真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「SEXアドベンチャー ワンダー・エロス」(2018/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:藍河兼一/撮影助手:赤羽一真/録音:小林徹哉/助監督:菊嶌稔章・粟野智之/メイク:ビューティ☆佐口/美術:いちろう/スチール:本田あきら/編集:酒井編集室/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/特殊造形:はきだめ造形/タイトル:小関裕次郎/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:石井良太/協力:Abukawa corporation LLC.・中野貴雄/出演:並木杏梨・真木今日子・桜木優希音・長与純大・池田薫・リリー・小滝正大、五十音順の三十人前後・永川聖二・折笠慎也・山科薫)。出演者中、五十音順の三十人前後は本篇クレジットのみ。
 エッロース!僅かな光の中咆哮する真木今日子のビジョンに、天川真澄(ex.綺羅一馬)とサーモン鮭山を足して二で割つたやうな長与純大が、部屋一面に貼り巡らされた、二次元の嫁々に囲まれたベッドで悪夢風に跳ね起きる。片や公園にて、これで日本チャンプなボクサーのダイナマイト・ジョー(永川)が右もまだしも、とりわけ酷い左ジャブをぺチペチ木に当て練習に一応精を出す。そこに現れた、南洋のアマゾネス島「インラント島」から来日したルシア(並木)は、戦士である旨確認すると、ジョーを多機能トイレに連れ込む。正直ここは、今時のポリコレ的には、感心しない不道徳であるやうにも思へる。どうして然様な些末に一々柄にもなく立ち止まるのかといふと、映画的なスケールを感じさせる画はほぼほぼ皆無―エロスガンに撃たれたジョーが、公園にはふはふの体で敗走するショット程度か―で、とかく今作、骨を折つてロケーションを希求しようとした風情は凡そ窺へない。閑話休題、イッパツ普通に完遂した点に、落胆したルシアはジョーを放置。そんなルシア―姫らしい―をインラント島から、ポチ爺(何か縫ひぐるみみたいな犬種のリリー/声は小滝正大)が諫める。「日いづる国に闇の支配者現れし時、正義のエージェントが光臨する」、ルシアが島に伝はる預言を反芻してタイトル・イン。手首から先状の憑依生物・ゲルド(手動)に体を乗つ取られたジョーは、大雑把なデビルマン風隈メイクでモンスター化する。
 配役残り長与純大と素面あるいは堅気女優部の池田薫は、引きこもりのキモオタ・八波順平とその母・澄江。卓袱台の中に遺影スナップが飾られる国沢実は澄江の亡夫かと思ひきや、順平の祖父、結構再三再四抜かれる。実爺さんが母方なのか父方なのかと、澄江夫の去就は完全に等閑視されるゆゑ不明。澄江が買物に出た八波家を、モンスター・ジョーが襲撃。その場に駆けつけたルシアは、何だかんだしながらも順平に跨ると、すつたもんだ二人声合はせて「セックロース!」。改めて真木今日子は、するとルシアと順平が合体変身する格好の、インラント島預言に謳はれる正義のエージェント、その名もエロス・1。第一声が、必ず「エッロース!」。何時も通りのドヤァぶりを爆裂させる桜木優希音は、衆議院議員・小俣珠代。ドリフ桶よろしく、抜けた底が頭上から降つて来さうな始終の中、途方もない戦歴に裏打ちされた安定感で何気に的確なビートを刻む、山科薫が内閣総理大臣・万栗精士郎。社長程度はザラだらうが、この人史上多分一番出世した役。宰相の跡目で珠代の協力を取りつけ、少子化対策に万栗は射精産業活性化とセクハラの規制緩和、更には生産性のないマスターベーションとコンドームの使用禁止を訴へる、浜野佐知激怒必至の仰天法案を提出する。