<2894> 大和の花 (957) シチョウゲ (紫丁花) アカネ科 シチョウゲ属
川岸の岩盤上や谷筋の崖地などに生える落葉小低木で、20センチから70センチほどになり、よく分枝する。葉は長さが1.5センチから3.5センチほどの狹長楕円形で、縁に鋸歯はなく、対生する。葉の間には小さな托葉が見られる。
花期は7月から8月ごろで、葉腋の短枝に紅紫色の小さな漏斗状の花を数個つけ、先が5裂し、裂片は平開する。花の白いものはシロバナシチョウゲ(白花紫丁花)という。本州の紀伊半島と四国の高知県に分布を限る日本の固有種で、大和(奈良県)では南端部の十津川村で見かける。花の色が紫色に近く、形がチョウジ(丁子)の花に似るのでこの名があるとう。
写真はシチョウゲ。岩崖に生え花を咲かせる個体(左)、花のアップ(中)、花が白いシロバナシチョウゲ(右)。シロバナシチョウゲは十津川村に隣接する和歌山県北山村での撮影。 一年の計無惨なり十二月
<2895> 大和の花 (958) クチナシ (梔子) アカネ科 クチナシ属
山地や丘陵の林縁に生える常緑低木で、1メートルから2メートルの高さになり、よく分枝する。樹皮は灰褐色で、新しい枝は緑色。葉は長さが5センチから12センチほどの長楕円形で、先は細く尖り、縁には鋸歯がなく、革質でやや光沢があり、短い柄を有して対生または3輪生。4個が合着して筒状になる托葉がある。
花期は6月から7月ごろで、枝先に直径6、7センチの芳香のある白い花を1個ずつつける。花弁は普通6個で、雄しべと同数。葯は花弁の間から花の外に出る。雌しべの花柱は一個でこん棒状。実は液果で、長さが2、3センチの楕円形。6個ほどの稜があり、先に細長い萼片が残り、秋に黄橙色に熟す。クチナシ(梔子)の名は、「口無し」の意で、実が熟しても裂開しないことによるという。梔子は漢名。
本州の静岡県以西、四国、九州、沖縄に分布し、国外では中国南部、台湾、インドシナ、ヒマラヤ地方に見られるという。大和(奈良県)では野生のものをときおり見かけるが、自生か植栽起源かはっきりしないものが多い。野生のものは一重咲きで、植栽には一重、八重両方が見られる。また、中国原産の丈が低いコクチナシ(小梔子)も公園などで見かける。
花の匂いには定評があり、中国ではウメ、ユリ、キク、ケイカ、マツリカ、スイセンとともにクチナシを7香にあげている。私のイメージでは春のジンチョウゲ(沈丁花)、夏のクチナシ(梔子)、秋のキンモクセイ(金木犀)、冬のロウバイ(蝋梅)がある。
熟した実は昔から染料に用いられ、これで染めた赤みを帯びた黄色は山梔子(くちなし)色と言われ、平安時代には山梔子衣がよく着用された。クチナシの実は無毒で、衣服だけでなく、食物の色付けにも用いられ、今でもきんとんや餅、沢庵などの着色に利用されている。奈良の薬師寺では境内のクチナシから採取した実を厄除けの牛王護符の朱印に用いるというのを聞いたことがある。
実は薬用ともし、漢方では実を乾燥したものを山梔子(さんしし)と呼び、利尿、解熱、鎮痛などに用いられる。なお、『古今和歌集』の詠人未詳の歌に「みみなしの山のくちなしえてし哉おもひのいろのしたぞめにせん」とある。これは平安時代大和三山の耳成山にクチナシが生えていたことを物語るものであるが、大和(奈良県)の今日では北端部と南端部に自生が限られていると調査報告にある。 写真はクチナシ。左から花期の姿、花のアップ、熟した実、園芸種の八重咲き。 まづは冷ゆる足先よりぞ冬に入る