真実が撃ち抜かれる二転目が、あまりにも鮮烈。ピンクより気持ち長い程度の、短い尺―六十四分―でなほかつ五女優の濡れ場を消化するアクロバットも、キレを増す方向に作用。強ひて論ふと女の裸の量的不足さへさて措けばなかなかお目にかゝれないレベルの、キチッと纏まつた硬質な秀作である。


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