数日前から、カラスの声がする。「アーアー」とか「ナーナー」とか、甘えたような声だ。どうやらヒナが巣立ったらしい。
声のするほうを探したら、いたいた、東の川向うの尾根の木に。
毎日のように山を歩いているMによれば、この木にカラスの巣はないそうだ。
(もしあれば、下を通ったりするとたちまち親鳥に文句を言われる)
巣を離れたあと、枝づたいにここまで移動してきたのかな。
ヒナといっても、身体はけっこう大きくて、遠目には立派なカラスに見えるけれど、まだ遠くまで飛べないし、自分で餌をとることもできないようだ。ここにとまって、ときどき声を出しながら、ひたすら待っている。
あ、遠くで「カアカア」と声がしたぞ。おかあさんだ!
翼を開いて「ちょうだいちょうだい」のポーズで待つ。
きたきた、おかあさんきた! 左からすいーっと旋回して…
おまたせ~!
「ねえねえ、はやくはやくぅ」と待ちきれないヒナの声が大きくなる。
きょうのごはんは何かなー。
(いや、それはあまり具体的に想像しないほうが・笑)
親鳥が近くにいるあいだは、「もっとちょうだいちょうだい」とずーっと言っている。
この日はヒナが1羽しか確認できず。
翌日は土砂降りの大雨の中、ときどき「アーアー」「ナーナー」の声がしていた。
これは次の朝。ヒナはすくなくとも2羽はいるらしい。
声だけ聞いていても、親鳥はかなりひんぱんに餌を運んできているようだ。
甘たれ声の子どもにくらべると、親鳥の声は「カアカア」に巻き舌が混じったようなつやのある深い声で、飛び方もすごく自信ありげでかっこいい。
子どもはこうして親と一緒に暮らしながら、だんだん遠くまで飛ぶようになり、餌の採り方をおぼえ、ひと月ほどで独立するそうです。
おとうさんおかあさんのように、かっこいいカラスになるんだよ。