真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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福まんの人妻 男を立たす法則
松岡邦彦
/
2009年12月24日
「
福まんの人妻 男を立たす法則
」(2009/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:亀井戸粋人《エクセス・フィルム》/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/助監督:新居あゆみ/監督助手:府川絵里奈/撮影助手:松宮学・重田学/照明助手:大橋陽一郎/編集助手:鷹野朋子/選曲:山田案山子/応援:関谷和樹/出演:伊沢涼子・夏川亜咲・倖田李梨・吉岡睦雄・小林節彦・世志男/友情出演:柳東史)。実際のビリングは、小林節彦と世志男の間に柳東史を挿む。
結婚式場の新婦控室、結婚は二度目にして、初めての式に挑む旧姓大沢和恵(伊沢)は満面の笑みを浮かべ、そんな母親を、身支度を手伝ひながら娘の恵美(夏川)も祝福する。二人の傍らには、場違ひな札束。和恵は宝くじで一億を当て、その金でこれまでの人生をやり直すのだ。するとそこに、古川六郎(小林)の制止を振り切り元夫の登(世志男)が、せめて手切れ金だけでも貰へまいかと無様に現れる。そんな登を蹴散らすかのやうに、新郎の渡辺巧(吉岡)も登場。吉岡睦雄の底の抜けたハンサムぶりが、演出意図をさりげなくも明快に伝へる。式の直前だといふのに、堪へきれない二人は諭吉先生を浴びながら初夜を前倒す。のはひとまづいいとして、一箇所気になる点が。体位は立位の後背位、二人の後方より巧に突かれながら和恵が自らの右太股に手を回すショットから、カット変りカメラが前に回ると、いきなり今度は和恵が両手で札を握り締めてゐるのは、些か繋がりが悪い。
それはさて措き、舞台移ると、何処いら周辺なのか、映画を観てゐるだけで何となく判らないのが地方在住者の悲しさでもあるのだが、東京は下町の零細印刷工場・大沢印刷(仮称)。頭の弱い従業員の六郎が、作業しながら居眠りしてしまつた和恵を揺り起こす。開巻から夢オチとは、見上げた度胸だぜ。再びするとそこに、仕事もホッぽらかし油を売つてゐた登が、儲け話だと喜び勇んで帰つて来る。ところが登は何のことはない、ポップなネズミ講に騙されて来ただけで、和恵は呆れ果てる。まるで当たつた例(ためし)もないのに、趣味の宝くじを買つた帰りの和恵に、警察から電話が入る。実家を出てゐる恵美が、出会ひ系喫茶で摘発されたとのこと。身元を引き受けに向かつた和恵は、巧が店員の、恵美曰くクソ不味いラーメン屋にてほとぼりを冷ます。相変らず外れてゐたので和恵が店に置いて来た空くじを、後日出前のついでに巧が持つて来る。外れてゐるのに、といふ和恵に対し、巧はいふ。巧の母親が外れくじを神棚に供へ拝んでゐたところ、一億が当たつたといふのだ。真に受けて和恵も外れくじを拝んでみると、早速三万円が当たる。神棚に拝む和恵に最後に十字を切らせてみせる辺りが、流石松岡邦彦ではある。
倖田李梨は、夫には内緒で三万円のお礼にと巧とのデートに和恵が出かけた直後に大沢印刷を訪ねる、登のことを“お兄ちやん”と呼ぶ幼馴染の、引退したストリッパー・リリーこと小田理沙。今は未ださうも見えなかつたが、多臓器を病に冒され、臓器移植しなければ余命幾許もない状態にあつた。友情出演とはいへポスターにも名前の載る柳東史は、もう一名の見切れ要員を伴なひ和恵を出迎へる銀行員。
松岡邦彦の2009年第一作は、W不倫もクロスさせた、降つて湧いた大金に右往左往させられる、情けなくも憎みきれない小市民達の悲喜劇。結論からいふと、松岡邦彦の暗黒面が、昨今の王道娯楽映画路線に寄り切られた一篇ともいへる。不意に手にした一億を手に、一度は巧との新生活を考へぬでもなかつた和恵は、俄に巧が見せる俗物の顔に幻滅する。すると巧は叫ぶ、使はない金など絵に描いた餅だ、絵なんてどうでもいい、俺は餅が食ひたいんだ、と。かつては絵を嗜み、経済的事情から断念したものの美大への進学も希望した巧にさう叫ばせたところに、尚一層ラウドな台詞が重みを増す。効果的な巧の転調と、そこかしこで適宜に、六郎は素直に“純真な愚鈍”として機能する。出番はワン・シーンのみながら、理沙も純然たる濡れ場担当に押しやることなく物語本体に回収する。物語は淀みなく娯楽映画として順当な結末にまで辿り着きはするのだが、ほかでもない“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦作だけに、さう思へばハードルが上がつた分だけ物足りなさが残らぬでもない。展開は実に卒のない経過を辿るのだが、逆からいへば捻りには欠け、綺麗過ぎる。結局、さして大振りすることもないエゴを和恵は夫婦愛の確認といふ美名、あるいは一時的な錯覚の下に半ば放棄してしまひ、松岡映画にしては甚だ意外なことに、本性を現すこともない理沙も単なる気の毒な難病要員に止(とど)まる。純粋な利己心の結晶たる恵美は、場面を繋ぐ程度で殆ど満足に暴れさせては貰へない。和恵を牽制する為に六郎が巧の部屋に投げ込んだ6印の野球のボールを、返さうとして受け取りを拒否された和恵が殊更に6印をカメラに向け机の上に置くカットも、今ひとつ後々には活きて来ない。呆気なさが清々しい巧の最期に繋がるといふのかも知れないが、その件自体が随分唐突で、直截にいへばぞんざいなものである。適度に爛れた伊沢涼子はお腹一杯に堪能出来る反面、倖田李梨は兎も角夏川亜咲の絡みがガチャガチャとした一度きりであるのも惜しい。緊迫感の中で満足に見せて呉れない以上、夏川亜咲は濡れ場要員にすらなり得まい。観客全員が引つくり返るやうな大技が何時炸裂するのか何処で炸裂するのかと固唾を呑んでゐると、そのままど真ん中にストレートを投げ込まれ見送り三振を取られてしまつた、さういふ感の強い一作。間違つても詰まらないといふことはないのだが、敵が松岡邦彦だと思ふと難しいところではある。
もしかすると、大沢印刷は
川上印刷(仮称)
と同じ物件ではなからうかとも思つたものだが、流石に確証は持てなかつた。
以下は何度目か判らない再見に際しての付記< これもしかして、和恵は里見瑤子のアテレコ?
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