真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美尻エクスタシー 白昼の穴快楽」(2010/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:大江泰介/撮影助手:石田遼/照明:ガッツ/照明助手:セイジ/助監督:永井卓爾・金澤理奈絵/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/ロケ協力:スローコメディファクトリー《東京・下北沢》/出演:国見奈々・里見瑤子・淡島小鞠・荒木太郎・牧村耕次・池島ゆたか)。
 正直何がどうなつてゐるのかよく判らない、玉子の黄身が立体的に積み重なつた状態の一番下に、目玉が一つキョロリと覗くイメージで開巻。
 タイトル・イン明け、国境なき医師団所属でありつつそこかしこで道往く人々の診察を行ふ、出張ドクターとかいふ造形から半ば理解不能な、玉子ドクター(里見)が幟を立てたママチャリで疾走する。ドレッドに編み込むは所々赤いはと、里見瑤子の奇抜かつ手の込んだ髪型は、あるいは本来舞台に合はせたものなのであらうか。料理学校「玉子料理研究会」を開設する目玉嬢(淡島)が、誰もゐない教室フラスコに溜めた生卵を、尻に宛がひ喜悦する。こちらは安ホテルの一室、一羽の雛を前に、右目に眼帯をした玉丸(池島)が黄昏る。玉丸は秋田で営んでゐた養鶏場を、ロシア発の鳥インフルエンザで失つてゐた。玉丸に残されたものは雛一匹―玩具だけど―と、右目のものもらひだけであつた。漸く登場する主人公で、玉子料理研究会に通ふ尻子玉姫(国見)は、研究会顧問の金袋(荒木)と―当然浜野佐知の―自宅にて援助交際の情事。そしてその模様を、別室に寝たきりの祖父・竿男(牧村)が、ゴーグル型のモニターを通して注視する。後に自称で語られるところによると、往年は世界中の女をヒイヒイ泣かせたプレイボーイであつたとの竿男による、悪し様に罵る金袋のチンポコ評が、「痩せた犬つころみたいに、細く、短い」。ところで二つ前の場面にも戻ると、幾分の加齢も感じさせ確かに全体的に痩せた―チンコは逆に知らん―荒木太郎とは対照的に、淡島小鞠は、首から下はさうでもないがパンッパンに丸い。それはさて措き、山﨑邦紀が映画冒頭で採用することの多い、各登場人物のイントロダクションだけで既に、眩暈を覚えるまでに魅力的だ。
 「私は世界の、半分だけを見よう」と左目に眼帯を施した尻子玉姫を、玉子ドクターが易者感覚で呼び止める。右目を僅かに覗き見るや、これで意外と名医なのか眼帯が伊達であるのを即座に看破した玉子ドクターは、尻子玉姫が肛門内で体内の気が体外に放出されてしまふのを堰き止める、いはゆる“尻子玉”の持ち主ではないかと里見瑤子十八番の衰へぬメソッドで瞳を輝かせる。とここで、一箇所野暮に立ち止まると。正しく薮から棒な話に対し、尻子玉姫が尻子玉とは“サイダーの玉”みたいなものかと納得する件は、そこは矢張り、より正確な用語法としては“ラムネの玉”ではあるまいか。三ツ矢サイダーやキリンレモンに、別に玉など入つてゐない。一旦その場を離れた尻子玉姫の背中に、玉子ドクターが投げた望まれる形では回収されなかつた印象的な台詞が、「君は、必ず戻つて来る」。続けて玉丸に声をかけた玉子ドクターは、失意の底の玉丸が、文字通り尻子玉を抜かれてゐるとの診断を下す。ホテルに戻り、代用尻子玉にとフィギュア用の眼球を菊門から捻じ込まれた玉丸は、ジャジャーンと大仰な劇伴と共に「こ、これは・・・!」、底の抜けた外連が堪らない。すつかり回復した玉丸を伴ひ、玉子ドクターは尻子玉姫と再邂逅。固茹で卵を、“女だけの尻子玉”と称して尻子玉姫の観音様に仕込んだ玉子ドクターから、薄い肉を介して二つの尻子玉が交感する交合を、尻子玉姫の同意も経て求められた玉丸こと池島ゆたかは、「俺は、何時でもオッケー!」。兎にも角にも、演者との超絶のジャスト・フィットもあり、高威力の名乃至迷台詞が矢継ぎ早に繰り出され続ける。一方、目玉嬢は尻子玉姫からヒントを―ここは正味な話、大雑把な飛躍も甚だしいが―得て、目玉焼きに宇宙の法則を見出す。
