閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

原稿

2019-07-25 18:10:56 | サンゴロウ&テール

お世話になった編集者さんが来月退職されることになった。
『土曜日のシモン』が最初だったので…もう40年になる。
「大切な原稿を保管しているひきだしから出てきたので」と、何やらなつかしいものを送ってくださった。
『黒ねこサンゴロウ』の、たぶん第一稿。1~3巻と、4を抜かして、5~7巻。
B5の紙に20字×20行の縦組みで、つまり「罫線のない原稿用紙のように」プリントしてある。
これは、当時まだパソコンじゃなく、ワープロ(って、もう若い人は知らないでしょう?)で作成していたからで、作家も編集者も「400字詰め」でものごとを考えていた時代だったのです。

見ると、1枚目の紙に、「とらねこサンゴロウ① たからさがしマリン号」と、これはペンで手書きしてある。
…とらねこサンゴロウ? とらねこ!?


あわてて本文をめくって見ると、ケンとサンゴロウの最初の出会いのシーンに、ハッキリ書いてあるじゃないですか。「茶色と黒のとらねこだ」って。
わたしは、サンゴロウって、最初から黒ねこだと思いこんでいた。
だから、自分でも信じられなくて、ちょっとショックなんだけど、目の前に動かぬ証拠の原稿があるんだから、信じるしかない。
記憶になかったのは、たぶん、1巻を書いたあとすぐ黒ねこに変えたからだろう。2巻以降はもう黒ねこになっていたはず。
いやいや、しかし、一時的にせよ、とらねこだったことがあったとはね…。

ついでに書いておくと、このタイトルページの余白には、編集者さんの鉛筆書きのメモがある。
「サンゴロウはどうしてケンをさそったか→ケンにいてほしかったわけ」
「船ができたとき、サンゴロウはどうやってケンに連絡するのか」
この2つの疑問は、6巻『ケンとミリ』につながってくる重要なカギだ。

ぱらぱら見ていくと、他にもいくつか「え~、そうだったっけ?」と思う箇所がある。
『キララの海へ』で、ナギヒコ先生の遅い昼食は、初稿では「ぱさぱさしたサンドイッチ」ではなく「さめたハンバーガー」。うみねこ島にハンバーガーというものがあるかどうかで話し合ったのを思い出した。
『青いジョーカー』なんか、そもそもシーナという名の白ねこは、どこにも出てこないのよ(笑)

前にも書いたと思うけれど、わたしは原稿や校正刷りの類をとっておかない。本ができたらあっさり捨てる。裏の白い紙なら4つに切ってメモ用紙にしてしまう。
書き直すときは、どんどん上書きして、前の原稿は残さない。そうでないと、どれがホンモノかわからなくなって混乱するからだ。
いまはパソコンで書いて、データで送って、いちいちプリントアウトする手間さえかけないこともある。
だけど、こんなふうに、ひょっこり古い原稿が出てきて、思いがけない発見をするのもわるくないなあと思う。原稿そのものは、手書き文字ではないけれど、古き良き時代のアナログの香りがほんのり残っているような気がする。

長いあいだ、大切に保管していてくださって、ありがとうございました。
この人がいなければ、『黒ねこサンゴロウ』も『酒天童子』も、世に出ることがなかったのです。
原稿は、このまま記念にしまっておきましょう。
深い感謝をこめて。

コメント
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