真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 覗いて嗅ぐ!」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩/照明:秋山和夫・蛭川和貴/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:高田宝重/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:石原ゆり・小川真実・福乃くるみ・荒木太郎・樹かず・杉本まこと)。秀逸な1998年新題が、「痴漢電車 若気の湿り」。
 ヒャヒャヒャーヒャラと始まる虹色王冠ファンファーレ開巻!これよこれ、これが―“これも”だろ―見たかつたのよ。
 膝元にサボテンの小鉢を抱へ電車に揺られる石原ゆり、こめかみにビデオカメラを装着した荒木太郎が、ノッシノッシと石ゆりの前を通り過ぎる。電車を外から捉へた画挿んでタイトル・イン、ところでヒロインが常備するサボテンに関して、何の意味、あるいはどういつた所以があるのかに関しては最後まで見事に放置したまゝ済まされる。
 慌てて走つて来る馬鹿みたいにデカいメガネの樹かずと、優雅に茶を愉しむ杉本まこと。出社するハイヤーの手配ミスを詫びるサカエダ(樹)に対し、会社専務の陸奥(杉本)はたまには電車で行くかと寛大に意に介さない。ところが陸奥専務がさて出ようとすると、夫人の小川真実は部屋の模様替への手伝ひにと称してサカエダを捕まへる。陸奥夫婦間でも兎も角、社内的にそれが通るのか。電車の車中、陸奥は手元にもカメラを装着した荒木太郎に痴漢される花田菜々恵(石原)が、自らスカートを捲り電車痴漢を受け容れてゐるのに驚愕する。陸奥宅こと古の旦々舎ではオガマミが当然サカエダをガッツガッツ喰ふ一方、荒木太郎が離脱した奈々恵を、陸奥も痴漢してみる。その日は一旦拒絶した奈々恵が、スカートの上からパンティを直す仕草が、案外見ないアクションにも思へるが結構そゝる。翌日か、電車で奈々恵と再会した陸奥は、とり憑かれたかのやうに電車痴漢再戦。又しても逃げた奈々恵を追はうとした陸奥を、実はすぐ傍らにゐた荒木太郎が引き止める、「あの女はやめた方がいい」。
 配役残り福乃くるみは、荒木太郎が自室で致す女、相変らずカメラは回し続ける。荒木太郎のガジェット嗜好に寄与する点を除けば物語には感動的に一欠片たりとて全く掠りもしない反面、バイブを用ゐた鬼のやうにどエロい自慰を大披露。よしんば展開の進行には一切与らずとも強い印象を刻み込む、真鮮やかな三番手濡れ場要員。問題が、オーラス奈々恵の次なる獲物として登場する、森羅万象のレプリカを更にデチューンした劣化コピーもどきのオッサンが誰なのか、何者なのかに手も足も出せず。とりあへず、本職の俳優部には見えない。
 阿漕な商売をしてけつかるDMMが、バラ売りには新着させてゐる月額動画スルー旧作を渋々―でもなく―買つた、山﨑邦紀1995年第一作。山﨑邦紀のピンクを兎に角一本でも多く見たいのに加へ、盟友の山本さむ(ex.小多魔若史)が出演してはゐぬかといの一番に痴漢電車をチョイスしたものだが、残念ながら小多魔先生は姿をお見せにならず。今のところ確認出来てゐる最終作は、同じく山﨑邦紀の1996年第五作―ピンク限定だと第四作―「痴漢電車 潮吹きびんかん娘」(主演:小泉志穂)。
 奈々恵と役名不詳の荒木太郎、痴漢電車に棲む二人の怪人物に専務さんが翻弄される、確かに“やめておいた方がよかつた”一篇。といつて主モチーフのサボテンから華麗に通り過ぎる始末で奈々恵と荒木太郎の外堀は清々しく埋められず、陸奥は陸奥で嵐に放り込まれた小舟の如く心許なきこと甚だしく右往左往するばかり。終盤―女性上位の旦々舎映画の常ではあれ―頼りもなければ情けない旦那に対し、自身で奈々恵を迎撃する腹を固める陸奥夫人は、小川真実の決定力で加速した上で俄かに絵に描いたやうな出来た女房面する、ものの。そもそも己は己で朝つぱらから若い色男と派手にヨロシクやらかしてゐやがつた癖に、といふ臆面もなさは、今作単体のみならず、寧ろピンク映画固有のいはば制度的な諸刃の剣。小川真実の濡れ場が別に夜の―朝でも昼でもいいけど―夫婦生活で普通に消化出来たかも知れないにせよ、陸奥の電車痴漢筆卸とクロスさせる構成が、より諸々面白味を増すのは論を俟つまい、樹かずもあぶれてしまふし。最終的には痒いところに冬の上着の上から手が届かないやうな一作ながら、撃墜寸前の陸奥を追ひ、夫人も痴漢電車に乗るクライマックス。奈々恵に吸ひ寄せられる陸奥の姿を目撃、血相を変へ突撃しかけたオガマミを、陸奥を制止した際と同様、事態に電撃介入した荒木太郎が阻止するドラマティックなカットが一点突破で素晴らしい。

 最後にか改めて気づいたけど、劇中、特筆するほど別に覗きも嗅ぎもしてゐない。


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