真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「終はらないセックス」(1995/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:瀬々敬久/脚本:井土紀州・瀬々敬久/企画:朝倉大介/撮影:斉藤幸一/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/監督助手:榎本敏郎・坂本礼/撮影助手:佐藤文雄/照明助手:鏡早智/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:細谷隆広・ハラフジ・藤川佳三/出演:工藤翔子・泉由紀子・川瀬陽太・鈴木彰浩・山田奈苗・冨田実希・岡部みゆき・広谷佳徒・小暮明日香・原田久芽・伊藤猛・小林節彦)。
 蝉の音を電子加工したみたいな、謎の音効。ベランダから抜いたカット跨いでカメラが室内に入ると、ベッドの上に、鬼エロい体の女が全裸で横たはる。白シャツの川瀬陽太が、逆光を背負ひホケーッと電車に揺られる、油蝉の接写にスカしたタイトル・イン。地下鉄で通勤する、旅行代理店「レベルワンツーリスト」のOL・マキノ久美子(工藤)がコンビニか個人スーパーで買物して帰宅。直撃リアルタイムの八王子スーパー強盗殺人事件―事件が起きたのが七月末で、今作の封切りが九月末―の、ニュースといふよりはワイドショー寄りぽいテレビを見ながら、久美子は暗い部屋でポケーッとビールを飲む。かと思ふや、尺八を吹く尻のアップが飛び込んで来て、画面奥には吹かれる小林節彦。テレクラを介した、久美子と小林節彦の逢瀬で轟然と濡れ場開戦。枕元では、電話と一体化してゐるのがよく判らないテレコが回つてゐた。久美子は地下鉄から家までついて来た、上司の葉山(伊藤)とも寝る。レベルワンに入つた清掃員の幹生(川瀬)は、久美子が葉山と電話番号を交換したメモ用紙の痕跡から、久美子の電話番号を入手する。恐らく仕事帰り、表の自販機に買ひに行かされたコインランドリーの店内に、洗濯機が回り終るのを待つ久美子と、幹生は一方的に再会する。
 配役残り鈴木彰浩から原田久芽までは、顧客込みのレベルワンと、清掃員隊か。男手が足りないのは、定石的な多分で演出部動員、あるいは協力勢かも。葉山細君の読みが外れた泉由紀子は、幹生が恐らくテレクラで捕まへたか捕まつた女。
 国映大戦第四戦は、前作が川瀬陽太のピンク初陣となる瀬々敬久1995年第二作。瀬々だ井土だといふと如何にもシネフィル~―“フィ”のあとに八分休符を挿む―受けしさうな組み合はせではありつつ、一言でザクッと片付けるとアシッドな一作。ザックリするにも、ほどがある。
 各々持て余す空白が身勝手に飛び交ふありふれたドラマに、この期に及んだ見応へは見当たらない。過去に何処かで観てはゐたのを思ひだすのと、改めて衝撃を受けたのは二度目のコインランドリー、通算三回目に幹生が久美子とミーツする件。久美子が洗濯が終るのを待つコインランドリー店に、幹生も入店。着てゐたシャツ二枚を洗濯機に放り込むと、上半身裸で幹生は久美子に「こんばんは」、「俺のコト覚えてないスか?」。それはねえだろ!下手に狙つた挙句の、大御大越えをも果たす底の抜けたシークエンスに腰骨も粉と砕かれた。その際久美子が貸して呉れたTシャツを、返しに来た幹生を久美子が終に部屋に入れる件も件で、後述する二重の意味含め劣るとも勝らない、もしくは火に油を注ぐ。コバタケにブチ込まれた盗録テープでレベルワンを辞めさせられた、久美子が捨て鉢にシテよといふのに幹生は違ふだだとか、互ひの寂寥を無造作にぶつけ合ふ遣り取りはさながら一種の地獄絵図、棹が萎える萎えない以前の領域で頭を抱へた。止めを刺すのが、幹生がシャツを返しに来る直前に、捻じ込まれる泉由紀子。最終的に話は辛うじて繋がらなくもないにせよ、濡れ場要員の投入で、始終が―よしんば一旦にしても―瓦解するのはピンク映画的には最大の悪手。ラストもそれなりの幻想といふよりは直截に生煮えた消化不良感を残し、工藤翔子×泉由紀子と攻撃的な女優部を擁してゐる割に、裸映画としての訴求力は決して高くない。PG誌主催ピンク映画ベストテンでは当時第三位、あの頃持て囃されたであらうスメルだけは濃厚なものの、所詮は裸を捨て、映画も捕り損ねた一作でしかあるまい。


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