真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 指で濡らします」(1998『痴漢電車 おさはり多発恥帯』の2001年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治・新井毅/照明:上妻敏厚・荻野真也/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:加藤義一・松岡誠/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/出演:篠原さゆり・吉行由実・中村和彦・杉本まこと・山本清彦・青木こずえ)。“配給:大蔵映画”ではなくオーピー映画提供としたのは、白黒のOP開巻に従つた。
 踏切の警報機音、路面電車大の車輌が上り坂を越えフレーム・インしてタイトル・イン。シースルー気味の派手なスカートの尻に、金ピカの装飾具をジャラつかせた男の手が這ふ。それは佐藤よしこ(青木)と鈴木一郎(中村)の痴漢プレイで、触発された山本清彦が、傍らの篠原さゆりに手を出す。当初は応じる素振りも見せかけた篠原さゆりは、やまきよが取り出した、何でまたそんなものを持ち歩いてゐるのか薩摩芋を痴漢に用ゐ始めるや態度を正しく豹変。先曲りのペンチで迎撃、セット車内にやまきよの悲鳴が響く。片方の睾丸を潰され三ヶ月入院―絶望的な診断をあつけらかんと下す医師の声は、杉本まこと―したやまきよは、娑婆に戻ると駅で網を張り、篠原さゆりを自宅まで尾行する。その場でやまきよを捕まへた篠原さゆりの母親(母親!?/吉行由実)は、夜になると月に向かつて吠える娘の姿を見せた上で、アメイジングな事実を告げる。篠原さゆりは悪霊憑きで、死別した恋人が帰つて来る、満月の夜になると発情するといふのだ。配役残り杉本まことは、正体不明なポジションの詳細が最後まで語られはしない、色情に狂つた篠原さゆりに奉仕する性奴。
 遂にオーピーが重い腰を上げデジタルに移行する最終的な転換に伴なひ、旧来のフィルム映写の小屋にド旧作が供給される流れを受けての山﨑邦紀1998年第一作。個人的には未知の新作と未見の旧作とにさしたる違ひを認めない立場につき、DMMでも見られないものをジャンジャン復活公開して貰へると嬉しい。因みにこの年の山﨑邦紀はといふと―正月の―同日に封切られた薔薇族と、殆ど丸一年空けたエクセスの三本のみ。翌年公開される浜野佐知の一般映画第一作「尾崎翠を探して 第七官界彷徨」に、旦々舎が総力を傾注してゐた時期である。透き通るやうな白さと、併せ持つ硬質。陶器の如く咲き誇る篠原さゆりを終始黙したまゝ一言も言葉を発しはしない謎めいたヒロインに据ゑ、時に妖しげに時に偏執的に、一筋縄では行かぬ色気が堪らない山本清彦と、地味に名カップルの青木こずえ&中村和彦。何れも魅力的な痴漢電車の乗客を、殆ど男装の吉行由実と、主人を別の人間に奪はれた際に見せるセンシティブな表情が超絶な、全裸の杉本まことが旧旦々舎にて待ち構へる。布陣は完璧、濡れ場に限らずとも、どの組み合せの絡みも観てゐるだけでワクワクする。よしこを痴漢され憤慨した鈴木が、見つけたやまきよを警察に突き出さうと首根つこを捕まへる件など絶品。その時山﨑邦紀の映画に、山本清彦と中村和彦がゐた。昔はよかつた、その手のクズにでもいへる紋切型を自らには常々厳しく禁じてゐるつもりなのだが、ついついさういふ気持ちにさせられる。とは、いへど。痴漢師の片玉を潰した猟奇的な令嬢が、満月の夜に遠吠えする。頗る魅惑的な大風呂敷を拡げておきながら、拡げ放しで畳まない物語は終に求心力を失する。やまきよは悪意を以て篠原さゆりを鈴木に売り、伝染したよしこに痴漢を働いたスーツの紳士には、潰さうにも潰すものがなかつた!以降の展開にも冴えを見せつつ、結局は地に足を着けずに独走する女優部に為す術もない男優部同様、観客も置いてけぼりを喰らふ。電車が単なるミーツの器に過ぎない点も、痴漢電車的には一円安くなると難じておかない訳には行くまい。
 ヤケクソなのか投げやりなのか、本篇とエンド・ロールの間に放り込まれる“HAVE A NICE TIME!”なるらしからぬメッセージが、何ともいへない釈然としなさを加速する。

 ちな、みに。エンディング・テーマが「ラスト・クリスマス」を堂々とパクる今作、今後新作を撮らなければ、山﨑邦紀にとつてラスト痴漢電車に当たる。山本さむ(ex.小多魔若史)先生が飛び込んで来ないものかと期待したものの、不発に終り残念無念。


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