大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年01月21日 | 植物

<2214> 大和の花 (424) シラキ (白木)                                              トウダイグサ科 シラキ属

           

 山地の落葉樹林帯の渓谷沿いで見かけられる落葉小高木で、高さは4メートルから6メートルほどになる。樹皮は灰褐色または灰白色で、浅い罅が入る。葉は長さが7センチから10数センチの卵状楕円形で、縁には鋸歯がなく、先は尖る。表面はやや光沢があり、裏面は緑白色で、両面とも無毛。1センチから1.5センチの葉柄を有し、互生する。カキの葉に似たところがあり、紅葉する。

 花期は5月から7月ごろで、枝先に長さ7、8センチの総状花序を立て、黄色い小さな花をつける。花序の上部には雄花が多数つき、基部には雌花が少しつく。つかない花序も見られる。雄花は長さ3ミリほどの柄があり、雄しべは2、3個。雌花はこれも長さ7ミリほどの柄があり、雌しべは3個。蒴果の実は直径2センチ弱の扁球形で、雌しべの花柱が残り、10月から11月ごろ黒褐色に熟して3裂する。実には油分が多く、昔は種子から油を採り、食用や灯火に利用した。材が白いのでこの名がある。

 本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島から中国にも見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域で見られが、散見されることが多い。吉野山地の冷温帯下部域に広がるブナ帯のブナ・シラキ群集は、広く見られたが、「国立公園や国定公園の重要地域を除いて、1950年頃始まった拡大造林などによって本群落のほとんどは消滅した」と言われ、「消滅のおそれ大」の群集として奈良県版レッドデータブックにあげられている。 写真はシラキ。左から花序をいっぱい立てた枝木、花序のアップ(雌花は見られない)、紅葉と黒褐色に熟しつつある蒴果。完熟後3つに裂ける。天川村の御手洗渓谷ほかでの撮影。 大寒を過ぎしに日差し何となく

 なお、前項の冬芽の写真は(1)ウメ、(2)クヌギ、(3)リキュウバイ、(4)ハクモクレン、(5)ドウダンツツジ、(6)ミズメ、(7)サンシュユ、(8)アカメガシワ。

<2215> 大和の花 (425) ナンキンハゼ (南京櫨・南京黄櫨)                トウダイグサ科 シラキ属

               

 中国原産の落葉高木で、高さは大きいもので20メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、縦に不規則な裂け目が出来る。若枝は緑色で、褐色に変わる。葉は長さが大きいもので7センチ前後の菱状広卵形で、先が尾状に尖り、基部は広いさび形。縁に鋸歯はなく、両面とも無毛。長さが2センチから8センチの柄を有し、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、枝先に5センチから20センチ弱の総状花序を出し、黄色の小さな花を多数つける。花序は最初のうちは立つが、花盛りになると垂れる。花序には上部に雄花、基部に雌花が位置するが、雌花のない花序も見られる。蒴果の実は3稜のある扁球形で、10月から11月ごろ褐色に熟し、裂開する。3つに裂けた果皮は脱落し、中の白い臘質の仮種皮に包まれた3個の種子が中軸にくっついて残る。種子は直径7ミリほどの広卵形で、冬になっても落ちるものは少なく、枝々の先に白い花が咲いたように見える。

 夏に展開する新緑は瑞々しく、ほかの木々より早く色づく秋の紅葉は鮮やかで美しく、葉を落とした枝々に残る白い実は冬の青空に映え、その姿は四季折々の風情を見せ、街路樹や公園樹に好適な樹種として認められ、日本各地で植栽されている。大和(奈良県)では北部の都市部に多く見られ、殊に奈良公園一帯に際立ち、公園の周辺では野生化したものも見られる。この野生化は逸出の典型例としてあげられる。これについては別項で触れてみたいと思う。

 なお、ナンキンハゼ(南京櫨・南京黄櫨)の名は、中国の地名南京に因むもので、みごとな紅葉がハゼノキ(櫨・黄櫨)に似て美しいことによる言われる。漢名は烏桕(うきゅう)。中国では実から種子を採り、これに熱を加えて臘様物質を取り出して蝋燭を作る。中国蝋燭と言われる蝋燭で、油煙が少ない特徴があるという。また、樹皮や葉や実は煎じて、服用すれば利尿に効能があるとされ、薬用植物にもあげられている。 写真はナンキンハゼ。左から咲き始めの花(花序が立っている)、花盛りの花(花序が垂れ下がっている)、紅葉、冬木の枝々の先についた白い実 (いずれも奈良公園)。    青空のキャンバスにして白き実の南京櫨は奈良の冬色

