<602> シロバナウンゼンツツジ (白花雲仙躑躅)
白い小さなかわいい花だ
風が渡ってゆくたびに
花はやさしく撫でられて
ゆり籠みたいに揺れている
小川の水はさらさらと
白い小さなかわいい花は
流れの音を汲むように
止むことなしに揺れている
揺れていよいよ春の中
春は日長の心地よさ
また、生駒市のくろんど池に出かけた。シロバナウンゼンツツジの花を撮影したいため。二年越しで探しているが、これまで数回、見つけることが出来ずにいた。今日は場所を変えて少し範囲を広げて歩いてみた。結果、やっと見つけることが出来た。普通のツツジよりも花が小振りで、固まって咲かず、一つ一つ花がつく特徴がある。葉もほかのツツジに比べて小さく、シロバナウンゼンツツジに間違いない。近畿の分布は生駒山系のこの辺り一帯に限られ、ここより東には分布しない暖地型の落葉低木で、林縁等の明るいところに生えるようである。
『万葉集』には九首にツツジが登場するが、その中に「白つつじ」で見える歌が三首ある。三首とも「美保の浦」、「鷺坂山」、「佐紀野」と場所が特定された歌で、これを素直に見ると、美保の浦は和歌山県日高郡美浜町美尾付近、鷺坂山は京都府城陽市久世、佐紀野は奈良市佐紀町付近と考えられ、ほぼ同じ東経に位置するのがわかる。
ここで万葉の白つつじが如何なる種類のツツジかということが問われることになるが、これにはこれまであまり触れられていない。思うに、園芸種を除いて、大和に白い花を咲かせる白つつじはゴヨウツツジのシロヤシオとシロバナウンゼンツツジしか見られない。この植生の自然分布の観点から、シロヤシオは紀伊山地の深山に生育するもので、歌の場所には当てはめられず、園芸種も当時は見られなかったから、三首に登場可能なのはこのシロバナウンゼンツツジのみということになる。
このツツジは個体数の減少で、現在、奈良県では希少種にあげられているが、大阪側では少し多く見られるようで、場所的には東経を同じくする歌の三箇所に一致することが指摘出来る。現状は厳しい個体であるが、万葉当時にはもう少し数も多く、広範囲に見られたということも考えられるから、万葉の白つつじは、このシロバナウンゼンツツジではないかと思われて来るわけである。 初めて実物に出会ったが、想像以上に可愛らしい花であった。 写真は左がそのシロバナウンゼンツツジ、右はシロヤシオ。