真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「制服挑発 下着の奥」(1992『制服ギャル 下着大図鑑』の1999年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:笠井雅裕/脚本:瀬々敬久/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:原田兼一郎/撮影助手:小山田勝治/照明助手:広瀬寛己/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:佐倉ちひろ・浅野桃里・桜井あつみ・久須美欽一・杉本まこと・池島ゆたか・佐野和宏・広瀬寛己・飛田翔・佐藤宏・小獅子)。出演者中、広瀬寛己以降は本篇クレジットのみ。寛巳でなく寛己なのは、クレジット通り。
 タイトル開巻、窓の中から抜いた街景に、嬌声が被さる。カメラがパンすると、吃驚するくらゐに綺麗なTバックの尻。主不在の零細芸能プロダクション「浅見企画」、何故かナース服を着たアイドルくずれの演歌歌手・羽生沙耶(浅野)と、歌手くずれのマネージャー・稲田ケンジ(佐野)の開巻を飾る一戦。ダボッとしたジージャンが80年代の残滓を引き摺る佐野和宏のファッションには目を覆ひつつ、どうやら本当に演歌系の芸能プロらしき、ロケーションは全体何処なのか。何時の間にか日も暮れて、繁華街に大きなキャリーバッグを引き如何にも上京して来ました風情の佐倉ちひろ。社長の浅見(池島)が帰還するも、大絶賛事後にも関らず沙耶と稲田は衣装探しを方便に悪びれるでもない浅見企画に、九州旅行中に浅見が歌声に惚れ込み口説き落としたバスガイド・鷹栖幸子(佐倉)が現れる。見るから垢抜けない幸子を沙耶は小馬鹿にする一方、浅見は幸子と沙耶を組ませての、演歌界初の制服デュオを目論む。幸子のバスガイド姿は兎も角、ところで沙耶はどうして看護婦なのかといふ何気に根本的な疑問に対しては、最後まで一欠片の解答も提示されない。
 出演者残り杉本まことは、幸子が東京での宿を頼る今井タクロー。関係性を一切語らず―後述するリカに、今井が幼馴染と釈明―その夜に突入する濡れ場には、ルーズな作劇に匙を投げるばかり。桜井あつみは、一悶着経てションボリ帰つて来た幸子を更なる絶望の底に叩き落す、実は今井の婚約者・大森リカ。この人の制服は、制服のまゝ男の家まで来た客室乗務員といふ豪快な寸法。三番手にヒロインの傷口に塩を塗らせる用兵はそれなりに秀逸にせよ、要はコスプレといふエクセスからの御題に対し、造形に上手く組み込まうとする工夫を覗かせたのは幸子のみで、二三番手に関しては力技でしか対応してゐない。広瀬寛己は、今井宅から飛び出した幸子の、歌を褒めて呉れるルンペン。この件のガード下のロングや、終盤、稲田の置手紙を読んだ幸子の目が据わつたショット。画的な文字通りの見所は、ちらほらなくもない。久須美欽一はオリオンレコードからデビューの決まつた幸子を、浅見が売つた作曲家の先生かプロデューサーとかその辺り。その他多分佐藤宏がアダルトビデオ監督で、絡み推定で飛田翔が男優。恐らく獅子プロ内トラの小獅子―それ以上は特定不能―は、稲田のギターで流しのプロモーションに出撃した幸子に、ピンサロ感覚で手を出す性質の悪い酔客か。
 滝田痴漢電車を観に行くと大体な確率で名前を見かける笠井雅裕は、獅子プロで約十年の助監督修行を経て、何のものの弾みかロマポばりに尺の長い「いんらん姉妹」(昭和63/新東宝)でデビュー。以来新東宝とエクセスでピンク十四本と、ENKで薔薇族を二本監督。今作は1992年第二作にして、ピンク映画最終作。因みに橋本杏子―この人と杉原みさおの、齢の取り方には少なからぬ衝撃を受けた―の元夫としても知られる笠井雅裕がハシキョンと結婚したのはピンクから足を洗ふ前年のことで、自身の会社を興した笠井雅裕は、AV戦線で今なほ現役である。
 脚本が瀬々敬久だからといつて、しかもエクセスで徒にポリティカルな方向に振れてみせるでもなく、歌を全然聴いて貰へない幸子が煽情的な赤の下着で流してみたところ一時的に好評を博したり、アイドルに返り咲くと息巻き浅見企画を飛び出した沙耶が、選んだ道はAVアイドルであつたりだとか、浪花節か雑草系の奮戦記的には全く順当な、順当過ぎて殆ど平板な展開に終始。沙耶に連れられる形で浅見企画と袂を分つた稲田が、社長とのキャンペーンの最中、ラジカセが故障してオケが止まつた幸子の窮地に、様子を窺つてゐた物陰からギターを抱へて飛び込むベタなシークエンスは、何で稲田が一々ギターを持参してゐたのかさへさて措けば佐野和宏の突破力に支へられ軽くグッと来る。となると、といふか兎にも角にも苦しいも通り越し十二分に致命傷たり得るのが、滑舌に影響を及ぼすほど顔の曲がつた主演女優のエクセスライク。録音スタジオにて幸子が久須りんに手篭めにされる一幕、あまりにも発声が不安定で、バルタン星人ばりにビブラートする悲鳴には腹を抱へた。当然、全篇を貫く歌唱の方もお察し。桜井あつみも桜井あつみで所詮はオッパイ頼りの御愛嬌ぶりで、まともな女優が浅野桃里一人きりの脆弱な三本柱は、オーソドックスな娯楽映画のセンで攻めるには如何せん厳しい。ある意味、プロフェッショナルの矜持を持つ沙耶が何処の馬の骨とも知れない幸子を軽視する構図と、実際の浅野桃里と佐倉ちひろの立ち位置が綺麗に相当してゐるともいへ、斯様に屈折してゐるのかゐないのかよく判らない配役が、下手にハマッてみたところで始まらない。幸子と稲田が付くのか離れるのか、グダグダ右往左往するキレの悪いラストまで登場以降始終佐倉ちひろに支配され、この時既に、笠井雅裕はピンクに留まる情熱を失つてゐたのかしらんとすら邪推しかける、挽回の気配なり気骨を感じさせない負け戦である。


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