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 奈良時代の昔より中国との関わりが深く、仏教をはじめとする中国の文化を取り入れて都を形成して来た古都の奈良は、他の都市には見られないその風情を存分に発揮している特色ある都市と見ることが出来る。また、今一つには、市街にほぼ接して国の特別天然記念物である一部神域の春日山原始林を背景とする広大な奈良公園に象徴される自然豊かな環境を誇る宗教都市としての姿がある。そして、その魅力をもって来訪する人々を迎える国際的観光都市として今に至り、栄えている。

 このような自然と歴史に負うところが見られる都市形成の経緯の中で、近年、紅葉の美しい中国原産のナンキンハゼ(南京櫨・別名唐櫨)が街路樹並びに公園樹に導入された。結果、四季の風情に富むナンキンハゼは古都を彩るに相応しい樹種として喜ばれて来た。その一方、毎年、大量に産出される蒴果の実を野鳥が好んで食べ、糞とともに種子を周囲の山野に拡散し、至るところにナンキンハゼが生え出し、生えて欲しくないところにも生えるということが起きるようになった。

  山焼きでお馴染みの若草山はその一例で、陽樹のナンキンハゼは日当たりのよい草地の若草山に生え出して来た。これは若草山とナンキンハゼが植栽された市街や公園の距離と野鳥の飛翔距離に関わるところで、その距離が野鳥の飛翔距離に比べ短いという奈良の特性と見なせる。

                

  このところ、若草山におけるナンキンハゼの繁茂が著しく、草原の景観に影響を及ぼすほどになり、大和(奈良県)では珍しいイトススキの群落の植生をも圧する勢いを示すに至り、刈り取りなどの措置が取られるようになった。また、陽樹であるナンキンハゼは陰樹の極相林に被われている若草山の背後に隣接する春日山原始林には広がらないと考えられていたが、台風による倒木などの被害跡に侵入した例が報告されるなど、その広がりが一層懸念されるに至って、問題提起さるに及んでいる。

  奈良公園から春日山一帯の植生は、野生、植栽に関係なく、春日権現の神鹿として国の天然記念物に指定され保護されている奈良公園のシカの影響下にバランスされて成り立っているところがある。所謂、シカの食害との関係性に深く関わっている。若草山で見れば、シカが食べないワラビやコガンピが多く見られ、ナンキンハゼもシカが口にしないため、旺盛に繁る状況にある。ススキの成長を促す山焼きにも影響するイトススキの減少を食い止めるため、若草山ではシカ避けの防護フェンスを巡らせるなどの対策を施しているが、野鳥によって空から散布されるナンキンハゼの種子は防ぐことが出来ないのが実情で、今のところ幼木の刈り取りが行なわれているという次第である。

  これは実に悩ましい問題であるが、前述したように奈良が有するほかの都市には見られない特殊性と奈良時代に遡る古い歴史に彩られ、その特色をもって都市を発展させて来た中において生じている悩ましさがこのナンキンハゼの勢いにはあることが思われて来る。「日の当たる場所が登場すると、日陰もできる」のが世の常、即ち、これが現実で、ナンキンハゼのこの問題は、当然のこと食害に及ぶシカにも言えることで、この問題を解決する悩ましさは、私たちの生そのものに生じる悩ましさに等しいということが思われる。

 この問題に臨むにはどちらにウエイトを置くかで、バランスの問題であることが思われる。ナンキンハゼで言えば、四季の風情である街路樹や公園樹の効用を認めるか、若草山などの植生を守ることに重点を置くかであるが、二者択一ではこの問題は落ち着かないだろう。両方のバランスを如何に取るかということで、若草山においては、侵入するナンキンハゼに対し、幼木の刈り取りという手段に出ているわけである。

  思うに、この問題は、ナンキンハゼの種子に関わるから、種子を何とかすれば解決できる。ということで、思いつくのが大量に及ぶ種子を鳥が食べる前に収穫し、奈良の特産品の開発に利用するということ。実は蝋燭に用いられると言われるが、ほかに何か出来ないか。そんなことも頭を過ったりする。 写真は左からナンキンハゼの実、ナンキンハゼの実を啄むツグミ、若草山に生え出して繁るナンキンハゼの幼木(手前はイトススキの群落地、後方は春日山原始林。昨年9月9日写す)。

 


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