 玉子に目玉に金玉に、挙句に尻子玉。概ね人体に焦点を絞つた山﨑邦紀の丸い物体への偏愛もしくは趣味性が、しなやか且つ華やかに咲き誇つたか狂ひ咲いた快作。結論から先に、面白いのか詰まらないのかといへば疲弊に基く眠気も軽やかに吹き飛ばされるほどに、滅法面白い。山﨑邦紀が有体にいふとノリッノリで撮つてゐたと思しき軽やかな充実は、端々にこれでもかこれでもかと、吹き荒れるかのやうに窺へる。擬似とはいへ、尻子玉を再充填された玉丸は俄に暴走、家にまで追つた尻子玉姫を襲撃する。ただならぬ気配にまゝならぬ手でゴーグルを装着し、初めは尻子玉姫が新たな男を連れ込んだものかと呑気に勘違ひしてゐた竿男は、玉丸も評して「こないだは蚊トンボ、今度は蒸し豚!」。荒木太郎が蚊トンボで、池島ゆたかは蒸し豚か。その通りであると納得してしまへばそこで実も蓋もないが、同業者をバッタバッタと斬り捨てる山﨑邦紀の自由奔放さには感服するほかない。佇まひは少々覚束ないものの文句なく見目麗しい主演女優を中心に、シレッと現役監督・脚本家を三人並べた上で牧村耕次と里見瑤子がガッチリ要を固める布陣は強力にして完璧。兎にも角にも、山﨑邦紀作に際しての、池島ゆたかの水を得た魚かの如き活き活きとした大暴れぷりは毎作毎作尋常ではない。かといつて、今作が山﨑邦紀必殺のマスターピースと激賞するに値するのかと問ふならば、必ずしもさうは問屋が卸さない。自身の映画祭出席に伴ふ渡夏を機に、劇中尻子玉伝承の起源を求められるのが、何故かカメルーン。そのこと自体は虚構の方便の範疇に止まるにせよ、語り口としてのスチールの無造作な挿入具合は、それだけで済ますのかといふ横着な安普請も兎も角、唐突なばかりでまるで芸になつてゐない。改めて配役を整理すると、導師役の玉子ドクターに、若干緩いが同士ポジションの目玉嬢。家族兼傍観者、玉丸に襲はれた尻子玉姫の危機に瀕しては、「違ふな、孫娘のピンチだ!」と強制起動、車椅子に乗り日本刀を構へ突入して来る活躍も披露する竿男。憎まれ役と道化を華麗に兼務する、玉丸と金袋。ここまでに、全く瑕疵は見当たらない。それでゐて、最終的には数々鏤められた何れも魅力的な各モチーフの統合力はどうにも心許なく、物語的な完成度の点からは弱さも否めないのは、本来主人公たるべき、尻子玉姫の扱ひに問題がありはしないか。尻子玉姫が悪くもない美しい左目をアイパッチで塞ぎ、“世界の半分を見ることを拒んだ”エモーションが、玉子ドクターとの出会ひのギミックに供されるのみで、綺麗に忘れ去られ通り過ぎられてしまふのが何はともあれ激しく惜しい。「私は世界の、半分だけを見よう」と、尻子玉姫が何気なく衝撃的な独白を零す、国見奈々の整つた顔立ちが静謐さをも感じさせるショットには、大傑作への激越な予感に思はず息を飲んだものなのだが。かといつてかといつて、そのまゝ大魚を釣り逃がしたまゝ映画をむざむざ終らせはしない辺りも、山﨑邦紀らしい心憎さ。銘々がそれなりに各々の道を歩み行く結末、劇本篇ファースト・カットに連動し再びチャリンコを飛ばす目玉ドクターが、「奇天烈な皆の未来に、光りあれ!」と、画期的に鮮やかなラスト・シャウトを謳ひ上げる。「奇天烈な皆の未来に、光りあれ!」、山﨑邦紀一流の変態奇想博覧会に、斯くも相応しい集大成的な名文句があつたらうか。僅か数秒のワン・カットで、映画に永遠を叩き込む。この強靭も、映画監督山﨑邦紀の主力兵器のひとつに数へ得るのではないかと、常々見るものである。全般的には勢ひが先走つた印象―玉丸を仕留めたとはいへ、竿男のロシア嫌ひは薮蛇に過ぎる―と同時に、残す余韻も強く、更に深い。物語が完成してはゐない以上、上手下手では決して首を縦には振り辛いのだが、滋養豊かな捨て難い一作である。

 ツイッターによると、南会津出身の山﨑邦紀は、目下“放射能で性欲亢進するオッサン教が登場するピンク映画”を構想中とのこと。ゲートボールならぬ、ニュークリアー・ゲーターズとでもいふ寸法であらうか。穏当な娯楽映画を最も尊ぶ立場からは、ピンクに生臭い時代性を殊更に求めて喜ぶものでも特にはないものの、山﨑邦紀のアクチュアルな渾身が義憤と共にフクシマを撃ち抜く様を予想すると、流石に猛烈な期待に身震ひさせられずにはをれない。
 それにつけても、2003年の夢幻大作「変態未亡人 喪服を乱して」(主演:川瀬有希子・なかみつせいじ)に於けるホトパワーに連なり―連なるのか?―今回は尻子玉と、いはば里見瑤子版の人智も越えた、「後ろから前から」といつた感も漂ふ。


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