赤襦袢レズ －熟女こすり合ひ－

　「和服熟女レズ　淫心不乱」（2002『赤襦袢レズ　－熟女こすり合ひ－』の2009年旧作改題版/製作：サカエ企画/提供：Xces Film/監督：新田栄/脚本：岡輝男/企画：稲山悌二/撮影：千葉幸男/照明：高原賢一/編集：酒井正次/助監督：高田宝重/音楽：レインボーサウンド/監督助手：北村隆/撮影助手：池宮直弘/照明助手：石井拓也/効果：中村半次郎/出演：京野まどか・風間今日子・相沢知美・椎名みなみ・柳東史・なかみつせいじ・丘尚輝）。出演者中丘尚輝は、本篇クレジットのみ。
　東西薬科大学数学教授の田口隆三（柳）と結婚したちとせ（京野）は、事の最中に数式のヒントを得ると、そのまま妻を放り出し生殺しにしてしまふ夫に閉口する。夫婦生活に不満を抱いたまゝ北村女子大の同窓会に出席したちとせは、今は女流写真家の牧野晴美（風間）と再会する。同窓会風景のカット、後姿しか見せずにちとせと談笑する女が誰なのかは、スタッフの中に女名が見当たらないこともあり完全に不明。さうではないかと目を凝らしはしたものの、後述にて触れる、佐々木基子ではなかつたやうな気がするのだが。丘尚輝は、会場に見切れるボーイ。二人だけの二次会だと晴美が既に没した親から譲り受けた屋敷に招かれたちとせは、晴美の勧めで写真を撮つて貰ひながらも新田栄必殺の手際良さで、ビアンなのか晴美からの求めに応じ百合に及ぶ。かういつた辺りの新田栄の超速は、もう少し正方向に評価されていいのではないかと時に思ひ違ふ。隆三には満足に構つて貰へない分、ちとせは晴美との関係に溺れる。さうすると現金なもので元来淡白な隆三も隆三で、新しく出来た女友達に妙に距離の近い妻に、不安を覚えるやうにもなる。
　派手な金髪に激しく首を傾げさせられる相沢知美は、単位目当てに田口教授に接近する、就職も決まつた女子大生・結城智子。心に隙間を抱へた隆三は、まんまとハニー・トラップに陥落する。一方ちとせは晴美に、着物の着付けを乞はれる、意表を突いた和服姿で結婚式に出席したいのだといふ。何故か潤沢にも四番手の椎名みなみは、その式場で晴美が知り合ふと、ちとせと姉妹の契りも交した筈なのに火遊びした挙句財布まで持ち逃げされる間男ならぬ間女・宮沢和代。なかみつせいじは、田口と智子の不倫を知ると、そのことをネタに接触を図つたちとせを手篭めにする大学職員の西村昇一。
　椎名みなみとなかみつせいじは純然たる濡れ場要員に止（とど）まる、といひたいところではあるのだが、それどころではない。全員濡れ場要員に過ぎないといつても然程過言ではなからう、満足な物語も存在しないじまひに、延々と濡れ場が連ねられるのみのストレートに漫然とした一作。さうなると、今でいふとリアルに淡島小鞠のお母さんのやうな主演女優に決定力がどうしても不足してゐる分、どうにもかうにも苦しい。組み合はせが五通りもある割には訴求力にも求心力にも乏しく変り映えを欠いて映る絡み絡みの海に溺れ、睡魔に抗ふことを強ひられるばかり。最大の敗因は、唯一の突破口たり得る風間今日子の相手を務めるのが、京野まどかと椎名みなみでしかない点であることは間違ひあるまい。柳東史はまだしもなかみつせいじに至つては、完全な無駄遣ひだ。

　同じことを繰り返し書くのも下手に思ひ込んでゐるやうにも思へたので、慎重に全篇を通して耳を傾けたものだが、矢張りどう聞いてもちとせのアフレコは京野まどかではなく、クレジットは一切ない上で佐々木基子がアテてゐる。隆三や智子らが通ふ東西薬科大学は門に掲げられた看板まで登場するので大丈夫なのかと心配したものだが、何のことはない、実は実在しない、よくあるところでは城南大学の類であらうか。