真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「発情不倫妻」(1991/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/脚本・監督:佐野和宏/企画:朝倉大介/撮影:斉藤幸一/照明:アロンジ・アロンゾ/音楽:遠松孝剛/編集:酒井正次/助監督:山村淳史・小瀬智史/撮影助手:斉藤博・広瀬寛己/効果:協立音響/録音:ニューメグロスタジオ/美術:TOPPI/現像:東映化学/協力:スタジオ・TATOO、ついよし太、原稔、石川章/出演:岸加奈子・水鳥川彩・荒木太郎・上田耕造・伊藤清美《特別出演》・小林節彦《特別出演》・TOPPI・佐野健介・山村まりも・佐野和宏)。撮影部サードの寛巳でなく広瀬寛己は、本篇クレジットまゝ。
 陽が差してはゐるけれども、荒涼とした砂浜、油絵具による書き殴りでクレジット起動。クレジットの合間合間はここは8mmなのか粗い砂浜の画像に、同様の公害プロテスト的な雑多なカットが挿み込まれ続ける。クレジットを消化してなほ、公害カット集?が続くのに些か不安がらせた上で漸くタイトル・イン。最終的に公害の“こ”の字も掠らない物語につき、この点を思ひ返すと軽く煙に巻かれる。
 妻子の無理心中を機に―それなり以上に貰つてゐたらしき―サラリーマン生活をドロップアウト、今は画家の佐々木(佐野)が元同僚のヤマザキ(上田)と、佐々木行きつけの小林節彦がマスターのバーにて飲む。但し小林節彦はアテレコ、鼻声に特徴のある人ゆゑ、口を開くと怒涛の違和感が爆裂する。強く誘はれたのか、その夜ヤマザキ家に泊まることになつた佐々木を、ヤマザキの妻・佐知子(岸)は努めて平静に迎へる。佐々木と佐知子は、佐々木妻子の事件以前より不倫関係にあつた。
 配役残り伊藤清美と佐野実子の佐野健介は、寝てゐる一人息子を殺害したのち、風呂場で自害した佐々木の妻とだから息子。手首をカッ切つた血で、ウィリアム・ブレイクの詩の一節を浴室の壁に遺す辺りの面倒臭さが、何となく、もしくはイメージとしての伊藤清美。水鳥川彩は、佐知子の美大を出た妹・ゆかり、何れ菖蒲か杜若の美人姉妹。荒木太郎は同棲してゐるぽいゆかりの彼氏・コージ、目下関係を拗らせてゐる。TOPPIと性別不詳の山村まりもは不完全消去法で、コージに雇はれ―姉に続き―ゆかりを寝取つた佐々木を半殺しにする二人組。その件、録音の問題かも知れないけれどヒャッハーの度が過ぎて、二人組の台詞が殆どどころでなく全く聞き取れないのは間抜けなツッコミ処。それと山村まりもといふのは、現:T-REX FILM代表取締役である山村淳史の変名?
 国映大戦第三戦は「Don't Let It Bring You Down」に惚れ込み早速ランダムチョイスを放棄し佐野二連戦に挑んだ、佐野和宏1991年第三作。ところがこれが、主役は身勝手な男と女が能書と我儘を捏ね繰り回しながらクサクサするばかり。周囲も俗物か声のおかしな小林節彦―とアレな伊藤清美に多分次男―と、何とも似ても焼いても喰へない一作。ある意味、小屋に毛嫌ひされても仕方のない、如何にも国映作といへば如何にもな国映作。反面、何処ロケなのか引いた砂丘の画に矢鱈と固執する辺りは安普請のアート映画―あと佐々木アトリエの、恐らくTOPPIのスタジオ・TATOOは手作りサイバーパンク―じみてゐなくもないものの、要は砂漠をイメージしたにさうゐない佐野とキシカナによる正常位はもう少し寄れよ!といふフラストレーションさへさて措けば、濡れ場は質量とも遜色ない。頭数が足らない分も補つて余りある、超絶の女優部が美麗に咲き誇る足を引くでなく、裸映画的には案外安定する。さうは、いへ。ヤマザキ家泊の翌日、帰宅した佐々木を追ひアトリエを訪ねた佐知子がドヤァと脱ぎ始めて膳を据ゑ、遂に開戦。するや劇伴がズンチャカ鳴り始めたかと思ふと、キシカナの裸身にヌチャーラヌチャーラ絵具を塗りたくり、汚い絡みに突入する煌びやかなまでのダサさには、改めて流石佐野だと感心した。

 とこ、ろで。柳田“大先生”友貴もビックリの驚愕のラストが、砂丘に体育座りでへたり込む佐々木の下に、佐知子が歩み寄る。高さ的に佐知子の太股辺りに佐々木が顔を体ごと預けるロングから、砂と空しかない空間を、何と実に二十秒正パンしてそのまゝ終り。特にこれといはなくとも何もないところにスーッとパンして、何事もなかつたかのやうにまた元のカメラ位置にスーッと戻る。当サイト命名の柳田パンも大概な荒技だが、三分の一分虚空パンにはそれ以上の衝撃を受けた。といふか、異常、もとい以上なのか以下なのか最早よく判らない。但し、あるいは更に。原題インがなかつた点をみるに、もしかすると配信動画には、オーラスまで全部は入つてゐない可能性も残されなくはない。


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