成立したのかどうかまでは触れられないが、最早ユートピアなのかディストピアなのかよく判らない。折笠慎也は、ゲルドに憑依された珠代が順平とファックロースすることにより爆誕する、こちらは悪のエージェント、ゲルド・1。クリーチャーなフルフェイスの被り物で口元以外顔の全く見えない扱ひを、折笠慎也もよく受けた。そして五十音順の三十人前後は、濡れ場の撮影は許されたのか、ハロー貸会議室にて開かれた総理就任目前の与党幹事長代理の割に、手作り感溢れる小俣珠代演説会の聴衆要員。前の方にゐた周磨要と佐倉萌に太三、最後列付近でウォーリーしてゐる高橋祐太は辛うじてか何故か見切れたものの、予想外の頭数に目を眩まされ、出てゐるとされる若林美保や橘秀樹も兎も角、国沢☆実2013年第一作「家庭教師 いんび誘惑レッスン」(脚本:内藤忠司/主演:早乙女らぶ/今をときめく篠田ゆうピンク初陣)以来で飛び込んで来た、筈の間宮結をロストしたのが何より悔やまれる。あとトレーニング中のエロス1に目を丸くする公園の二人連れが、演出部動員にしては菊りん不在。
 主人公男女がエッサカホイサカ腰を使ひつつセックロース!すると、エッロース!とエロス・1に変身する。ガキ二人がバロムクロスでバッローム!とバロム・1に変身する、特撮テレビ番組―さいとう・たかを先生の原作マンガは、未読につきそもそもバロムクロスの有無から知らん―「超人バロム・1」の、火の玉ストレートなパロディ。要はドルゲを引つ繰り返しただけの、ゲルドのネーミングも火に油を注いで清々しい。万栗の殖産法案含め、馬鹿馬鹿しすぎて誰も広げ―られ―なかつた大風呂敷を、勇猛果敢にオッ広げてみせた国沢実2018年第一作。但し国沢実の限界は、極論すれば両腕のみで完結してしまつたセックロスのアクション。何気にアクロバティックな濡れ場に―時々―気合の入つた冴えを煌めかせる新田栄ならば、たとへば横臥位をアレンジし、絡みそのものでセックロスしてみせた、かも知れない。
 セックロース!とエッロース!、そこだけ掻い摘むと遂に時代を獲る大傑作の予感しかしないにも関らず、さうもならない粒の小ささが良くなくも悪くも国沢実。セックロスがなかなか上手く行かず、ルシアに詰られた順平は俺みたいな役立たずと自虐的に自閉する。登場人物が塞ぎ込み始めると、逆に演出が起動するのは国沢実の、今回は正方向寄りに振れる諸刃の剣。レス・ザン・ナッシングなエロス・1のインナースペース、最終的にルシアと順平が心と心も通はせこぢんまりと結ばれるに至る、ミニマムなエモーション。何はともあれ、出て来る度に一々「エッロース!」と大見得カマす、極大の飛び道具、しかも真木今日子だから途方もなくどエロい。大魚を釣り上げる好機は、幾らでもあつた気がするのだけれど。撮る側の力量と真木今日子の身体能力、どちらが問はれるべきなのか。動かさないのか動けないのかはさて措き、何れにせよエロス・1が、「エッロース!」した後は殆ど動かない。他の名前ばかり挙げ恐縮ではあれ、再び我等が渡邊元嗣ならば、如何にチャチくなつたとてもう少し弾けて呉れたやうにも思へる。順平とルシア双方からこれあれ種は蒔いてゐたにしては、有象無象が右往左往して無駄に犬つころなんて探してゐる内に、結局満足な見せ場のひとつも結実を果たせず。満面の、並木杏梨の笑顔を押さへておかない意味が判らない、ナベに説教して貰へばいい。ついでにルシアが苛烈な宿命に身を投じる方便の、皆の笑顔を守るためだとかの更に前段に控へる、“償ひ”とやらの詳細も完スルー、何を悪さしたんなら。唯一残された希望が、ゲルドが止めを刺されてはゐない、アタシ達の戦ひはこれからだエンド。エロスロッドを工面して来いだなどと到底な無理はいはぬから、今度は玉砕覚悟でカツゲキカツゲキする、捲土重来の続篇が検討されないものか。


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