真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「処女のキスマーク」(昭和62/製作:ローリング21/配給:株式会社にっかつ/監督:北沢幸雄/脚本:石井信之/企画:作田貴志/プロデューサー:北条康/撮影:志村敏雄/照明:佐藤才輔/編集:金子編集室/音楽:エデイみしば/助監督:荒木太郎・上野俊哉/撮影助手:片山浩/照明助手:金子浩治/効果:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/協力:田島政明・新大久保 HOTEL サンレモ/現像:東映化学㈱/出演:姫宮めぐみ・北村美加・橋本杏子・坂田祥一朗・杉田広志・三木薬丸・真名瀬笑・鈴木正・末廣四郎・口先條・金子浩治・上野俊哉・今福平節・大谷一夫)。
 もう一組すれ違ふ、桜並木の回想。ともに高三の、モジモジする小林和美(姫宮)に深谷浩志(三木)が嫌なの?と問ふと頭(かぶり)を振り、怖いの?と問ふと首を縦に振る。「ぢやあ帰るか?」といふ深谷に対し和美が「行く」と明確な意思を主張する、姫宮めぐみの口跡が三木薬丸よりも余程確かなのは、ここは姫宮めぐみを讃へる方向に茶を濁すとする。はらはら散る桜にタイトル・イン、明けて二人が入つた連れ込みの室内にも、舞ふ桜吹雪が闇雲か藪蛇なロマンティックを爆裂させる。違ふ穴に挿れた挙句胸に暴発された和美は完全に臍を曲げ、「あれから二年」と独白起動。「だから私は」、「今でも処女なんです」、軽くウノローグ調。
 配役残り大谷一夫は、和美がアルバイトするショッピングモール?の、和美に対するあからさまな好意が―傍目には―キモい主任・細井孝行。鈴木正から今福平節までのエキストラ部の大半が事務所に見切れ、うち画面右奥で何時でも電話でワーワー喋つてゐるのは荒木太郎。流石にこれだけ重なると、今福平節でいいのか。北村美加は和美の同級生で女子大生の島田末子、杉田広志が末子と同棲する轟裕二。橋本杏子は和美・末子と矢張り同級生で、いざかや「ディンプル」のチーママ・大塚礼子。チーママといつて、本ママは終に登場しない。坂田祥一朗―ex.坂田祥一朗で坂田雅彦―は、飲むよりも主にディンプルで飯を食ふ常連客・長井。下の名前も都合二度映り込むが、判読出来なかつた。ところで三羽烏が和美のカユと礼子のレナコまでは兎も角、末子の綽名が何故かゴジラ。この辺りのセンスに首を傾げてみせるのにも、最早死屍に鞭打つ徒労を覚えなくもない。無論礼子に和美と末子、おまけで轟までディンブルに揃つたのは、和美が北大に進学した深谷と再会するイベント。ところがな真名瀬笑は、深谷が連れて来る実習で知り合つたとかいふ牧場の娘、絶妙なBS具合が琴線を激弾きする。その他和美と長井が距離を近づける屋台に、あとから加はる男が何処かで見た顔のやうにも思へ、どうしても出て来ない。
 北沢幸雄の昭和62年第二作は、全四本の買取系ロマポ最終作。バージンを、ロストする。要はたつたそれだけの物語といふほどでもない物語にしては、ちぐはぐといふか漫然としたとでもいふか、何とも釈然としない。末子と破局した轟が礼子の下に転がり込む、アメイジングに都合のいい世間の狭さに関しては、橋本杏子の濡れ場を誰かに介錯させなくてはならない、是が非でも絶対的な要請に免じて強ひてさて措く。に、せよ。和美の対細井戦を締めに持つて来るには、細井側からも感情移入させるに足る、手数が質的にも量的にも如何せん不足。北村美加のみならず、姫宮めぐみのパンチのあるオッパイも豪快に映えつつ、下手に画角を狙ひすぎる撮影部と、絡みに不用意なドラマ性を不自然な問答で盛り込みたがる演出部が足を引き、今ひとつもふたつも素直にノリきれない。カユとゴジラとレナコが箸が転ぶと駆けつこに興じる意味の判らないダサさは、この際寧ろそれが北沢幸雄だ。そもそもしつくり来ないのが、和美がディンプルで渡し損ねた、深谷に用意したプレゼントのマフラー。マフラーそのものを、マフラーがぼちぼち季節外れな和美のズレ具合―のち細井が火に油を注ぐ―の象徴として主モチーフにしてゐる割には、雑踏ショットを見るに劇中の実際陽気はまだまだ全然寒い模様、結構みんなコート着てる。因みに、封切りは四月中旬。ラストのストップモーションももう少し、可愛い顔で止められなかつたのかと全篇を通してぎこちない、ある意味らしい一作。締めの和美の対細井戦に話を戻すと、九分を入念に費やしながら、完遂に至らせない理由は全身全霊のハイマットフルバーストで度し難い。


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