弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

ビジネスモデル特許の現況

2007-10-08 08:37:22 | 知的財産権
一時期一世を風靡したビジネスモデル特許出願は、最近ではすっかり下火になっていますが、今でもときどき「こんな発明をしたのですが特許出願できるでしょうか」という相談を持ちかけられます。
「特許庁の審査の基準が厳しく、ほとんど特許にならないようです」「今回ご相談の発明では、まず特許化は難しいでしょう」といったような回答をするのですが、特許庁での審査実務の実情を詳しく把握しているわけではありません。
私自身、何件かの案件を審査請求していますが、審査の進捗が遅いのか、いまだに1件もファーストアクションに到っていません。


10月5日、弁理士会主催で「ソフトウェア関連発明の出願及び中間処理」という題名の研修会が開かれました。講師は弁理士の市原正喜先生です。私にとっては実務の状況を知り得るチャンスということで、聴講してきました。


現状において、多くの出願で、「特許法29条1項柱書き違反」という拒絶理由を受けるようです。端的には、審査官に「ありふれた処理をしているだけ」との心証を持たれたら、「これは特許法で保護すべき発明ではない」ということで柱書き違反とされるようです。
「周知技術を適用しただけ」ということであれば、本来であれば「進歩性なし」「新規性なし」として拒絶されるはずですが、ソフトウェア関連発明の分野では、まずは「発明ではない」として拒絶されます。
この場合、いくら「自然法則を利用している」旨の主張とそのための補正をしても効果はなく、「ありふれた処理ではない」と審査官に納得してもらわない限り、新規性・進歩性を評価する土俵にたどり着けないということです。

多くの審査官は、ソフトウェア関連発明の審査では、「対象となる処理に自然法則の利用を求めない以上、少なくとも周知技術に対して当業者の通常の創作能力の発揮に当たるようなものは発明とは認められてい」と考えているらしいのです。


審査の実態では、審査官毎の判断のばらつきが相当に大きいようです。


明細書に添付する図面において、「システム構成図」「機能ブロックズ」「フローチャート」が必須とのことです。
特に「システム構成図」がないと、特許してくれないことが多いとのことでした。システム構成図とは、事例によると、「CPU、メモリ、キーボード、マウス、ディスプレイ」の文字をそれぞれ囲った四角形が、線で結ばれているだけの図です。こんな図が有るかないかで、特許性が左右されるということですか。ちょっと信じられないような審査実務ですね。


拒絶理由対応の説明の中で、審査官が通常主張することの多い内容として、
①人間の精神的活動に基づいて行われる処理である
②ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的な手段がない
③単なる人為的な処理に過ぎない、単なる・・・に過ぎない
が挙げられ、それぞれについて対応の方針が示されました。


審査官段階でどのような審査が行われているのか、大雑把に掴むことができました。
さらには、査定不服審判でどのような判断がなされているのか、審決取消訴訟ではどうなのか、といったあたりを知りたいと思います。
続編の研修会を期待しましょう。
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3 コメント

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マニュアル審査官 (鳥海)
2007-10-17 10:48:13
最近の審査官はマニュアルに忠実なので、ときに突拍子もないことを言いだします。
寿命予測方法の発明で、センサーをセットする位置について「特定箇所を選択して設置する」としたら、選択する行為は人為的行為だそうで、柱書きでやられました。機器の寿命予測の分野の特許では「選択する」は許されているのですが、当初発明の名称を「・・・システム」としたため、電子商取引の部屋で審査され、このような結果となりました。
審査官と議論したのですが、化学的方法における「撹拌する」や「混合する」は許されるのだそうです。
ズバリの先行技術(拒絶理由通知にはない)がみつかったので、先には行きませんでした。
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ビジネスモデル特許の審査 (ボンゴレ)
2007-10-17 12:36:41
鳥海さん、コメントありがとうございました。

マニュアル審査官に当たってしまって、災難でしたね。

講演会で、事例を検討しながら思ったのですが、ビジネスモデル特許の明細書を読むことは苦痛以外の何者でもないですね。
普通の技術分野であれば、明細書を読むことは新しい技術に触れることでもあり、喜びを伴います。しかし、ビジネスモデル特許の場合は、ほとんどの事例で、ただただ読むのがうっとうしいだけのようです。

このような明細書を毎日読まされていたら、審査官も性格が悪くなるのではないかと危惧しました。
いい発明のようだから、なんとか協力して特許を成立させてあげよう、という気持ちにはならないのではないかと。
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Unknown (とおりすがり)
2007-10-21 22:53:05
「拒絶理由対応の説明の中で、審査官が通常主張することの多い内容として」→審査官は主張などしない。

あと、ビジネスモデル特許といっても電子商取引の審査室だけで審査しているわけではないが、特許庁では電子商取引の審査室だけ露骨にバイアスがかかっていると聞く。

ところで、どの審査室で審査されてるかって
代理人はちゃんとわかっているのですかね?
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