真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「めぐる快感 あの日の私とエッチして」(2016/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:猪本太久磨・岡村浩代・磯崎秀介/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/効果:梅沢身知子/仕上げ:東映ラボ・テック/協賛:GARAKU/出演:星美りか・里美まゆ・横山みれい・橘秀樹・小滝正大・ケイチャン)。
 モノクロ無声映画風味の開巻、上野の王比伊神社。何時の時代か、浴衣姿で縁結びのお百度参りに励む彩香(星美)に、願ひが叶つて和服の修平(橘)が指輪を贈る。装ひと求婚の風俗との齟齬如きさて措き、威圧的なまでに胸元をいはゆるロケット型に盛り上げる、星美りかのオッパイが凄え。そして現代、UFOは未来人の乗つたタイムマシンだ何だと他愛ないムー話に盛り上がる、彩香と凜香(里美)の片桐姉妹に加へ、大森修平と川島司(小滝)の大蔵大学都市伝説研究部の面々。今はその手のネタも、ミミズバーガーやラジオ体操第4と十把一絡げに都市伝説に括られるのか。因みに小滝正大(ex.小滝正太)は、「熟妻と愛人 絶妙すけべ舌」(2012/監督・脚本:後藤大輔/主演:春日野結衣)から四年ぶりのピンク復帰。彩香の、過去にメールを送るといふ思ひつきにヒントを得た修平は、司が学ランの下に着る白Tにやをら数式を書き殴り始める。アルプス一万尺の二番を手遊び込みでフルコーラス噛ませた上で、夢を追ふ将来を熱く語る修平に彩香がウットリしてタイトル・イン。往々にして渡邊元嗣が仕出かす、下手にデジタルな安つぽいタイトル・インはどうにかならないものか。フィルム時代から、元々頓着ないのか酷い時はスッカスカな手の抜きつぷりに逆の意味で驚かされることもあつたが。
 三年後、普通に就職した彩香に対し、修平は発明と起業の準備期間と称して、姉妹が同居するマンションの一室にどう見ても自堕落に寄生。片や凜香が挙式間近の司は一流企業で順調にコースに乗り、ヒモを抱へ煮詰まる姉とは対照的に妹は玉の輿をゲットしつつあつた。こんな筈ぢやなかつた感を拗らせる彩香のスマホに、“過去の自分にメールを送れるサービス”との「過去ポスト」なる正体不明のアプリが着弾する。戯れに彩香が過去の自分に修平とは付き合はぬやうメールを送つてゐると、世界的なIT起業「リンゴ社」代表取締役のスティーブ・成仏(名刺オチで一切登場せず)に、SNSを介して認められた朗報を持つて修平が現れる。双方感激した流れで突入する絡み初戦、ミッチリ完遂したのち満ち足りた彩香がフと傍らを見やると、隣にゐるのは修平の筈が何と司。事後の軽い後悔がまんまと当たり、彩香が過去ポストで昔のメルアドに送信した忠告メールによつて、現在の歴史が変つてしまつてゐたのだ。
 配役残り、二作続けてトメを譲つた横山みれいは、多分寿退社済みの彩香が愛妻(予)弁当を届けに向かつた司と、見るから怪しげに逢瀬するバツイチ子持ちの先輩・重森紀子。「本気の恋でも潔く身を引くのが年上女の心意気」が、男をオトす必殺の殺し文句。クローゼットの中からラストに文字通り飛び込んで来るケイチャン(ex.けーすけ)は、ドッペルならぬドッピュルゲンガー。斯様な駄中の駄洒落をどさくさ紛れでも何でも形にし得るといふのも、確かにさうさう得難いタレントではある。
 改めて近年ナベシネマを振り返つてみたところ、降順に此岸と彼岸を跨いで全身整形生前の記憶を移植した瓜二つロボット時空を超える女忍者と来て、日本消滅回避を賭けての神と悪魔に板挟み。フィルム最終作にナベシネマズ・エンジェルも大量動員しての処女の難病ものは比較的おとなしいにせよ、相変らず易々と時空を超えてみたり衝撃のディストピア結末を叩き込んだ上に、人類の存亡を巡り天女とセックスどストレートなインセプション既視感もなくはない人造人間悲譚、涙腺を決壊させるみるくの恩返しと、見事に連なる種々雑多に飛び道具を満載したファンタなフィルモグラフィーにはクラクラ来る。完全に日常の地べたに止(とど)まる物語となると、オッパイ姉妹の恋愛ドタバタを描いた2013年第一作「姉妹相姦 いたづらな魔乳」(2013/主演:ティア・眞木あずさ)まで、何と十二作遡らなければならない徹底した軌跡には圧巻の言葉しかなく、更にその前作では相変らず地球壊滅の危機を迎へてゐたりする。ここいらで2009年第一作「しのび指は夢気分」(主演:夏井亜美)以来、エース格といふポジションも踏まへるならばなほさら大概御無沙汰の、ナベ痴漢電車を出発進行してみせるのは如何か、痴漢電車の基礎理論「ベッドの上で起こることは、全て電車の中でも起こる!」を定立したのは渡邊元嗣と山崎浩治のコンビなんだぜ。
 そんなこんなで渡邊元嗣2016年第二作は、送信速度が正しく光速を超えるメールが巻き起こす、四角だか五画だか六角関係。うん、何時も通りのナベだ。要はヒロインの打算が誤算を生む利己的極まりない展開ながら、司と凜香も同じ穴の狢に据ゑ彩香の現金さを薄める方便も有効に、“いまを選ぶのは、未来のわたしぢやない”と彩香に臆面もなく撃ち抜かせるエモーションを、しみじみと爽やかなオーラスで補強し堂々と成立してのけるのが、一途な真心に熟練した技術の伴つたナベシネマの強さ。瑣細はかなぐり捨て、一撃に全てを賭ける凄味には、渡邊元嗣の娯楽映画に対する鉄の信念が透けて見える。時の流れまで含め縦横無尽に入り組むお話を入念に進行する代償に、主演女優でさへ二回、二番手三番手はともに一戦きりと回数こそ確実に少ないものの、その分結構エグく攻める濡れ場は何れも腰から下への訴求力が高く、裸映画的にも遜色なく安定する。一見さうは見えない里美まゆもいはゆる脱いだら凄い系で、巨乳部を三枚揃へた三本柱は眼福眼福。実は修平にも過去ポストが着弾してゐた、馬鹿丁寧なパラドックスよりも、絵馬を通して過去の自分からのメッセージが届く方が寧ろ豪快な力技ともいへ、さういふ些末な野暮はいひない。身勝手な右往左往を無理から美しい帰結に引つこ抜くパワー系の一作を、ドッピュルゲンガーが一旦ガッチャガチャに散らかす如何にもナベシネマらしいラストを、胸に染み入るオーラスで再度締め括る構成は矢張り心憎い。

 唯一の心残りは、脊髄反射で内トラが予想された、凜香に言ひ寄る童貞デブ上司役の永井卓爾の不発。いや、蛇足・オブ・蛇足に過ぎないのは判つてゐる。


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