真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「白衣のメイド 妊娠しない女」(1998『飢ゑた白衣 脱がさずブチ込む』の2008年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/出演:相原涼、しのざき・さとみ、林由美香、久須美欽一、芳田正浩、田中あつし、丘尚輝)。出演者中しのざき・さとみが、ポスターには普通にしのざきさとみ。
 深夜の南西大学病院、巡回する看護婦の田村深雪(相原)が304病室を覗いてみたところ、驚くことに入院患者の山口大和(丘)と、後にバツイチであることも語られる婦長の丸山和歌子(しのざき)とが熱烈な情事の真最中。アテられた深雪がシャワー室に飛び込み、全裸自慰の火蓋を切るのに合はせて磐石のタイトル・イン。和歌子V.S.山口戦と深雪模擬戦が併走するオープニング・クレジット通過、呑気に果てる山口に対し、和歌子は、病室のドアが少し開いてゐることに気付く。画面一番手前に左から加藤義一と新田栄の背中が見切れる待合室カットを一舐め置いて、山口の304病室と物件的には同じ部屋を使ひ回す、後に十二指腸潰瘍が発覚する篠原直也(田中)の305病室。看護婦をオトした武勇伝を披露しに遊びに来てゐた山口は、深雪が訪れたため一旦ベッド下に隠れる。わざと落としたボールペンを横着にも拾はせ、山口がベッド下から深雪の下着に垂涎するのは微笑ましい序の口。尿瓶流れで―どんな流れだ―篠原のモノの大きさに深雪が点火されるや、あれよあれよとでもしかいひやうのない勢ひで突入する深雪V.S.篠原戦と、ベッドの下では山口こと丘尚輝(=岡輝男)がオナニーする、ある意味画期的な変型巴戦が序盤に頂点を極める今作の白眉。それが白眉なのか?といふのは至極御尤もな疑問でしかないのだが、画的には結構間抜けで面白い。和歌子とは不倫の仲にあるらしき宮島邦茂(久須美)、深雪にしつこく言ひ寄る西川純一(芳田)両医師の顔見せ挿んで、意気揚々と南西大学病院にロイヤルサルーン―他作でも見覚えがあるゆゑ、新田栄の愛車か―で乗りつける林由美香は、理事長の娘、兼西川の恋人といふかベッドの中では女王様の安達恵子。ところで、当サイトはピンク映画界の嵐の二宮和也と節穴で推す芳田正浩ではあるが、髪をオールバックにして濃い目に鼻髭を剃り残すと、今度は加藤芳郎に見える。どちらが正解なのかは、敢て考へないフリをする。
 林由美香唯一の見せ場と思へば無理からぬ気もしつつ、西川を犬に見立てた恵子お嬢様のお痛が中盤延々と続く辺りで、段々とではあれど確実に暗雲が立ちこめても来る1998年新田栄全九作中第四作。案の定、万事は登場人物のイントロダクション程度に止(とど)まり物語らしい物語が起動することは何時まで経つてもないままに、始終は濡れ場の流れにのみ従ひよくいへば流れるやうに推移する。主演女優も最低限辛うじて間一髪不美人ではないこともあり、要は、裸映画としては平均点、素といふ意味での裸の劇映画としては仙人が喰らふ霞が如き低目の水準作ではある。とはいへ、何故だか最終的には、最初は意地悪であつた和歌子のアシストの下、深雪が篠原との恋路を目出度く成就させる、それなりなので大ではなく中団円に何となく着地させてみせるのは、してやられた感も漂はなくはないが絶妙な匙加減。思ひ起こせば、開巻の組み立ては確かに手堅い。隙を突かれ小包固めで上手く丸め込まれたかのやうな、新田栄の案外伊達ではない妙技が地味に火を噴く一作、多分褒め過ぎた。

 琴線を撫でられたまま素直にツッコんでみせるが、振り切れてハチャメチャな新題が堪らない、白衣以外本篇の中身に掠りもしねえ。一体エクセスの担当者は何を食つて生きてゐたら、“妊娠しない女”だなどと素頓狂な用語を思ひつけるのか。大昔と比べて現代ピンクのタイトルはどれも変り映えしなくて味気ない、といふ意見が時に聴かれることもあるが、なかなかどうして、エクセスは今でも絶好調だ。


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