真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「浮気相姦図 のけぞり逆愛撫」(2008/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:ちばてつや/撮影助手:河戸浩一郎/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:夏川亜咲・青山えりな・川瀬陽太・西岡秀記・山口真里)。監督助手のちばてつやは、確かにちばてつや。どのちばてつやかは兎も角。
 休日の江口家、由美子(山口)がオークラ商会テレビ・ショッピングが紹介する二十万弱の人造ダイヤ指輪に琴線を激弾きされつつ、頻発する地震の影響か、次々と報告される自然界の怪現象を伝へるテレビ番組を見やる。番組中、適当な講釈を垂れるオーピー大学の永井教授は当然永井卓爾。何時までも寝てゐる夫・達彦(川瀬)を叩き起こさうとしたところ、今しがた垂涎したばかりの指輪を見つけた由美子は驚喜。その日は、由美子と達彦にとつて十回目の結婚記念日であつた。どうにも訳アリらしく奥歯に物を挟めた達彦が狼狽する一方、夫がスイート・テン・ダイヤモンドを用意して呉れてゐたものと脊髄反射で喜び勇んだ由美子は、すは祝ひの買ひ物にと飛び出して行く。渡邊元嗣の熟練も当然あるのであらうが、このシークエンスに際しての、先走る山口真里とうろたへる川瀬陽太といふ配役が超絶に鉄板すぎる。指輪を奪はれ、残された達彦が一人頭を抱へる江口家に、達彦の会社の派遣社員で、不倫相手でもある瀬川瑠加(夏川)が堂々と乗り込んで来る。その日は江口夫妻の結婚記念日であるのと同時に、瑠加にとつては誕生日であつた。達彦が由美子に買つた、訳ではない指輪は自分への誕生日プレゼントに違ひないと、本妻に対する敵対心を俄然燃やす瑠加は、何時由美子が帰つて来るか気が気ではない達彦はバッサリ黙殺、強引に事に及ぶ。ともあれ二人が絶頂に達した時、又しても地震が!地震のエネルギーとエクスタシーが共鳴したとかで、何故だか被雷でもしたかのやうなナベ映画御馴染みの臆面もないイメージとともに、二人の意識は互ひの肉体を入れ替る。意外なことに、瑠加を演ずる川瀬陽太よりも、達彦に扮する夏川亜咲の方が若干長けてゐるやうにも映つた。すつたもんだしながらも、一旦仕方なく我が家を後にした瑠加の器に入つた達彦を、矢張り会社の同僚で達彦にとつては学生時代空手部の後輩に当たる里田学(西岡)が呼び出す。達彦は全く知らなかつたが、瑠加は里田とも関係を持つてをり、瑠加からの返事はまだなものの、しかも求婚すら受けてゐた。ところで達彦が一体何のために用意したのか依然不鮮明な指輪のサイズは、由美子には太すぎて、かといつて瑠加にも合はなかつた。山口真里に太いものが、夏川亜咲にフィットする訳なからう、などと筆を滑らせると怒られてしまふか。
 前作のテーマが「あの人の記憶が私の中に」であつた渡邊元嗣2008年第五作はオーソドックスな、いはゆる「おれがあいつであいつがおれで」もの。タイトル中“逆愛撫”なる謎の単語は、ここで活きて来るのか、魚雷のやうに秀逸だ。ところで更に前々作はといふと、宇宙人との異文化交流SF恋愛映画。ナベ飛ばしすぎだろ、世の中はもつとこの人に追ひ着くべきだ。里田は事件の核心からは蚊帳の外のいはば濡れ場要員に、上へ下へといふか、腰から下へ下への大騒ぎを加速させるどころか爆裂させるのは、何処にどういふ形で飛び込んで来るのか全く読めなかつた青山えりなの処遇。結果論としていふと、こんなの絶対に読めねえよ。達彦の器に入つた瑠加が、ワン・ボックスの謎の二人組(永井卓爾の二役ともう一人は不明)に拉致された時には、二つの肉体間の意識の入れ替りなどといふ超常現象を果たした二人に注目した、何某かの大きな組織が動き出したのかと早とちりした。といふか、さういふ十二分に底の抜けた飛躍の方が、まだしも映画的には論理的であらう。唐突極まりないといふ印象も力で捻じ伏せる華麗な平井沙織女王様(青山)の暴れぶりには、木に竹を接ぐ頂点を極めてたのかと爽やかな感動さへ覚えかけたが、実は恐ろしいのは、指輪の去就の落とし処からみるに、沙織のポジションも最初からの計算に入つてゐる点。さうなると逆に、それとなくでも達彦の特殊性癖を匂はせる、エッセンスを伏線として配しておいて欲しかつた心残りは、正直残らぬでもない。とはいへ、エピローグの「おれはおれなんだけどあいつがこいつでこいつがあいつで」といふオチまで抜群の勢ひで一息に見させる、スラップスティックの快作。ウィズ魂が唸りを挙げる各種ギミックを随時駆使してみせるのに加へ、展開上当然の要請としても締めには麗しき巴戦を持つて来た濡れ場並びに構成の充実も、勿論桃色に輝く。現時点では第一作「バツイチ熟女の性欲 ~三十路は後ろ好き~」を観落としたのが激越に心惜しいが、少なくとも以降の2008年渡邊元嗣は、猛烈な絶好調を維持した格好になる。2009年もロック・オンして追ひ駆けて行くぜ、もう直ぐ2010年だけど。

 元に戻つたのは達彦だけである以上、この騒動が最終的な結末を迎へたとは、必ずしもいへまい。となるとここは、二作に重複する西岡秀記の扱ひは適当に気にしない上で、北嶋三兄弟の“これは又、別のお話”と絡めた物語を、流石に六十分の枠には納まりきらぬであらうから、いつそのこと思ひ切つてナベが満を持して殴り込む一般映画として観てみたい。なんて思つてみたりもしたのだが・・・・しまつた、 華沢レモンがゐねえよ!


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