大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年09月13日 | 植物

<2806> 大和の花 (892) リョウブ (令法)                                              リョウブ科 リョウブ属

             

 丘陵や山地の日当たりのよい明るいところに生える落葉小高木で、高さは6メートルから10メートルほどになる。樹皮は茶褐色で、老木になると不規則に剥がれてまだら模様になり、ナツツバキの幹に似るところがある。葉は長さが数センチから15センチほどの倒卵状長楕円形で、先が短く尖り、基部はくさび形。縁には鋭く尖る細かい鋸歯が見られ、長さが1センチから4センチの柄を有し、互生する。

 花期は6月から8月ごろで、枝先に10センチから20センチの総状花序を数個出し、白い5弁花を多数つけ、花序軸には白い星状毛が密生する。花弁は長さが6、7センチの長楕円形で、先がやや凹む。雄しべは10個あり、花弁より長く伸び出す。雌しべは1個。萼は鐘形で、萼片は5個。外側に軟毛が密生する。蒴果の実は平たい球形で、熟すと褐色になり、裂開する。

 北海道南部、本州、四国、九州に分布し、国外では韓国の済州島に見られるという。1科1属で、世界には約60種と言われるが、日本には本種のみという孤独で淋しい樹種であるが、繁殖力は抜群で、暖温帯域から寒温帯域まで、垂直分布の幅が広く、群生することも多い。大和(奈良県)には多く、全域で普通に見られる。

  リョウブ(令法)の名は、令法(りょうぼう)の転と言われ、令法(りょうぼう)は若葉を食用にし、救荒植物として扱われ、若葉の採取と貯蔵を命ずる令法が発せられたことによるという。なお、食用のほか、材が緻密で美しいことから、建築材や器具材に用いられ、殊に床柱がよく知られる。また、薪炭材としても知られ、庭園などの植木としても用いられる。まことに重宝な樹種である。  写真はリョウブ。左から花盛りの群落、花を咲かせる山岳の尾根筋の個体、花序と葉のアップ。、樹氷の雪片がついた実(大台ヶ原山と高見山)。 名月やああ名月や名月や

<2807> 大和の花 (893) ウリノキ (瓜木)                                      ウリノキ科 ウリノキ属

                

 山地の林内に生える落葉低木で、高さは3メートルほどになる。樹皮は灰色で、滑らかにして丸い皮目がある。葉は長さ幅とも7センチから20センチで、浅く3裂から5裂し、裂片が鋭く尖る。基部はやや心形で、質は薄く、5センチから10センチの柄を有し、互生する。この葉の形状により、花がなくても判別出来る。この大きい葉がウリの葉に似るのでこの名がある。

 花期は6月ごろで、葉腋に集散花序を出し、白い6弁花を数個つける。花弁は長さが3センチ超の線形で、外側にくるりと巻き、長さが3センチほどの雄しべ12個が総状に伸び出し黄色の葯が目につく。雌しべの花柱は白色で、一個が雄しべより長く、柱頭が見える。実は楕円形の核果で、藍色に熟す。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では南部の山中に多く、暖温帯域から冷温帯域に見られる。 写真はウリノキの花(東吉野村)。    秋日和鐘穏やかに法隆寺

<2808> 大和の花 (894) ヒロハツリバナ (広葉吊花)                               ニシキギ科 ニシキギ属

          

 深山の林内や林縁に生える落葉小高木で、高さは3メートルから6メートルほどになる。樹皮は滑らかな灰色で、本年枝は緑色。葉は長さが3センチから12センチの倒卵状楕円形。先は長く尖り、縁には細かい鋸歯。両面とも無毛で、短い柄を有し対生する。

 花期は5月から7月ごろで、葉腋から集散花序を垂れ下げ、黄緑色の小さな花を多数つける。花は直径6ミリほどで、花弁、萼片、雄しべは4個。花盤が発達し、雄しべは花盤の上につき、花糸はごく短い。蒴果の実は発達した翼が四方に出来、直径2センチほど。秋に紅色に熟し4裂して橙赤色の仮種皮に包まれた種子を見せる。

 北海道、本州、四国に分布し、朝鮮半島、シベリア東部、中国東北部に見られるという。大和(奈良県)では大峰、台高山地の深山に自生、よく出会う大台ヶ原山の個体は花ほど実はつかず、赤く熟して裂開した実は未だ見ていない。何らかの原因で未熟のまま落果するのではなかろうか。

  ヒロハツリバナ(広葉吊花)の名はツリバナより葉が大きく、花や実が垂れ下がってつくことによる。 写真は左から垂れ下がって咲く花、下から見上げた花群、一つだけぶら下がる若い実、幹(シカの食害はないようである)。   秋は来ぬ哲学しよう思ひ切り

<2809>大和の花(895)ミツバウツギ(三葉空木)                           ミツバウツギ科ミツバウツギ属

               

 日当たりのよい山地の湿ったところに生える落葉低木で、高さは3メートルから5メートルほどになる。よく分枝し、小枝が対生状に伸び、全体にこんもりと繁った樹形になる。葉は3出複葉で、頂小葉が側小葉より大きい長卵状楕円形から卵形となり、頂小葉は長さが8センチから16センチほどになる。小葉の先は尖り、縁には芒状の鋸歯が見られる。

 花期は5月ごろで、本年枝の先に円錐花序を出し、微かに芳香のある白い花をつける。花は長さが1センチ弱で、花弁と萼片と雄しべは5個、雌しべは一個つく。花弁は雄しべと雌しべを囲んで直立し、平開しない。萼片はほぼ平開し、花弁と見間違うところがある。蒴果の実は幅が2センチ超の扁平な矢筈形で、横皺が入り、矢筈の両端は尖る。秋になると実は褐色に熟す。

 北海道、本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では奈良盆地の平野部を除いてほぼ見られるようであるが、個体数は多くないとの報告がある。私は下市町の長谷川(丹生川支流)沿いと天川村の大峯奥駈道(標高1450メートル)付近の石灰岩地で見かけた。

  なお、ミツバウツギ(三葉空木)の名は葉が3出複葉で、幹がウツギ(空木)のように中空であることによる。 写真はミツバウツギ。白い花をいっぱいにつけた花期の姿(左)、爽やかな花をつけた枝木(中)、扁平な矢筈形の実(右・熟すと褐色になる)。         秋風や柚子実太り増しにけり