真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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エッチな襦袢 濡れ狂ふ太もも
池島ゆたか
/
2009年12月08日
「
エッチな襦袢 濡れ狂ふ太もも
」(2009/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:後藤大輔/撮影照明:長谷川卓也/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:大江泰介・桜井伸嘉/編集助手:鷹野朋子/協力:鎌田一利・内藤和之・Bar SWAMP/タイミング:安斎公一/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/現場応援:田中康文・竹田賢弘/出演:日高ゆりあ・野村貴浩・真咲南朋・上原優・なかみつせいじ・柳東史・竹本泰志・山名和俊・アキラ《子役》・中川大資/special thanks:石動三六・平川直大・田中康文・竹田賢弘)。
バーテンを作造(なかみつ)が務めるSWAMPのカウンターにて、左右両隣を課長代理の石動三六と、部下で三谷幸喜似の竹田賢弘とに挟まれた花畑愛子(日高)が、最近オッパイが大きくなつただの何だの、ゴミのやうな会話でキャイキャイ盛り上がる。月亭可朝の「嘆きのボイン」を自称といふか要は査証二十三歳の愛子が知つてゐる点に関し、石動課長
代理
が意外に思ふ件について。愛子の嘘の外堀といふ趣向は脚本上の論理性として酌めるが、些かの躓きも感じざるを得ない。四捨五入するとエフジューの私にとつてみても、個人的には大槻ケンヂの第一期オールナイト(ニッポン)経由で知つてはゐるものの、昭和44年発売の「嘆きのボイン」は生まれる前で、当然リアルタイムではない。持ち出したギミックが、如何せん些か古すぎよう。話を戻してそんな三人の姿に、カウンター右隅から幸之助(野村)が恨めしげな視線を送る。心因性の下痢で高校教師を退職後身を崩し、今は闇金取立て屋の幸之助は、その日の昼利息も入れない山名和俊を追ひ込んでゐた。土壇場で例によつて猛烈な便意に襲はれ、公衆トイレに駆け込む際幸之助はその場にセカンドバッグを置き忘れ、山名和俊に五百万持ち逃げされる、そのことで幸之助は暗鬱と頭を抱へてゐたのだ。翌日からどうにか工面した残りの三百万の金策に幸之助は追ひ詰められるのだが、当然ヤサも把握してゐる筈の、山和の身柄を押さへればよくね?といふのは気の所為か。ともあれ、酒の勢ひでその夜一夜をともにした二人は、愛子は田園調布のお嬢様、幸之助は幸之助で成城の御曹司と素性を偽る。そもそも、田園調布のお嬢様と成城の御曹司とが、西荻窪の安酒場で出会ふのかよ。などといふ和心に潤ひを欠いた疑問を持つのは絶対に禁止だ。
配役残り、戯画的な強面ぶりが清々しい柳東史は、幸之助の凶悪な兄貴分・勝俣、この人の演技の幅も縦横無尽に広い。どうしても顔を覚えられない真咲南朋は幸之助が頼る元カノ・晴奈、源氏名・レイカの出張メンズエステ「古都の妻」の風俗嬢で、実は源氏名・夢千代こと愛子の同僚兼、パパと呼ぶ勝俣の情婦でもある。こゝは世間の狭さといふよりは、寧ろ重なりを感じるべきであらう。尺八を吹きながら足の指で乳首を責める、「古都の妻四方固め」をビジネスの春奈に続き後にプライベートの愛子からも繰り出された幸之助が悶絶しつつも真相に辿り着きかけるアイデアは、ピンク映画として実にスマート。こちらも役柄が180度異なるのもあり、
トロ子
の面影は全然ない上原優は、劇団員上がりである作造の恋人で現役劇団員、ついでにこの人も年齢を偽るリリコ。嘘つきの多い世界だ、実際のところそんなものか。オフ・ビートな凶暴さも感じさせる中川大資は、朴訥とした新聞勧誘員。 ex.
つーくん
のアキラは、詳細は語られないが別々に暮らしてゐるらしき愛子の息子・カオル。この年頃の子供だから当然ともいへようが、大きくなつたなあ。古い旧作を観てゐて役者の若さに震へるのとは、また全く逆方向の感興を覚えた。何しに出て来たのか感動的に判らない平川直大は、藪から棒にもほどがある路上の変質者。ワン・カットだけ、セメントマッチに旦々舎の息吹を持ち込む。大好きな『ドラゑもん』を読みながらバイクを運転中、事故死した―それは死ぬぜ、フラグを立てるどころの騒ぎではない―愛子夫の遺影スナップが誰のものなのか判らない、これ田中康文か?
その場の勢ひで嘘に嘘を重ねた男が、常態として嘘をつく女を保身のために騙さうとする。仕方のない男と仕方のない女との、他愛もないお話に最終的には終始するに止(とど)まる一作とも、概ねいへたのだが。オーピーらしからぬ以前に闇雲なスラッシャー描写を通過した野村貴浩が姿を消した一年後、石動
課長
らが既視感を濃厚に漂はせるSWAMPに再び姿を現す竹本泰志が超絶。ぎこちなさ演技と含み綿の他に、撮影・照明も含めてどういつた技法を用ゐてゐるのかまでは判らないが、絶妙に“術後”に見せる映像マジックが凄まじい。ピンクのローを超えたノーともいへるバジェットの中から、通常予想される特殊効果の類を繰り出す余地など、霞ほども発生する訳がないのだ。物語総体としては然程の威力も感じられず、依然冷静になつてみるとさうなることの作劇上の必然性も実は必ずしも感じられないまゝに、助演男優賞の大本命として敢然と飛び込んで来た竹本泰志の印象は、鑑賞後も強く残る。
ところで、最後にさりげなく重大なトピックに触れておくと、あれ?
神戸顕一がゐねえぞ!
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