真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻教師 レイプ揉みしごく」(2010/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/出演・制作・脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明夫/照明:小川満/音楽:サウンド・チィーバー/美術:大海昇造/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/助監督:関谷和樹/撮影助手:河戸浩一郎/照明助手:八木徹/演出助手:後鳥羽上皇/スチール:佐藤初男/タイトル:道川昭/衣裳:MIKIレンタル衣裳/小道具:石部金吉/車輌部:花椿桜子/協力:劇団ザ・スラップスティックス、明治大学演劇学専攻OB会/出演:艶堂しほり・桜田さくら・扇まや・なかみつせいじ・山科薫・吉野正裕・土門丈・筋肉満太郎・生方哲・周磨要・中村勝則・吉崎洋二・太田春泥・林与志士・鎌田一利・田黒武男)。
 定時制高校教諭の艶堂しほり(彼女自身)は、煮詰まつた作家の夫・義弘(なかみつ)の晩御飯の支度を済ませると、凡そ教師らしからぬ扇情的な下着も露な着替へを披露した上で出勤する。しほりの学級には、中卒で重病の母を抱へ、なほかつ絶賛校則に触れるキャバクラでアルバイトしてゐたりもする三重苦学生の真咲美紀(桜田)、制服もないといふのに何故かこの期に詰襟の学生服で通学する、国立大学法学部への進学を希望する吉野健児(吉野)らが居た。出演者中、文化祭でのクラス演目にグレン・ミラーの楽曲演奏を提案する台詞も与へられる土門丈と、クレジット上明らかに一線を画される生方哲以降は、平然と筆を滑らせてのけるが商業映画の片隅を飾るには貧相どころの騒ぎでは済まない、オッサンだらけのその他生徒達。主にファンを中心に掻き集められた面子で、ピンク映画にエキストラに割く袖など0.7分もなからうことなど重々承知してゐるつもりではあるが、ここは矢張り、超えられなくともそれでも超えて行かねば、その先が開けては来ない壁に違ひあるまい、截然と難ずるが全く画になつてゐない。話を戻して、授業を開始し板書するゆゑ教師が背を向けるなり中座した美紀を、しほりは気にかける。バイト先の、明美(扇)がママを務める店の常連客でもある教頭の種村(山科)は、校則違反による退学を盾に、美紀に肉体関係を強要してゐた。だからといつて、選りにも選つて熱血女教師の授業中に、これ見よがしに事を致さねばならぬ相談にはないのだが。斯くいふ次第で、とかく無造作で不自然な一作ではある。用心棒(筋肉)を伴なひわざわざ来校した明美に種村が無防備に語つた、学校の運営資金を着服しその金で明美の店等で遊んでゐるとの会話を立ち聞きしてしまつた美紀は、しほりに報告する。一旦は種村の告発も思ひ立つたしほりではあつたが、後に美紀や吉野を種村らからの手から守るために、握つた経理帳簿を利用する戦略に方針転換する。それはそれとして、しほりの申し出に従ひ、義弘は自信作を新栄出版―それはよもや新田栄の名前から採つたのか?―編集者の、春山(清水)の下へ持ち込むことを決意する。春山はかつて処女作を出版して呉れはしたものの、その後には義弘の原稿を盗用し、自身の名義で出版してゐた。一方、種村はしほりらを纏めて始末するべく、しほりを強姦し、それを吉野の仕業にする杜撰な姦計を巡らせる。ところでビリングは女優三番手とはいへ、よもや扇まやは脱がないだらうと踏んでゐたところ、対種村戦に於いて肛門性交といふ形で、尻だけならば見せる。ある意味、さういふ回避の方策は、秀逸であるといへなくもない。
 前々作より六年ぶりのまさかの前作「愛人熟女 肉隷従縄責め」(2008)から、更に二年ぶりとはいへ概ねコンスタントな次作といつて語弊もなからう清水大敬の最新作はとりあへず、終始主人公以外の登場人物の多くが、狂騒的かつ闇雲に喚き散らし倒す、ことは最低限ない。それは要は、甚だしいマイナスが、若干ゼロに近づいたといふだけの話でしかないのだが。尤も、春山に力ない対決を挑んだ義弘は、何が何だか釈然としない遣り取りの末に、それでも何が何だかまるで共感不能な勢ひで打ちひしがれると、大量の錠剤をアルコールで服薬し自死する。その一件を機に純文学編集者から風俗ライターへと画期的に格下げされた春山が、逆恨みの末に種村一派に加はつたほかは諸々の要素が、清々しく脈略もないまゝに正しく羅列されるばかり。結局何となく右往左往した展開が、その内にやれやれと尺を尽きる。間違つても望んでゐる訳ではないが清水大敬らしいアクの強ささへ感じさせない、最早別の意味で輝かしいまでにぼんやりぼんやりした漫然作である。そもそも、経理書類の処遇を軸とした種村ら悪党の顛末が、一切通り過ぎて済まされる辺りはネガとポジとが反転した地平で感動的だ。黙つて観てゐれば―寝落ちなかつた場合―消極的にくたびれるばかりのところだが、時勢にも思ひを馳せるに、改めて何でこんな代物を撮らせてゐるのかと、そこから薮蛇な腹も立ちかねない。

 そんな中、唯一明後日に気を吐くのは吉野。“ボクの好きなポエムです”と称して都合二度振り回す一節が、「涙は人間が作る、世界で一番小さな湖」。この煌かなくどうしやうもないダサさは、確かに清水大敬の仕事ではある。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )