閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

「酒天童子」

2015-03-16 23:09:01 | お知らせ(新刊)

新刊です。
『酒天童子』(偕成社 2015年3月発売)
春にふさわしく、ほろ酔い桜色で登場!

昨年、いや、一昨年の秋頃からか、ときおりごそごそと
何かつぶやいていた「古典妖怪系」のおしごとが、これです。 

源頼光と四天王。
一条戻り橋の鬼。土蜘蛛。盗賊鬼同丸。大江山の酒天童子。
本でいえば、今昔物語とか、御伽草子とか。
まあ、そんなあたりのお話。

「作」でも「文」でもなく「著」という珍しい表記になっているのは、
完全な創作というわけではないけれど、「現代語訳」でもない、
という微妙なところなので。 

わたしは基本的に「あとがき」というものを書きませんが、
今回は解説も兼ねたあとがきを、かなりがんばって書いたので、
(長いです。これでも半分くらい削った!)
詳しいことは、そちらをごらんくださいませ。


・・以下、舞台裏。

本になるまでに、5年くらいかかりました。
その内訳はというと・・やる気になるまでに3年。
何をやるかを決めるのに3か月。
資料集めと準備体操に3か月。
原稿ができるまでに3か月。
その推敲と校正に3か月。 
その間に数週間から数か月単位の「待ち時間」があって、計5年。

高校生のとき、古文は好きな科目でしたが、
読書傾向は海外文学に大きく偏っており、
教科書以外で読んだのは「紫式部日記」と「更級日記」だけ。
あとは、小倉百人一首のうすっぺらな解説本1冊と、
橋本治の「窯変源氏物語」(の「明石」まで)しか持っておらず。
能、歌舞伎、文楽、狂言、それぞれ一度は観た、けど、忘れた。
そういうヒトのところに古典のお仕事がまわってくるというのが、
そもそも謎であります。

子どものころ、かるたの「坊主めくり」でお姫さまの札が出ると
うれしかった記憶から、なんとなく、お姫さま物がいいな、と、
その程度の動機で、室町物語をあさっていたとき、
ふと目についたのが、「土蜘蛛草紙」でした。
(その前に「稲生物怪録」などを読んでいたせいで、
妖怪アンテナが立ったままになっていたのね) 

主人公の武将、源頼光が、家来の渡辺綱とふたりで、
あやしい古屋敷に巣くう妖怪を退治するお話。
その第一段。
頼光が、綱を庭に待たせ、あたりに気を配りながら、
ひとりで廃屋に近づいていくシーン。

「つなをばとヾめおきて頼光は左右をかへり見る」

その一行がパスワードだったかのように、かちっとスイッチが入り、
歯車が回転し、舞台にライトがあたり、人物が動きだす。
あ、これなら書ける、と、思いました。
どうしてそう確信したのか、まったくわかりません。
まあ、そこが素人の怖いとこっていうか。
基礎知識もないのにパソコン作れるような気がして
とことこ秋葉原にパーツ買いに行っちゃう人、みたいな。

ビジュアル資料が、錦絵とか歌舞伎絵とか、これまた未知の領域。
当時の美意識って、どうしても現代の感覚とは隔たりがありすぎ、
うーん、ちょっとね、好みじゃないんだな、と呟いていたところ、
月岡芳年の「月下弄笛図」にめぐり会い、いきなり目がさめました。
いまや笹竜胆(清和源氏の家紋)をちらっと見かけただけでも
心ときめくようになってしまったからおそろしい。

装画とイラストは平沢下戸さん。一目惚れでお願いしました。
お忙しそうだったので、引き受けていただけなかった場合は、
反魂の術で芳年を呼び出すしかないか、と思っていたところ、
めちゃくちゃかっこいいのが届き、ヤッタ!と小躍りいたしました。
現代だったら、この人たち、武士じゃなくロックバンドでもいけそう。
頼光と四天王、略して「ライコーズ」で、いかが。 

というわけで、「古典=まじめなクラシック」を期待された方や、
古文の勉強になると思われた方には、大変申し訳ありません。
どうもクラシックというより「ゴシックメタル」っぽい気が・・(笑)
気軽にお楽しみいただければ何よりです。

なお、あとがきの最後に「参考文献」としてあげたものは、
「おもな」参考文献の「ごく一部」です。
池田亀鑑『平安朝の生活と文学』(ちくま学芸文庫)と、
国会図書館近代デジタルライブラリーには
特にお世話になったことを、付け加えておきます。  

 


<追記(おまけ)>

あとがきにも少し書きましたが、古典で読んでみたいという方に、
おもな原話はこちらです。

「鬼の腕」
・平家物語 剣の巻(百二十句本)
・謡曲「羅生門」
・太平記 巻32
・前太平記 巻17

「土蜘蛛」
・土蜘蛛草子
・平家物語 剣巻
・謡曲「土蜘蛛」(「葛城山」)
・前太平記 巻17

「鬼同丸」
・古今著聞集 巻9
・前太平記 巻21

「酒天童子」
・御伽草子「酒呑童子」(渋川本)
・謡曲「大江山」
・長唄「大江山」
・前太平記 巻19
・「大江山絵詞」(香取本)
・「大江山千丈ケ獄酒呑童子由来」(鬼茶屋本)
・室町物語集「伊吹童子」

「狐を射る」
・今昔物語集 巻25

上記の他に、各話に挿入したエピソードの原話がありますが、
(晴明が瓜を占う話=「古今著聞集」巻7、とか)
ここに書くと長くなるので、知りたい方はご遠慮なくお問合せ下さいませ。


<また追記>

「鬼の腕」は、綱が女装して待ち伏せる宇多の森バージョン、
肝試しに行く羅生門バージョンもあり、どれにするか悩みましたが、
他の話との兼ね合いもあって結局こうなったわけです。 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« いいね特集 | トップ | ぽかぽか »