<1520> カワセミとカイツブリ (1)
羨望は 己に出来ぬ それゆゑに 湧き来る相手に 対する思ひ
雨量の少ない瀬戸内海の気侯帯に属する奈良盆地の平地部、所謂、大和平野は年間降水量が想像以上に少なく、大きな河川もないところから、用水確保の溜池が極めて多い特徴がある。こうした土地柄を反映した溜池の中に周囲一キロほどの上池、下池という名の連なる池が葛城郡にある。半分ほどは雑木林に囲まれ、よく自然が残っているため、野鳥が多く、今は辺り一帯が自然公園として開かれ、バードウォッチングの観察ポイントにもなっている
その池の一角に葦の群生する湾処があり、その湾処の浅瀬には小魚が多く、ときにその小魚を狙ってサギやクイナが現われるが、よく姿を見せるのはカワセミとカイツブリで、ほぼ毎日のようにやって来る。カワセミは水辺に伸びた落葉小高木の小枝によくとまっている。くちばしが身の丈に似合わないほど大きく、背羽が瑠璃色、腹が茶色をした美しい鳥なので直ぐにわかる。カイツブリはコガモより一回り小さく、よく水に潜るので、他の水鳥と見わけがつく。
今日は、この池のカワセミとカイツブリから想像を膨らませたお話である。こうした野鳥なども想像力を逞しくして見ると、観察も一団と楽しくなって来る。 カワセミもカイツブリもこの湾処によく姿を見せるので互いに相手をよく知っている。この場所に来る目的は、サギやクイナに等しく、ともに小魚が狙いで、カワセミはひたすら定位置にしている雑木の小枝にとまって好機を待ち、一方のカイツブリは間隔を置いて水中に潜り小魚の群を追っている。それはまさしく静と動の姿で、剣豪の宮本武蔵と佐々木小次郎を想起させるところがある。
突然、水面めがけて弾丸のように飛翔し、水飛沫を上げて瞬時に小魚に襲いかかるカワセミは、しかし、失敗することも間々ある。これに対し、カイツブリも大きい水掻きを持つ足の力によって、水中を自在に泳ぎ、小魚を捕える。しかし、カイツブリも水面に浮び上がるまでの間、「何をしていたのか」と問われるような光景、即ち、くちばしに獲物の小魚が見られないことが間々あるといった具合である。
ともに得意とする早業には訓練と経験がものを言うようで、これには涙ぐましい日常の努力が必要で、ともに前向きに取り組んでいるが、小魚を捕まえたときの得意満面な表情をカワセミにしてもカイツブリにしても互いに垣間見るとき、カワセミはカイツブリに、カイツブリはカワセミに少なからぬ羨望を抱くという心理が働くのであった。カワセミはカイツブリのように水中に潜れたらどんなにいいだろうと思い、カイツブリはカワセミの陽光を浴びて瑠璃色に輝く一閃の飛翔に甘美なものを感じ、自分もその一閃の飛翔に挑戦してみたい心持ちになったのであった。 写真は捕えた小魚を銜えるカワセミ(左)とカイツブリ(右)。 ~次回に続く~
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