弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

クラウドコンピューティングとは何か

2009-11-25 19:25:49 | サイエンス・パソコン
「クラウドコンピューティング」という言葉を頻繁に目にします。何かインターネットを介して雲のように多数のコンピュータを使う技術に違いない、とは思うのですが、その実態がよく見えません。
数ヶ月前ですが、知人から「クラウド大全」という本が役に立つという情報を得ました。単行本なので購入はせず、近所の図書館に予約したのですが、6人程度の順番待ちで、数ヶ月もまたされました。やっと順番が回ってきたで読んでみました。
クラウド大全 サービス詳細から基盤技術まで
日経BP社出版局
日経BP社

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「クラウド」という言葉についての正確な定義はなく、人によって企業によって狭く解釈したり広く解釈したりしているようです。その中の共通する概念を抽出すると、以下のようになるようです。

(大規模システムの台頭とコスト激減)
・アマゾンやグーグルは、数万台とも数十万台ともいわれるサーバーを結合して大規模な分散処理システムを構築している。これだけの台数となると、1台あたりの単価、ストーレージのビットあたり単価は、利用者が個別にサーバーを構築するのに比較して劇的に安価になる。
5万台以上のサーバーを利用するデータセンターは、1000台以下に比較し、ネットワークコストが1/7、ストレージコストが1/6、管理コストが1/7になる。
・大規模分散処理の技術が進歩し、利用者が、その数万台の大規模分散処理システムの一部を借り、あたかも数台~数十台のサーバーを構築して利用者のコンピュータ処理を行っているような形態を取ることが可能となった。
(新たなネットビジネスにとって)
・利用者の処理規模の増減に対応し、借りるサーバーの数をいとも簡単に増減することができる。アイデア一つを元手にネットビジネスを開始しようとする個人は、まず数台規模のサーバーを借りて商売を開始し、その後爆発的にヒットして数百台のサーバーが必要になったとしても、簡単に規模を拡大することができる。例えばツイッターのように。
(大企業にとって)
・大企業が自社ユースのサーバーを構築するに際しても、新たにハード・ソフトを導入するに比較し、既存大規模分散処理システムの一部を借りて構築することとすれば、安価かつ短期間で必要なシステムを構築することができる。
・緊急に単発の大規模データ処理を行う必要が生じた場合、クラウドを利用すれば、極めて短期・かつ安価に、目的の処理を完了することができる。
(個人にとって)
・メールソフトやオフィスソフトをデータセンター(クラウド)側で準備し、個人が安価な端末を用いて種々の処理を行わせることができる。

まず、クラウド時代の到来には、アマゾンとグーグルの寄与が大きいようです。クラウドという言葉を初めて使ったのは、グーグルのCEOであるエリック・シュミット氏です。「従来ユーザーの手許にあったデータサービスやアーキテクチャが、サーバー上に移ろうとしている。我々はこれを、クラウドコンピューティングと呼ぶ。(データやアーキテクチャは)“クラウド”のどこかにある。ブラウザのようなアクセスできるソフトウェアがあれば、PC、Mac、携帯電話、BlackBerryなどどのようなデバイスからでも、クラウドにアクセスできる。」
2006年、アマゾンがAmazon EC2(仮想マシンサービス)とAmazon S3(ストレージサービス)を開始します。
2008年、アメリカのセールスフォース・ドットコムが、同社のアプリケーション基盤を使ったカスタムアプリケーションを第三者が開発できるForce.comの提供を開始します。
同年、グーグルが第三者のWebアプリケーションをホスティングするGoogle App Engineを開始します。

クラウドコンピューティングを支える技術
SaaS(Software as a Service):サービスとして提供されるソフトウェア
PaaS(Platform as a Service):
IaaS(Infrastructure as a Service):
PaaSとIaaSはいずれも、仮想マシンを自分のマシンのように動かすサービスを提供する。
(スケーリング)PaaSの場合、アプリケーションの負荷が上昇したときにサーバーなどのハードウェア資源を自動的に増強してくれる。IaaSではアプリケーション開発者が資源増強を考慮する。
(自由度)PaaSでは使えるOSやミドルウェアが限定される。IaaSでは好きなOSやミドルウェアをインストールしてアプリケーションを開発できる。

低料金
Amazon EC2では、例えば2CPU×2コア+メモリー1.5Gバイトで1時間あたり0.5ドルで使えます。Amazon S3は、保存するデータ容量1Gバイトあたり月額0.15ドルで利用できます。

第4章では、日経BP社が運営するITproで「ITproリコメンド」というサービスを開始するにあたり、Amazon EC2を利用した経緯が詳細に紹介されています。システム専門家ではなく、記者がシステムを構築し、2ヶ月で本番稼働にこぎ着けました。

クラウドを利用するということは、ネットの向こう側にあるクラウドに情報を預けることです。情報が極秘情報である場合、セキュリティーが心配になります。
この本において、「日本人は米国人と比較するとセキュリティーが恐くてクラウドを利用しない場合が多い」ということは記述されています。しかし、「現在のクラウドサービスについて、極秘情報を預けるに足りるセキュリティーが確保されているか否か」という結論については明確にしていませんでした。

日本郵政グループの郵便局会社は、セールスフォース・ドットコムが提供する顧客管理サービスを利用する世界最大の利用企業です。顧客情報をクラウドに預けるという決断をしたわけで、クラウドのセキュリティーを信頼することに決めたのでしょう。

セキュリティーに関する大企業の心配を逆手にとったサービスが、IBMの「プライベート・クラウド」です。
アマゾンやグーグルのクラウドは、これら企業が提供するデータセンターを利用するわけです。しかし大企業は、自社の極秘データを外に出したくありません。IBMは、クラウドを支える技術をそのまま用い、社内にクラウド的なデータセンターを構築するサービスを「プライベート・クラウド」と名付けました。ハードまでを保有する点で一般的なクラウドとは異なりますが、クラウド技術を適用した結果として安価で融通性のあるシステム構築が可能になったのでしょう。
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