閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

美しい塵芥

2009-04-22 13:22:53 | 日々
玄関の階段の前に、大量の桜の花びらが吹き溜まっている。
散って日がたつので、ほんのり赤みをおびた褐色になっている。
独特の柔らかい色合いだ。
桜で染物をすればこういう色になるのかもしれないと思う。

花が散ったあとに、つづいて赤い萼と花柄の部分が落ちた。
大きめのピンクの八重桜の花びらも飛んできて混ざっている。
それに、青い小さい葉っぱが、ほんの少し。
青紫のパンジーの枯れ花がひとつふたつ。
それらの色の配合が絶妙で、なんとも美しいものに見える。


小堀杏奴さんの随筆集『静かな日々』の中に
「洗濯」という短い一文がある。
大きなたらいに井戸水を汲んで洗濯をしている。
白い下着類の中に1枚ピンクのブラウスが混じっている。
その上に石鹸水の薄い灰色がかかり、一筋射しこむ陽の光が美しい。
筆者はそれを見てルーヴルで見た絵を思い出す。
ヴェラスケスの描いた金髪の幼い王女。
その灰色の衣装と、淡いピンクのレース飾り…。

この本を初めて読んだのはおそらく小学高学年のときだが、
このくだりで「はたと膝を打つ」ような共感をおぼえた。
何かを見て、何かを感じる。
そのアンテナの向きや受信機の感度が
たまたま自分とよく似ている人がいるのだ。
自分の親よりずっと年長の人であることなど当時は知らず、
(ヴェラスケスの絵だって絵葉書でしか見たことがないのに)
「ああ、そうそう!」とうなずき、わたしは嬉しかった。

本の奥付は昭和29年となっている。父が自分の本棚から
女の子にも読めそうなものを抜き出してくれたのだろう。
今でも折にふれ思い出すことがある。
たとえば玄関前の桜の花をほうきで掃きながら。
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