真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「トルコ行進曲 夢の城」(昭和59/《株》にっかつ・《株》ISM いずみプロ提携作品/配給:にっかつ/監督:瀬川昌治/脚本:田坂啓/原作:広岡敬一『ちろりん村顛末記』/企画:山田耕大/プロデューサー:高畠久/アシスタントプロデューサー:桜井潤一/撮影:米田実/照明:田島武志/録音:宮本久幸/美術:徳田博/編集:井上修/助監督:加藤文彦/製作担当:栗原啓祐/選曲:佐藤富士男/主題歌:奈美悦子『アリスのテーマ』/出演:奈美悦子・鈴木ヒロミツ・沢井孝子・山口千枝・勝部演之・小林稔侍・上野淳・芝三郎・乱孝寿・章文栄・竹田恵利子・川田淳子・村山竜平・高山大樹・中山竜二、他・鈴木ヤスシ・朝比奈順子)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か、クレジットの分厚さに惨敗する。
 雨中の高速道路、路肩に適当に停めた一台のセダンの中で、全裸のカップルがカー・セックスに燃える。事後、スケコマシの小寺清(上野)が雨上がりの空気を吸ひ一息つく隙に、未だ少女のあどけなさを残す大塚たまえ(山口)は車を脱出、裸足のまま逃げる。後部座席には息子の秀夫(中山竜二/子役特記は確かなし)を寝かしつけた本庄喜一(小林)のトラックを拾つたたまえは、滋賀県大津市雄琴のトルコ街、通称「ちろりん村」を目指す。車がちろりん村に突入するところでドカーンと豪快にタイトル・イン、ラブホテル並みの大型店が林立し、パチンコ店感覚のネオンサインがバリバリに煌く威容に圧倒される。これが特殊浴場なのか、ラスベガスも髣髴とさせる初めて目にする光景に素面で驚いた。軽く調べてみると全盛期ほどではないにせよ、雄琴の今はソープ街は依然健在であるといふ。狭い日本にも思へて、案外世間は広いものだ。
 いはゆる三輪車を展開するマヤ(沢井孝子/もう一人の嬢と客役不明)が相方を蚊帳の外に一人猛ハッスルするオープニング・クレジット明け、その日が最後の、トルコ嬢暦通算七年雄琴三年のアリスこと本名大塚さきえ(奈美)が、店長の岸田隆男(勝部)が見守る中仕事部屋を綺麗に掃除する。綺麗な筒井康隆といつた風情も漂はせる、勝部演之の色気のある渋さが地味に堪らない。さきえは客として出会つた本庄と結婚し、足を洗ふことになつてゐた。さきえと、猛烈に字義通り肉食するマヤの打ち上げ後、それは一体何の金なのかさきえが妹分のマヤに託した二千万の預金通帳の入つた手鞄を、家出少女風の女が引つ手繰る。直ぐに女を捕まへ、平手二閃手鞄を奪還したさきえは驚く、少女が故郷に残して来たといふか事実上は捨てた、父親は違へど妹のたまえであつたからだ。何時しかモップスの伝説も遥か昔、鈴木ヒロミツが主導する基調喜劇の合間合間にさきえの壮絶な過去が挿入される大所帯を、トレース可能な配役方面から大雑把に整理すると、大きなグラサン越しには佐々木基子に酷似する朝比奈順子は、マヤがアリス姐さんの次に相棒に選んだ、インテリ気取りのデラシネのデラさん。鈴木ヒロミツは自称経営コンサルタントの徳川康太郎、投資を偽りマヤから金を引き出したその足で、扮装を変へると作家くずれの風を装ひデラを訪ねる、要は詐欺師である。ミミ・ナナ・リルとされる章文栄・竹田恵利子・川田淳子は、多分泡姫要員か。さきえは女子高生時代、母・光子(乱孝寿/濡れ場レス)の再婚相手(不明)から日常的に犯された末に、遂に家を出る。総額数千万の金を仕送りして来たさきえは本庄との結婚も機に、実家とは完全に縁を切るつもりであつた。さきえが放逐したたまえは、即座に小寺に再捕獲。さきえの部屋に乗り込んだ小寺はシャブ中で、たまえの太股にも大量の注射痕があつた。そんな中、さきえの元ダニ・生野修二(鈴木ヤスシ)が、たまえを追ひ雄琴に現れる。近年も舞台制作で瀬川昌治と行動を共にする村山竜平は、エピローグのマヤ誕生日パーティーに、遅れて顔を出す男。
 松竹の「旅行シリーズ」で知られる喜劇映画の妙手・瀬川昌治の電撃ロマンポルノ参戦は、当時的には衝撃を以て迎へられた事件であつたらしいが、清々しく開き直ると当方の筆先三寸に満たぬ射程からは遠く外れた出来事につき、潔く頭を垂れ通り過ぎる。しなやかでしたたかな女達の生き様を描いた、最終的には陽性の悲喜こもごもの人情劇、を予想した小生の怠惰は、ものの見事に完膚なきまでに粉砕された。生活と引き換へに実母からも見捨てられた形で、義父に犯され続けた挙句に泡風呂に沈む。漸く平凡な幸せを掴みかけたのも正しく束の間、転がり込んだ捨てた筈の妹はシャブ漬けで、挙句に忌まはしき過去のしがらみが迫り来る。本格の重低音がバクチクするさきえの物語の情容赦ない悲愴さに、想定外を超えた強度で圧倒される。無体極まりないラストも、ニューシネマのやうなそれはそれとしての鮮烈さといふよりは、何もそこまでと感情移入を拒絶されたショックの方が先立つ。奈美悦子主演のロマンポルノなんてあつたんだな、その程度の軽い気持ちで小屋の敷居を跨ぐと、喜劇どころか牙を剥かんばかりの瀬川昌治の辣腕にズタズタに切り裂かれかねない一作。単純な面白い詰まらないでいふと文句なく面白いのだが、取扱注意の劇物映画である。

 観客をどん底に突き落とすラスト< 本庄との待ち合はせ場所に先に到着したさきえが、小寺の車に轢き殺される


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