真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性辱の朝 止まらない淫夢」(2016/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/特殊メイク・造形:土肥良成/撮影監督:田宮健彦/録音:大塚学/編集:山内大輔/音楽・効果:Project T&K・AKASAKA音効/助監督:江尻大/制作:沼元善紀、もう一名/特殊メイク・造形助手:鈴木雪香、他/美術:吉田孝子/スチール:本田あきら/エキストラ:SHU軍団・井尻鯛、他/協力:VOICE、竜巻軒、スナックちばる、ホテル・フォレストイン、株式会社TRIDOM、はきだめ造形、日活スタジオセンター/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:朝倉ことみ・涼川絢音・みづなれい・川瀬陽太・竹本泰志・森羅万象・世志男・岡田智弘・山本宗介・太三・松井理子・藤岡範子・中野未穂・和田光沙《友情出演》)。出演者中、岡田智弘と山本宗介は本篇クレジットのみ。演出部応援始め、予想外の情報量に爆死する、協力は順不同。
 赤暗いラブホテルの一室、右頬に大きなバッテンが痛々しく刻まれた朝倉ことみが、物騒にも威圧的にサバイバルナイフを握り締めた男に抱かれてゐる。加へて朝倉ことみの右肩甲骨下には、天使が羽を捥ぎ取られたかのやうな大きな傷跡が。左足を曳き自室集合住宅の表にまで漸く辿り着いた、川瀬陽太の携帯が鳴る。ユリ子か!?といふ問ひに対し当のユリ子(朝倉)が、屋上から川瀬陽太の眼前にドチャッと降つて来る。潰れたユリ子の頭部に、川瀬陽太が呆然と手をやりタイトル・イン。のつけから陰惨なアバンの完成度は本来完璧な筈なのだが、小倉名画座との比較で何故か暗い画の映写に抱へる結構致命的な弱点が判明した、我等が旗艦館・前田有楽での大いなる苦戦が容易に予想され、現にその懸念はまんまと当たる。
 猫を轢き血塗られたホイールを洗ふ運送会社トラック運転手の吉川(川瀬)に、社長の滝沢(世志男)が人ぢやなきやいいよとデス陽気に声をかける。恐らく竜巻軒で滝沢に紹介された本社とは別の倉庫に勤務する事務員のユリ子と、吉川は結婚する。愛妻弁当を満喫する吉川に、可愛い顔の下にキナ臭さを隠す事務員のミカヨ(涼川)はユリ子が実は滝沢の愛人である、残酷な事実を悪びれるでもなく告げる。気分を変へに吉川とユリ子は、上野特選劇場に「痴漢電車 悶絶!裏夢いぢり」(2015)を観に行く。観終つたあと手洗ひに向かつたユリ子は、呆然と立ち尽くす吉川の目の前で、世界の救済を自任する気違ひ(太三)に鉈状の刃物で惨殺される。仕事も辞め消沈する吉川の下に、高校時代サッカー部の後輩でヤクザの高橋(竹本)が、飛んだ亭主の借金の形に泡風呂で働かせてゐる弥生(みづな)を、身の回り―と下―の世話をさせるために連れて来る。男女の一夜を過ごした翌日、弥生の姿はユリ子に変つてゐた。
 配役残り、どんな役でも卒なくこなし、何でも出来るがゆゑの一点突破力不足が強ひて探した難にさへ最近思へて来た山本宗介は、仮称高橋組推定若頭の真木。今なほ何かと気を揉む高橋と吉川の関係は、高橋が仕出かした不祥事で部がインターハイを辞退、エースストライカーの吉川はサッカー選手への夢を絶たれたといふ因縁。ex.弥生のユリ子も結局亭主との焼身心中で喪つた―厳密には弥生は死に損なふ―吉川は、多分スナックちばるにて和田光沙の連れを消火器でアレックス。