真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女囚房 獣のやうに激しく!」(1999/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐賀宗/撮影助手:西村友宏/照明:多摩三郎/照明助手:ゴンリ/助監督:高田亮・古賀正敏・村上宣敬/製作担当:真弓学/メイク:パルティール/スチール:本田あきら/編集:金子尚樹 ㈲フィルムクラフト/タイトル:道川昭/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:かとうみゆき・里見瑶子・佐々木基子・篠原さゆり・扇まや・山内健嗣・熊本輝生・岡田謙一郎・坂本大地)。今更ながら脚本の国見岳志は、勝利一の変名。当然ではあれ、知らないことがまだまだ多い。
 とある山荘、散乱する札束に頬擦りしつつ、一組の男女が情痴に戯れる。傍らには物騒にも、口径のデカい回転式拳銃が。女は元都市銀行行員の藤浦智江(かとう)、男はヤクザ者のスケコマシ・島本功一(山内)。智江は島本の手引きで、十億もの金を横領してゐた。山荘の表にセダンが停まり、サングラス姿の男四人が銃を手に降り立つ。ビジュアル的には矢張りヤクザにしか見えない四人は明石三郎(岡田)率ゐる刑事で、部下の田中(熊本)が令状も提示し山荘に踏み込む。恐らく、後に登場するその他刑務官も兼務してゐるのではないかと思しき、残り二名は不明。何故この隠れ家の場所が警察に発覚したのか激しく腑に落ちぬも、島本は無造作に発砲し応戦。短いすつたもんだの末に、男を庇はうと智江は明石を刺し、その隙に乗じて島本は逃げる。乳も放り出したまゝ逮捕、その後の過程は割愛し囚人番号259番をつけられ収監された智江は、刑務所所長・山神勤(坂本)の面前、刑務官改め女鬼看守・北原栗子(扇)からあまりにもスムーズな勢ひで、身体検査と称して全裸にヒン剥かれる。智江が放り込まれた房には、詐欺罪で前科六班の囚人番号210番・石田辰子(佐々木)と、売春と万引きで前科四犯の、カットによつて囚人番号が229番と222番とを揺れ動く根岸カオリ(篠原)がゐた。勿論娯楽などない刑務所にあつて、夜な夜な百合に耽る辰子とカオリを智江は嫌悪し、当然二人はそれが面白くない。終始安普請を悪びれるでない今作にあつて、三人限りの牢に名主もへつたくれもないやうな気もしないではないが、兎も角佐々木基子が三年後の加藤義一デビュー作「牝監房 汚された人妻」に於いて再び牢名主役を演ずる旨を、さりげない沿革として採り上げておきたい。話を戻して、斯くなる次第で展開が女囚映画のフォーマットをひとまづ一通り擦(なぞ)る一方、智江が隠したとされる三億の金の在り処を巡つて、困窮を訴へる割には服装の華美な妹・いずみ(里見)や山神、山神とは男女の仲にもある栗子に加へ、出所をちらつかせられた辰子とカオリらもそれぞれ暗躍する。
 突出した部分は欠片も見当たらないと同時に大袈裟に破綻する訳でもない、最大限度によくいへばオーソッドクスな女囚サスペンス。殊更新味も感じさせない物語が一応滞りなく進行する反面、そこかしこで花開く微笑ましい綻びがチャーミングな一作ではある。生意気な新入りに、辰子とカオリは挨拶代りに前科の数を誇る。至極全うにその底の抜け具合を指摘する智江に対し、カオリが「そ、それもさうだけど・・・・///」と素直に狼狽する珍台詞は妙に可愛らしくて可笑しい。公開当時m@stervision大哥が大いに難じてをられる、立会ひの刑務官もゐる面会室で、いずみがのうのうと三億の件を切り出す無神経さはここではさて措き、都合二度の内二度目の面会シーン。展開の鍵を握る重要アイテムの筈であるネックレスの、地表に露出した起爆装置ともいふべき無防備な底の浅いも通り越した上げ底ぶりには、清々しいまでの頓着のなさに寧ろ感動した。あちらこちらの躓きで一切合財を全否定するや否やは落とした木戸銭を形とした各々の自由として、ある意味といふか逆の意味で、これ見よがしなまでに明確なツッコミ処は、それはそれで明後日にポップであるとさへいふのは、幾ら何でも映画に対して甘過ぎるであらうか。三億円といふいはば切り札を塀の中にあつても握る智江が、栗子との優位劣位を逆転させるドラマなどは、素面で劇映画として買へるやうな気もしないではないのだが。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )