真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若未亡人 うるむ肉壺」(2012/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:金沢勇大/編集:有馬潜/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:榎本靖/照明助手:大前明/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:東尾真子・片瀬由奈・文月・牧村耕次・泉正太郎・なかみつせいじ)。
 従業員僅か七人の零細企業とはいへオーナー社長の結城淳司(牧村)と、元社員で親子ほども歳の離れた若妻・リエ(東尾)との、正直淳司が老体に鞭打つ風も見えなくはない夫婦生活にてひとまづ順調に開巻。タイトル・イン挿んで、淳司の遺影が呆気なくも同時に鮮やかに飛び込んで来るタイミングは、後家ものといふ特性を鑑みるとなほさら狂ほしく完璧。正確には、牧村耕次の遺影スナップが飛び込んで来る、瞬間までは。
 若未亡人が肉壺を潤ませる一人遊びを噛ませて、納骨の終つた結城家に、目下遺された会社を取り仕切る―形式的にはリエが継いだ格好―野田敬太(なかみつ)が改めて弔問に訪れる。リエを前社長に奪はれたとはいへ、実は満更ではなかつた気配も匂はせる野田と、ついついよろめいてしまふリエがいはゆるW不倫に燃える他方で、野田家では細君のさやか(片瀬)が、若干おかんむり気味に亭主の遅い帰りを待つ。ここまで、尺を潤沢に費やす対牧村耕次・なかみつせいじ二戦を通じて顕著な印象としては、主演女優が結城家と称した要は関根和美自宅から微動だに動かない、最大限に好意的に評すれば映画の腰の重さ、よくいふにも限度がある。帰宅した野田とさやかの夫婦生活、即ち野田的にはダブル・ヘッダーを手短に消化して、漸く劇中初めてリエが外出、何の先輩なのだが明示はされないのだがともあれ先輩格で、しかもこの人も後家の坂井美沙(文月)を訪ねる。因みに、リエと同じく亡夫(遺影も見切れず)の遺産で左団扇―羨ましいことこの上ない―ではある、美沙の現職はフードライターとのことではあるが、この設定には目も眩まんばかりに全く一切徹頭徹尾意味はない。四十九日を経たばかりで未だウェットなリエに、美沙は捌けきつた男遊びの勧めを説く。関根組順調に連続四戦目、特に短所が目につかない反面これといつて長所も見当たらない泉正太郎は、美沙が月五十万で囲ふホストの元木健、ベンツSLK350をおねだりする。
 NSP“ニュー・関根和美・ピンク”2012年第二作は、遂に関根和美が今上御大小川欽也、そして大御大小林悟に連なる御大領域―何だそれ―に足を踏み入れたのかと別の意味で震撼させられる、ネガティブな問題作。兎にも角にも別にしたい訳ではないが特筆すべきは、最早画期的とでもしか評しやうのない物語の薄さ。美沙に背中を押される形で、リエは野田との関係を深めて行く。尺も折り返し点を既に跨いだ時点で、大阪出張に偽装した不倫旅行に行かないかと野田が箱根湯本行きの旅行券を持ち出した際には、まさかの伊豆映画シフトかと慌てかけたが、幸か不幸か、今回「花宴」にまで足を伸ばすことはなく。その内にさやかが旦那の火遊びを察知しもするものの、それにしても派手に仕出かすことすらない始終は、淡々と、いつそ詫び寂びの風情でも錯覚してみればよいのかと自棄のひとつも起こしたくなるほどに、一向に盛り上がりを感じさせぬまま淡白に進行する。実際に行きはしない箱根より帰京、リエが野田を伴ひ帰宅したところ、野田に渡した合鍵を元に忍び込んでゐたさやかが待ち構へる、などといふ現実問題としてはホラー映画ばりにオッソロシイ局面をも、水の明後日から一昨日に流れるが如くサラリと通過。挙句に着地する人を小馬鹿にしたかのやうなラストには、逆の意味で度肝を抜かれた。下元哲主導の出し抜けな大排泄が火を噴くころさへなく、何もかにもが不足した稀薄が、グルッと二、三周して暴力性の領域にをも到達しかねない、あくまで消極的な衝撃作。今作唯一の白眉を強ひて論(あげつら)ふとするならば、インストラクターであることが後に語られるさやかが、リエと野田の逢瀬の合間薮蛇にエアロビクスで飛び込んで来るショットの、頓珍漢な強度くらゐか。今回のNSPは最終的にドライなビートは小林悟に、一本映画を観終へてゲンナリと打ちのめされる妙な敗北感は、小川欽也に通ずる。

 コッソリ備忘録的付記< 明々後日に開眼したリエV.S.美沙からレンタルホストした元木戦がオーラス、野田とは終りでええんかいな


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