真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性獣のいけにへ」(昭和59/製作:オフィスツー/配給:新東宝映画/監督:麿赤児/脚本:丸山良尚/製作:大阿久和夫《オフィスツー》/撮影:長田勇市/照明:長田達也/助監督:東山通・岩永敏明・高橋博/撮影助手:小川真司/照明助手:上田成幸/音楽:太田洋一/編集:鈴木歓/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/スチール:岡本昌己/衣裳協力:自前多数・感謝/製作補:大塚聖一/タイトル:日映美術/製作協力:大駱駝艦、大鯨艦、シアター・パラダイス、保苅藤原設計事務所/出演:花真衣・紫衣名・伊藤清美・沙覇羅ナナ・古川あんず・三宅優司・行田藤兵衛・束間燃・田村哲郎・大杉漣・松田政男《友情出演》)。衣裳協力クレジットのオネストに草。
 深い森の中、旧日本軍の軍服を着た大杉漣が女をうねうね拉致。家財道具一式抱へ、男と女が線路の上を逃避行。木々の間から、男が女を負ぶつて出て来る。西部劇のロケーションのやうな土手、何某か弦楽器を抱へた男を乗せた乳母車を、女が押す。一般映画はだしの四ショットを叩き込んだ上で、改めて深い森の中に競り上がつて来るタイトル・イン。過半数手も足も出ない俳優部に先に白旗を揚げておくと、一組目と二組目の女が、紫衣名と沙覇羅ナナなのだけれど何れが何れなのか特定出来ないのが最大のアポリア、ビリング推定だと紫衣名が一組目。アバンでは遠過ぎてまるで見えないが、花真衣と伊藤清美が四組目と三組目の女。行田藤兵衛・束間燃・田村哲郎の三人が、多分二組目から四組目の男、正直もうどうしやうもない。
 Y字の三叉路の集合部で、学生服のミハシ(ビリング推定で三宅優司?)がトランクに腰を下ろしてゐる。そこに通りがかつた二組目の伊達男と女に、ミハシは下宿屋・カワモトの道を尋ねる。辿り着いたミハシを、軽く白塗りのカワモト由紀子(紫衣名?)が出迎へる。カワモト邸は隙間だらけで、漏れ聞こえる物音に誘はれミハシが二組目の伊達男が女を手篭めにする現場を覗いてゐると、部屋に入り込んで来た由紀子の兄と称するタカシ(大杉)は、女・タマエ(沙覇羅ナナ?)と伊達男は夫婦で、手篭めにするのも何時もの夫婦生活であると伝へる。ミハシの階下に住む花真衣の連れの男は両足を失つた傷痍軍人で、フクザワの連れの女・シズエ(伊藤)の、心臓には穴が開いてゐた。そしてただの仮住まひを求めた学生などではなく、何事か任務なり大義を帯びたらしきミハシも、一丁のオートマチックを所持してゐた。
 出演者残り松田政男は、カワモト邸の庭にてミハシとミーツする刑事。プロテクター舞踏を披露する古川あんずは、本物のカワモト由紀子。プロテクター舞踏に至る顛末が、一ヶ月に亘る監禁凌辱の末にさうなつたとかいふ方便が、白々しい実も蓋もなさが笑かせる。因みに古川あんずと田村哲郎は、この時遠く既にex.大駱駝艦。
 如何なるものの弾みか話の転がりやうか、昨今は大森立嗣・南朋兄弟の父親としても知られる麿赤児唯一の映画監督作が、しかもピンク。一癖二癖どころでは済まなさうな男女が集ふ浮世離れた館に現れた、拳銃持ちのセイガク。やがて官憲も介入し、謎が謎を呼ぶ、といつて、通常のミステリーが繰り広げられる訳では、別にない。片仮名にせよ平仮名にせよ、“アングラ”の四文字で括られる領域の空気に支配された始終は、通常か明確な起承転結の構築は、恐らく最初から志向してゐまい。二三四組目が愛欲に溺れる形で、花真衣と伊藤清美をも擁し濡れ場も回数だけならば設けられるものの、これ本当に三百万で撮つてゐるのか甚だ疑問に映る、下手に重厚な撮影と、男優部中唯一覚えのある大杉漣が本格的な絡みに参加しない逆説的な配役も勿論響き、直線的な煽情性には甚だ遠い。ミハシがカワモト邸にやつて来た目的が終ぞ明らかとならないのはまだしも、また選りにも選つてこの野郎の口跡が如何せん不安定で、要の台詞が所々聞き取れずただでさへ劇中世界に重く立ち篭めた霧を、なほ一層深くする始末。当時的にはこれで最先端であつたのやも知れないが、この頃のシンセによるペラッペラの劇伴も、今となつてはキツい。完全に諸手を挙げたのは、その時点では全く意味不明―また偽由紀子も軽く白塗るものだから識別に難い―であつた、タカシが体の表に鉄板を装着した完白塗りの女を責める一幕。ぱぱぱぱで「星条旗よ永遠なれ」をがなる大杉漣に後ろから突かれる古川あんずが、朗々とドイツ語で「歓喜の歌」を熱唱し始めるに至つて、潔くか力尽きて完敗を認めた。兎にも角にもつもりが判らぬゆゑ、新東宝が頭を抱へたかどうかは兎も角、小屋は匙を投げたにさうゐない頓珍漢作。量産型娯楽映画の荒野に毒々しく咲いた、一輪の徒花である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )