真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ザ・痴漢教師3 制服の匂ひ」(1999/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/企画・脚本:福俵満/プロデューサー:深町章/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:森山茂雄/監督助手:横井有紀・栗本吉晴/撮影助手:岡宮裕/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/協力:国沢実・田中康文・長谷川光隆/出演:里見瑶子・杉本まこと・千葉誠樹・西山かおり・原田なつみ・佐々木共輔・神戸顕一・幸野賀一・かわさきひろゆき・森久美子・工藤翔子・佐倉萌・田口あい・石動三六・栗本吉晴・江本友紀・三沢由実・入江コウジ・白木努・平川ナオヒ・吉永幸一郎・北千住ひろし・瀬川ゆうじ・山本幹夫)。出演者中、森久美子以降は本篇クレジットのみ。そして幸野賀一が、ポスターには何故か川野賀一に、どうしたらさうなるの。
 千葉県館山山中、霧も漂ふ深い森。股間から夥しく流血した、女の全裸死体。
 出勤前の朝の一時(ひととき)、大木凡人ばりに眼鏡の馬鹿デカい高校国語教師の額田秀男(杉本)が、昨今巷間を騒がせる、犯したのち性器を切除する連続女子高生猟奇殺人事件を伝へるテレビ番組をぼんやりと見やる。どうでもいゝのかよかないのか、番組本篇は新たに作り込む他方で、当時実際に放映されてゐたCM映像をも、額田宅のテレビに延々と映り込ませてみせるのは全体アリなのかナシなのか。万事に引つ込み思案で本好きの額田は、同じく読書家かつ同じ電車で通学する女生徒・大前静(里見)を、教師と生徒といふ分別も忘れた領域で気にかける。こちらも物憂げな風情の静は再婚した母親が重ねて共働きで、家庭環境に問題を抱へてゐた。ズベ公の藤本奈々(西山)が、平然と鏡を覗き髪を弄るのも注意出来ない古文の授業。終始、舌で唇を妙に舐め回すメソッドを淫らに使用し続ける男子生徒(不明)の後ろの席に座る静の全裸を、克明に額田はイマジンする。そんな額田は実は、鞄に仕掛けたビデオカメラで、電車に揺られる静のスカートの中を盗撮してゐたりもした。一方、破いた証明写真(この人も誰?)を水洗トイレに流すカットを経て、額田の高校に新しい体育教師・山岡俊夫(千葉)が赴任して来る。坊主頭に口髭黒スーツと、微妙に柄の悪い教頭・五十嵐(神戸)から提出用の書類に写真が貼付されてゐない不備を指摘された山岡は、呆然とする額田を余所に、静かにではあれ異常な強度でキレる。気を取り直し額田に校内を案内される最中、屋上でラッキーを燻らせてゐた不良生徒・久光信雄(佐々木)を、山岡は早速シメる。お礼参りにとばかり、バタフライ・ナイフをちらつかせる久光を難なく一蹴した山岡に、「強い男に弱い」と公言して憚らない奈々はコロッと乗り換へる。
 配役残り、原田なつみは清々しい一幕・アンド・アウェイをキメる、額田を虐げる女王様・サヤカ。大絶賛三番手濡れ場要員が挙句重戦車かよ、といふ落胆は否み難い。やり過ぎた造形が映画の底を抜く感も漂はせる幸野賀一は、都合二度何も出来ない額田の眼前静を電車痴漢する、ジャンキーのやうなパンクス。シリーズ前作に続き渋い重量感を発揮するかわさきひろゆきは、事件の捜査に校内にも入る刑事。
 「ザ・痴漢教師」第三作は、池島ゆたかにとつては前年の「脱がされた制服」(脚本:福俵満/主演:立川みく)に続く二作目。前回の魔王然とした獣慾の権化から一転、今回杉本まことが演ずる主人公は殆ど自閉的なくらゐに気弱かつネガティブな変態で、それに伴なひ、痴漢教師から盗撮教師へと微妙な路線変更も果たしてゐる。互ひに読書家の変態盗撮教師と薄幸系の可憐な女子生徒とのそれはそれとしての純愛物語に、正体不明の猟奇殺人鬼を絡めた構成を採つてはゐるが、兎にも角にも、最早サスペンス志向そのもののそもそもな不存在さへ疑はせるほどに、ノー・ガードな山岡のある意味大活躍が、元来サブ・プロットの筈にも関らず完璧に映画を寄り切つた印象は強い。千葉誠樹が松田優作のエピゴーネン的演技を駆使する、物騒にもグルカナイフまで持ち出した“偽”山岡が暴れ倒すパートは力を有する反面、静が額田とそれでも結びつくエモーションは、決して強くはない。土台額田自体の非力に加へ、パンク幸野や盗撮の一件を経てなほ、静が自ら裸身を晒し額田に―多分―無垢の身を委ねるに至る説得力は、だつてピンク映画なんだもんといふ納得の仕方を肯じないならば、必ずしも無理なく呑み込める筋合のものでもない。直接の加害行為としては兎も角、死体に関しては結構気前よくスラッシュし、山岡が暗い廊下を引き摺る、実際の容量よりは随分と小さくも見えるバッグの口から、捕獲された女の手先だけ覗くショットのショック性も素晴らしい。ラストの二段オチの、冗長な二手目には如何にも池島ゆたからしい野暮つたさも窺へるとはいへ、千葉誠樹の側から見るならば、従来の予想に反し見事に本来主演の杉本まことを喰つてみせた、逆転劇を華麗に演じた一作とも評し得るのではなからうか。

 夥しいその他俳優部は、主には電車の乗客と、こちらが兎にも角にも数の多い生徒先生込み込みで校内要員。明確に確認出来たのは、事件を扱ふテレビ番組の中で、適当な講釈を垂れるコメンテーターの石動三六と、山岡から校則違反の携帯電話を没収される女生徒役の佐倉萌のみ。佐倉萌の少し前に、同じく荒れ気味の校内カットに見切れる、スティックで廊下の床を叩きドラムの練習をするマスク男が平岡きみたけに見えたのだが、クレジットに平きみの名前は見当たらない。工藤翔子にせよ北千住ひろしにせよ平川ナオヒ(a.k.a.平川直大)にせよ、見れば判る筈なのだが全く気づけなかつた迂闊は無念。ところで今作、2002年に既に一度新版公開済みではあるが、その際の新題が四文字ジャストの「淫行教師」だなどといふのは、シンプルないし最短距離といふより寧ろ単にぞんざいである。


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