森羅万象は、三年後仮釈放された吉川の身元引受人となる、解体会社社長の杉田。高橋いはくヤクザよりも性質の悪いカタギ且つ、ミカヨのパパさんであつたりするありがちな世間の狭さを爆裂させる。杉田解体興業で働く吉川の前に、杉田の妻が初めからユリ子の姿で現れる。不貞が発覚しリンチの末に杉田に左足を殆どサンダーロードされた吉川は、最終的に仮称高橋組傘下のデリヘル「人妻倶楽部 バビロン」の雇はれ店長に。松井理子が「バビロン」デリ嬢のミキで、藤岡範子と中野未穂は特定不能のサヨとレナ。ミキが固定可能なのは声と歩行器をつけてゐるからであつて、三人とも人相ではまづ判らない。ミカヨを連れ瞬間的に登場する岡田智弘は、吉川が入院する「さとう形成クリニック」院長の佐藤。エキストラは飲食店に見切れるほか、組と解体作業員の皆さん。
 前田有楽ではやゝこしいとの評判を呼んだ(笑、山内大輔2016年第一作。尺の大半を占める暗い画面が、本当に漆黒に沈む上野特選を筆頭に、判り易くいふと岡田智弘が連れてゐるのが涼川絢音なのかみづなれいなのか、俄かには識別し難い程度に見えず苦労しながらも、匙を投げるなり臍を曲げるには至らず。朝倉ことみ×涼川絢音×みづなれいと主演級を三枚揃へた三本柱を擁しておいて、濡れ場も暗い以前にスラッシュな描写が兎に角といふか矢鱈と多く、安穏と股間を膨らませるには画期的に適さないものの、川瀬陽太と竹本泰志のツートップを筆頭に、盤石な男優部が静脈色のドラマを頑丈に牽引する。吉川が再会しては再びユリ子を喪ふ、バッド系のタイムリープ。そもそも事が上手く運ぶとそこで再試行する要が発生しない以上、タイムリープものは畢竟悲恋なり悲劇と不可分ともいへようか。娑婆に居場所を失くし、バビロンの門を叩いた杉田嫁に源氏名を求められた吉川が、「ユリ子、お前はユリ子だ」とユリ子と名づけるカットは、そこでクレジットだ!と正体不明の興奮に震へる比類ない強度に溢れ、脈略を完全に放棄してすら突入した二度目の上野特選、吉川が覚醒夢的に悪夢の連鎖を断ち切るラストまで切れ味は失してゐない。尤も、バビロンの嬢が全員顔面が破壊されてゐる辺りで、劇中此岸と彼岸の別は甚だ怪しくなり、クレジットが流れきつてなほ、吉川とユリ子が出会つては別れ出会つては別れる風呂敷は一欠片たりとて畳まれはしない。本来ならば量産型娯楽映画的には敷居の高さを難じたくもなりかけるところが、三ヶ月弱後封切りの後篇「淫暴の夜 繰り返す正夢」を早く観たくて観たくて仕方がなくなるのは、それだけ面白かつたといふ山内大輔の勝利。ともいへ、かういふ、要は山内大輔の好きに任せた映画はかういふので悪くないとは思ひつつ、ここいらで思ひだしたやうにでも、エクセス×フィルハ時代2007年以前の、主眼はあくまで裸映画を時には観てみたいと思つてもみたり。

 最後に、今作は昨年AV女優を引退、現在の肩書がよく判らないみづなれいにとつて、初陣の森山茂雄第十作「肉体婚活 寝てみて味見」(2010/脚本:佐野和宏)、森茂次作にして私選依然2010年代最高傑作「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/脚本:佐野和宏)。山内大輔電撃大蔵上陸作「欲望に狂つた愛獣たち」(2014/プロデューサー:加藤義一)から二年ぶり兼、恐らくはピンク最終第四戦となるのか、今後戦線復帰しなければ。首から上は変らないけど総じて肉感的に、殊にオッパイが大きくなつてた。


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