<215> 流 し 雛
流し雛 野の花添へて 流さるる
一日、五條市南阿太の吉野川で行なわれた流し雛は目的地の和歌山県加太の淡島さん(淡島神社)へ無事に流れ着いただろか。 流し雛は 三月上巳の日に人形(ひとがた)をつくって、その人形に穢れを移し流す中国伝来の風習を濫殤に、平安時代のころから行なわれ、 岐阜県や鳥取県の流し雛が有名であるが、大和でも吉野川の流し雛がよく知られ、毎年四月の第一日曜日に行なわれている。
竹の皮の舟に、 大豆と竹ひごと千代紙で作った夫婦雛や子供雛などを乗せ、源龍寺(雛寺)で拝んでもらった後、付近で摘んだ草花などを添え、近くの川原に出て流す。吉野川は紀ノ川に及び、 雛舟は吉野川から紀ノ川を下り、 婦人病の平癒にご利益があると言われる「日本三淡島」で知られる紀州の淡島神社を目指すという設定になっている。 昨日は嵐であったが、そろそろ着くころであろうと思いを巡らせるのも楽しかろうと思う。
流し雛には「この一年も無事で過せますように」という婦女子の願いが込められているが、家に飾る雛人形にもこの願いが ある。 我が家の雛人形にもその願いがあるわけで、今年もその役目を担ってもらい、今日四日仕舞った。今年は寒さが続き、 春の花は全般に遅れているようで、踊子草はまだ咲いているところを見ないが、 この踊子草を添えて 吉野川の流し雛を詠んだ句が あるのを思い出した。下の句がそれである。
雛舟に 踊子草の 花乗せて 南浦小糸
写真は雛舟を流す 女の子たち(左)と竹の皮の舟に載せられて流れ行く流し雛。 私が見た舟にはレンゲ、タンポポ、スミレ、ホトケノザ、ムラサキケマン、 ハハコグサなど色とりどりの野の草花が乗せられていた。(二〇〇二年撮影)