真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「バックが大好き!」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:小原宏裕/脚本:伴一彦/プロデューサー:林功/撮影:水野尾信正/照明:矢部一男/録音:福島信雅/美術:川船夏夫/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:鈴木潤一/色彩計測:森島章雄/現像:東洋現像所/製作進行:鶴英次/出演:朝比奈順子・早川由美・岸田麻里・中丸信・錆堂連・石田和彦・吉原正皓・伊藤哲哉・荻原徹也・影山英俊)。各種資料に見られる企画の進藤貴美男が、例によつて本篇クレジットには見当たらず。因みに助監督の鈴木潤一は、デビュー時は漢字名義のすずきじゅんいち
 札幌からの東京便が羽田に到着、タクシーに乗り込む赤いワンピースの梅崎美女(朝比奈)の、チラ見せどころでないパンティにタイトル・イン。渋谷駅前でタクシーを停めクレジット起動、コインロッカーにスーツケースを放り込んでの、雑踏のロングに俳優部。口笛男(これが荻原徹也?)のナンパはスルーした美女が、誰かしらと待ち合はせしてゐるらしきセールスマン(伊藤)に自分の方から接触、「失礼」と腕を組み半ば連行すると監督クレジット。丁寧に過程を描写する、魚の代りに墨で一物の形を取るチン拓を取つたのち、チンコも洗はずにセールスマンが美女に飛びかゝる絡みは手短に切り上げ、美女が一ヶ月の東京滞在の間転がり込む、高校時代の同級生・野々宮黎(早川)のマンション。岸田麻里が、黎のルームメイトで短大生の森本真純。二ヶ月後に挙式を控へる美女が上京した目的は、目標の百枚にまだ三十枚残すチン拓蒐集。黎に案内された出会ひバー「ワンショット」にて、美女は見るから精力の強さうな渋い二枚目?の深見タダオ(石田)に目星をつけるも、深見からはまるで相手にされなかつた。因みに深見役の石田和彦、目下も活動する映画監督の石田和彦とは全くの別人。
 この時期には普請を絞りにかゝつてゐたのか、ロマポにしてはコンパクトな配役残り、錆堂連は営業上の理由で化粧を施しゲイを偽装する、サーファーならぬ丘オカマの「ワンショット」マスター・高倉文太。健さんも文太兄いもゐない2018年現在、錆堂連は御存命なのか。こちらは中丸新将名義で大絶賛現役の中丸信は、処女ビアンの真純と百合の花咲かせる黎を男性恐怖症に追ひ込んだ、サディストの同僚・木村。美女は黎のアンドロフォビアを治さうと、木村を黎宅に誘き寄せさせる。吉原正皓は締め出された真純と、個室喫茶に入る中年男。マスだけかかうとして、真純を憤慨させる。そしてコミタマもサブも不在の中、影山英俊が単騎で気を吐く。木村を懲らしめ回復した黎は、美女とボーイハントに繰り出す。如何にもそれらしき風情で佇む黎に声をかける、リーゼント×グラサンでキメた―注:勿論別にキマッてない―影山英俊の第一声が、「遅くなつてゴメン、オレ待つてたんだろ」。凄え、こんなのこの人しか形にし得ない。アテ書きされたかのやうな画期的にダサい台詞を、それはそれとしてそれなりにでなくモノにする影山英俊の離れ業に、結構本気で感動した。そして最後に残る謎が、Movie Walkerの配役には“ポパイ少年”とある荻原徹也、ポパイ少年を如何に解せばよいのかから手も足も出ない。
 諸事情につきガチ隔離されてゐる間―拘留されてゐた訳ではない―駅前に来てた、小原宏裕昭和56年第三作。行けてないのに何だが、駅前がデジエクはちつとも御無沙汰なのに、ロマポばかり来るのは考へもの。美女のチン拓百枚に残三十枚に関しては、セールスマンと文太に木村で劇中新たに三枚取りつつ、何時の間にか深見でコンプリートとザックリ端折る。真純がバイブに目覚めるのはぞんざいな扱ひながら、黎の女王様開眼が、全体この御仁は何がしたいのか、精力増強と勃起力・持続力をアップする、“ペニス強化の特別訓練”を経た深見と美女の最終決戦を追走。丸二日を経過してなほ、平然と女を抱き続け得る人外のタフネスぶりを誇る深見が、結局は美女の前立腺責めにケロッと陥落するオチは人を喰つてゐる。影山英俊乾坤一擲の一撃以外にはこれといつた見所も特には見当たらないまゝに、銘々手の平返すオーラスまで一直線。六十五分をサクッと見させる、ポップ・ポルノの小品である。

 超絶洒落てゐるのが、カウンター挟んで黎と高倉が意気投合するシークエンス。何となく醸成した雰囲気に、高倉が人差し指で黎を指し、自らを指した親指を、真上に立てる。黎が小さく頷くと、高倉「参りますか」。黎が「乾杯」で受けて、二人でグラスに口をつけるまでが1カット、素敵!


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