浮気妻 淫乱同窓会

　「人妻が燃えるクラス会」（1996『浮気妻　淫乱同窓会』の2009年旧作改題版/製作：NVC/配給：新東宝映画/監督・脚本：野上正義/企画：中田新太郎/撮影：千葉幸男/照明：渡波洋行/編集：田中修/音楽：ピッコロ音楽研究所/助監督：周富芳・小谷内郁代・トニー藤沢/撮影助手：嶋垣弘之/照明助手：耶雲哉治・中野博/スチール：佐藤初太郎/音響効果：中村半次郎/録音：シネキャビン/現像：東映化学/出演：貴奈子・林由美香・小川真実・野上正義・真央元・森山龍二・神戸顕一・山本清彦・平岡きみたけ・大北重信・丘尚輝・トニー藤沢・桜木ルミ・水上ゆい・杉原みさお・日比野達朗）。出演者中、神戸顕一から大北重信までは本篇クレジットのみ。
　開巻から林由美香と真央元の濡れ場、といふのはいいにせよ、これが、この映画は一般的な劇映画としての物語を本当にスタートさせて呉れるのであらうかと、不安すら覚えかける勢ひで延々延々延ッ々長い長い。漸くひとまづタイトルも入り、深夜の山岸家。同居する妹・加奈（林）の、堂々と連れ込んだ恋人・徹（真央）との一欠片たりとて憚るでない情事に片手間で眉をひそめながら、明（日比野）は帰りの遅い妻・美佐子（貴奈子）をジリジリと待ち侘びてゐた。その日の朝明は、美佐子を大学時代の恩師・北村（野上）とその妻・華江（小川）の十周年を祝ふ結婚記念日祝賀パーティー兼、半ば同窓会に送り出してゐた。自身も浮気の発覚した過去がありながら、同窓会などといふと不倫の温床だと、明は美しい妻に気を揉む。事の済んだ加奈からは冷やかされつつ、明は待ち続けるが、結局美佐子は翌日朝帰りする。日曜出勤の徹は会社に向かひ加奈も外出した中、明から問ひ詰められた美佐子は、馬鹿正直に一夜の火遊びを告白する。
　ざつくばらんにいふと、ちぐはぐさが顕著な一作。己のことは棚に上げ、神経質に帰らぬ妻を待ち続け、やつと帰つた美佐子が今度は不貞を告白すれば、高圧的に叱り飛ばす日比野達朗の清々しく不快な姿に、楽しげに撮影してゐたであらう風情も軽やかに窺へる、賑々しいも華麗に通り越した乱痴気騒ぎを繰り広げる祝賀パーティーの模様が交互にインサートされる。対照的な演出のトーンが綺麗に並立し、観客のエモーションはどちらに振ればよいものやら安定しない。出演者中森山龍二（今回新版ポスターには森山竜二）から杉原みさおまでは、会場美佐子同窓生の皆さん。この中で唯一絡みの恩恵に与る、メガネ・チェーンのいやらしさが絶品な森山龍二は、羽目も外し過ぎな騒ぎの空気に疲れ席を外した美佐子を、別室に連れ込み手篭めにする坂本。さん付けのところから見るに、美佐子からは先輩か。杉原みさお以下三名は女性参列者、とはいふものの、満足に顔が抜かれるのは杉原みさおのみで、水上ゆいと桜木ルミは殆ど見切れもしない。豪快な腹踊りを爆裂させた挙句に何故だか気絶してしまふ神戸顕一と、ボーイの丘尚輝は容易に、ピエロのメイクを施した平岡きみたけは何となく判つたのだが、あれこれ顔を汚してみたり、兎に角無闇にガチャガチャ動くことに加へ、クレジットも最後に出るため、やまきよが出演してゐたのには全く気付けなかつた。単純な消去法で野上正義息子のトニー藤沢か大北重信が、ドーランで黒人に扮しよく判らないダンスを踊り倒してゐる。坂本に抱かれ、美佐子が放心ついでにくたびれてゐる間に、残りの参加者は皆北村邸を後に。すると今度はフリーダムに破廉恥にも北村夫婦揃つて、美佐子を喰ふ。野上正義と小川真実のツー・ショットには、そのフリーダムも案外スムーズに通す、面子としての説得力もあるといへばあるのだが。但し、基本的には大勢のパーティー参列者に埋もれた北村夫妻はともに、劇中然程前に出て来る訳でもない。
　激昂する返す刀で明も美佐子を犯し、事後一つの夫婦の崩壊の気配が濃厚に漂ふところに、呑気に加奈帰宅。明にとつては懸案でもあつた徹との結婚を決めた旨を報告すると、つられて明と美佐子の関係も、外れた障子をハメた如くにコロッと修復されてのけるラストは、拍子の外れた頓珍漢に思へなくもないが、穏当に娯楽映画を着地させる力技としては、意外に成立し得てゐる。終り良ければ全て良し、そろそろ再び久し振りのガミさん監督作を観たい気分にもさせられる、無理矢理にしても爽やかな一作である。もうひとつ触れておきたいのは、森永奈緒美にも雰囲気の似た貴奈子の、素晴らしい背中の美しさ。

　ところで、劇中登場する、北村が教鞭を執り、かつて美佐子らが通つた大学の名前が「大宝大学」。ひよつとして野上正義は、新東宝が駄目なら大蔵に今作を売り込むつもりだつたのか？

　以下は再見に際しての付記＜　シャネルズがやまきよ、大宝といふのは大蔵と新東宝のハイブリッド以外に、かつて存在した映画配給会社のセンもなくはない