真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「お色気女将 みだら開き」(2012/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:永岡俊幸/音楽:與語一平/監督助手:奥村裕介/撮影助手:酒村多緒/出演:かすみ果穂・倖田李梨・青山遥・なかみつせいじ・松浦祐也・久保田泰也・毘舎利敬・岩谷健司)。
 床オナニー明けか、お気に入りの俳優のブロマイドとバイブを両手に乳も露な永田百合子(かすみ)が目覚めると、傍らには全裸の中年男(岩谷)が。「誰?」といふ問ひに対し答へは「神」、万物の摂理に従ひ釣られてみせるが、ドリフの神様コントか。「キャー★」長く絹を裂く百合子の悲鳴に多分板前の新田恵三(松浦)と仲居の高井真実(倖田)、百合子の父親で熱海温泉「竜宮閣」支配人の祐也(なかみつ)が順に吃驚してタイトル・イン。百合子と大好きな毘舎利敬(ヒムセルフ)とのイマジン噛ませ、駆けつけた三人に、何故か神の姿は見えない。すは気が触れたものかと、祐也は病院に、真実はお祓ひに、そして御丁寧にも往来で半ケツまで披露する新田が百合子をホテルに連れて行かうとする―新田は連れ込まうとする―三段オチが、完璧な強度で決まる。諸方面からのNGで足を洗つてゐた筈の、「痴漢電車 とろける夢タッチ」(2010/主演:和葉みれい・かすみ果穂)に於ける写真出演は措いておくとして、「人妻探偵 尻軽セックス事件簿」(2009/主演:かすみ果穂)以来の電撃ピンク帰還を遂げた松浦祐也の、別の意味でのダウナー演技が爆発的に面白い。当時オーピーサイドの物議も醸したらしい、「不倫同窓会 しざかり熟女」(2008/主演:佐々木麻由子)で使用した鷹の貞治のギミックも実装。百合子出産と同時に妻(遺影役不明)とは死に別れた祐也と、何時しか男女の仲にもある真実の一戦挿み、新田が天真爛漫な煩悩を放散させるチキンライスメレンゲ添への一幕では、かすみ果穂が完全に松浦祐也の芝居に笑つてしまつてゐるのが微笑ましい。雑誌の岩谷健司インタビューを目にした神が岩谷を名乗る―特に呼称される訳でもないのだが―ことにする一方、境内で身を起こした毘舎利敬と瓜二つの鬼原明男(無論毘舎利敬の二役)が、何某かの期限の一週間前らしく起動する。ここで見切れる男児は、現地調達したのでなければ小松公典御子息の愛称ヒビキック君か。
 岩谷さんは神を神とも思はぬ―実に日本らしい、だから八百万の神々と、唯一神とを同じ漢字一文字で表さうといふのが土台無理な話なのだ―百合子に、竜宮閣への客引きをさせられる始末に。久保田泰也は、折角豪華ホテルを予約してゐたにも関らず、岩谷さんに竜宮閣に要は拉致される渡部万里夫。真咲南朋によく似た青山遥は、渡部とお泊りする暴力女・杉浦美紀。ラスト新生竜宮閣チェック・アウト客役で顔を見せる小松公典の連れは、そこまで偽装することもないパンッパンに着込んで不審な倖田李梨。
 六月初頭にして最速の第三作は、2012年の竹洞哲也が初日を出した豊潤で強靭な一作。序盤はかすみ果穂の下に―かすみ果穂にしか見えない―岩谷健司がスッ裸で降つて湧くいふならば災難を、なかみつせいじ×倖田李梨そして松浦祐也、現状これ以上の組み合はせが俄には夢想すらし難い三連星がビッグ・バン級に膨らませる呵々大笑のジェット・ストリーム・コメディ。投入するタイミングはギリギリの、三番手の果てしなく長い濡れ場が中盤を支配。潮目を力技で変へるや今度はかすみ果穂を間に挟んだ岩谷健司と毘舎利敬が息の合つたラリーで、ユーモラスでありつつ正攻法のエモーションを終盤に叩き込む。公称でも公開当時二十七歳のかすみ果穂が、劇中二十四は些か苦しいやうに思へなくもないが、細かいことは気にするな、寧ろ滲み出て来た色気に蕩けろ。笑かせて惚れさせて、気が付くとじんわり心に染み入る。松浦祐也大復活の勢ひに乗り、そのままハッチャケ倒してみせるものかと思ひきや、文字通り神々しい一大正面戦には予想外も越え狙ひ通りに撃ち抜かれた。フィニッシュがガチャつくゆゑ―二人目のヒムセルフ要るか?―傑作とまで激賞するには当たらないにせよ、大胆な構成で全方位的に心豊かに楽しませる娯楽映画の良作、心地良い完敗を認めるばかりである。
 ラスト・ショットは金玉目線のパイズリ、といふポルノ映画史上画期的に新しい視点ではあるものの、実際には単なるオッパイのアップに止(とど)まり、残念ながら画的な新しさに辿り着くには至らず。

 純然たる枝葉なれど激しく感動したのが、丘の上にて百合子と、慣れぬ客引きに神様の癖にくたびれた岩谷さんがヘバッてゐるところに、画面左から祐也・新田・真実が、毘舎利敬とソックリの鬼原の来訪を慌てて伝へに来るカット。鎖鎌感覚で松浦祐也がブン回す貞治の、紐が倖田李梨の首に巻きつく瞬間に映画の神の祝福を感じた。

 備忘録< 鬼原は百合子をお迎へに来たデス神で、岩谷さんはそれを阻止しに現れた


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