<726> ジュズダマ (数珠玉)
病弱にしてありし我が少年期 あるは晩夏の数珠玉の色
幼少期、よく扁桃腺を腫らして四十℃近い熱を出した。風邪と違って、扁桃腺炎というのは暑い夏の季節にも出た。体が弱っているときに出るのではないかと思われる。私の場合はよく夏休みの終わりころに出た。喉が痛いときと、それほどでもないときがあったが、高い熱は必ず出て、発熱している間は体が言うことを訊かなくなった。
夏休みの終わりころに出ると、二学期の始まるのが気になるが、高熱の後、微熱が続くようなこともあって、そういうときは二学期早々休まざるを得なくなる。そういうことで、私の幼少期の一面は病弱だったと言ってよいかも知れない。これはいい体験ではないが、人の感性などというのは、このように、幼少期の体験を含め、生活環境というものが影響を及ぼし、培われてゆくのだろうという気がする。
通学路に当たる小さな川にジュズダマ(数珠玉)が群生し、その川の傍に民家が何軒かあって、その中の一軒で、或る夏、疫痢が出た。幼い女の子が罹った。大人の赤痢に等しく、幼児が罹る法定伝染病の一つで、その家は立ち入りが禁止され、白い粉を吹き出す消毒の機器が持ち込まれ、家中を消毒して回るのをジュズダマの生える川の橋から見た。四、五年生のときだったと思う。そういうこともあって、ジュズダマというのは病弱だった私の感性に触れて来たのに違いない。
このごろ、疫痢や赤痢というのは、日本脳炎とともにその名をほとんど耳にしなくなったが、昔は夏の怖い病気としてよく耳にした。その女の子は命まで奪われることはなかったが、一夏を大騒動に巻き込んだ。私のジュズダマにはこのときの印象が強く影響しているように思われる。
ジュズダマはイネ科の多年草で、熱帯アジアの原産とされ、日本には古くに渡来し、各地に分布、川沿いなどでよく見られる。草丈は一、二メートルに及び、群生する。果実は夏から秋に見られるが、茶色く熟すと、堅くなり、昔はこれをおてだまの具にしたり、数珠玉鉄砲の弾にして遊び、枕などにも入れた。別名をトウムギ(唐麦)という。写真左は群生するジュズダマ(十月中旬撮影)、右は実をつけ始めたジュズダマ(八月上旬撮影)。
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