<1209> この世の風景 (1)
いつしかの笑顔 彼の亡骸に 顕つなり 術なき ものを思はせ
例えば、天と地。その間にあって私たちは生きている。これを一例として、相対なるものに思いを巡らせば、以下のごとく列挙して尽きることのないほどである。例えば、生と死、生の極みに死がある。喜と悲、喜びがあれば、その反対の悲しみがある。このことを冒頭の一首には込めたつもりである。彼の死に際して、彼のいつしかの笑顔が蘇る。死、それは術なきもの。諦めるほかないのであるが、思いは残る。死に際して彼の生前の笑顔に思いがゆくのも特別なことではなかろう。例えば、次のような歌もある。
遂に行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを 在原業平
あひ見ての後の心にくらぶれば昔は物をおもはざりけり 藤原敦忠
二首が何を言っているか。例えば、明暗。明るいところがあれば、暗いところもある。明るいところで暗闇に思いを致し、暗闇に明日を思う。つまり、明暗あってこの世は成り立ち、明暗あってこの世の生業もあり、歌なども生まれる。これは節理の一端と見なせよう。この世の風景に現れる。見て、思う。または、思って、見る。私たちはその繰り返しによりこの例えば明暗総体の世の中の時の風景の中に生きている。
私たちには天と地を避けては生きられない。時の流れは止めることが出来ない。人生はまさにかくのごとくであり、暗闇があって明るさは明るさの意味を持ち、明るさがあって暗闇は暗闇の意味をなす。では、列挙して果てないところ、この世の相対にあるものを以下に見てみよう。 写真は昼と夜の空。
天と地。地ゆゑに天が天たること。天ゆゑに地が地たること。 東と西。西ゆえに東が東たること。東ゆえに西が西たること。
南と北。北ゆえに南が南たること。南ゆえに北が北たること。 昼と夜。夜ゆえに昼が昼たること。昼ゆえに夜が夜たること。
陽と陰。陰ゆえに陽が陽たること。陽ゆえに陰が陰たること。 明と暗。暗ゆえに明が明たること。明ゆえに暗が暗たること。
生と死。死ゆえに生が生たること。生ゆえに死が死たること。 始と終。終ゆえに始が始たること。始ゆえに終が終たること。
新と旧。旧ゆえに新が新たること。新ゆえに旧が旧たること。 入と出。出ゆえに入が入たること。入ゆえに出が出たること。
発と着。着ゆえに発が発たること。発ゆえに着が着ことある。 表と裏。裏ゆえに表が表たること。表ゆえに裏が裏たること。
内と外。外ゆえに内が内たること。内ゆえに外が外たること。 和と洋。洋ゆえに和が和たること。和ゆえに洋が洋たること。
近と遠。遠ゆえに近が近たること。近ゆえに遠が遠たること。 長と短。短ゆえに長が長たること。長ゆえに短が短たること。
深と浅。浅ゆえに深が深たること。深ゆえに浅が浅たること。 前と後。後ゆえに前が前たること。前ゆえに後が後たること。
左と右。右ゆえに左が左たること。左ゆえに右が右たること。 上と下。下ゆえに上が上たること。上ゆえに下が下たること。
高と低。低ゆえに高が高たること。高ゆえに低が低たること。 縦と横。横ゆえに縦が縦たること。縦ゆえに横が横たること。
頭と尾。尾ゆえに頭が頭たること。頭ゆえに尾が尾たること。 大と小。小ゆえに大が大たること。大ゆえに小が小たること。
多と少。少ゆえに多が多たること。多ゆえに少が少たること。 太と細。細ゆえに太が太たること。太ゆえに細が細たること。
広と狭。狭ゆえに広が広たること。広ゆえに狭が狭たること。 厚と薄。薄ゆえに厚が厚たること。厚ゆえに薄が薄たること。
濃と淡。淡ゆえに濃が濃たること。濃ゆえに淡が淡たること。 動と静。静ゆえに動が動たること。動ゆえに静が静たること。
行と帰。帰ゆえに行が行たること。行ゆえに帰が帰たること。 昇と降。降ゆえに昇が昇足ること。昇ゆえに降が降たること。
伸と縮。縮ゆえに伸が伸たること。伸ゆえに縮が縮たること。 剛と柔。柔ゆえに剛が剛たること。剛ゆえに柔が柔たること。
強と弱。弱ゆえに強が強たること。強ゆえに弱が弱たること。 硬と軟。軟ゆえに硬が硬たること。硬ゆえに軟が軟たること。
重と軽。軽ゆえに重が重たること。重ゆえに軽が軽たること。 直と曲。曲ゆえに直が直たること。直ゆえに曲が曲たること。
鋭が鈍。鈍ゆえに鋭が鋭たること。鋭ゆえに鈍が鈍たること。 丸と角。角ゆえに丸が丸たること。丸ゆえに角が角たること。
凸と凹。凹ゆえに凸が凸たること。凸ゆえに凹が凹たること。 晴と曇。曇ゆえに晴が晴たること。晴ゆえに曇が曇たること。
暑と寒。寒ゆえに暑が暑たること。暑ゆえに寒が寒たること。 乾と湿。湿ゆえに乾が乾たること。乾ゆえに湿が湿たること。
熱と冷。冷ゆえに熱が熱たること。熱ゆえに冷が冷たること。 暖と涼。涼ゆえに暖が暖たること。暖ゆえに冷が冷たること。
起と伏。伏ゆえに起が起たること。起ゆえに伏が伏たること。 接と隔。隔ゆえに接が接たること。接ゆえに隔が隔たること。
集と散。散ゆえに集が集たること。集ゆえに散が散たること。 満と干。干ゆえに満が満たること。満ゆえに干が干たること。
急と緩。緩ゆえに急が急たること。急ゆえに緩が緩たること。 速と遅。遅ゆえに速が速たること。速ゆえに遅が遅たること。
順と逆。逆ゆえに順が順たること。順ゆえに逆が逆たること。 清と濁。濁ゆえに清が清たること。清ゆえに濁が濁たること。
~ 次 回 に 続 く ~