入居者集めに苦労する地方の高齢者専用賃貸住宅(高専賃)に、生活保護者のお年寄りを金銭であっせんする「ビジネス」の存在が明らかになった。背景には、東京都内では受け入れ先のない要介護者をどうするかという深刻な問題がある。都内の自治体から生活保護を受けながら都外で生活する人は、都の1月の調査で約500人。あっせんを持ちかけた介護事業会社「いっしん」(茨城県かすみがうら市)の川島正行社長は、「相手が助けてくれと言うんですから」と、行政との太いパイプを強調した。 「入居者で困っているようですね。1人30万円でどうですか」。今夏、水戸市で介護施設を併設した高専賃を運営する「ソウジン」に、いっしんの営業担当者と関連コンサルタント会社「ケアスター」(同県土浦市)の社員が一緒に顔を出した。 ソウジン関係者は「偶然ではない」と思った。数カ月前、介護用エレベーター改修工事の見積もりで、大手ゼネコンの下請けとして川島建設が来訪していた。いっしんは川島建設の関連会社で、両社のトップを川島社長が務める。 3億円ともいわれる投資がされた高専賃(25室)は、需要予測を誤り、空室が埋まらず赤字続きだった。入居者のあっせん契約を結ぶと、いっしんの営業担当から都内で介護を必要とする生活保護者のリストがファクスで流れてきた。2カ月足らずでほぼ満室になり、現在は川島建設が持ち掛けた増築計画が進む。 送り出す側も重い問題を抱える。墨田区の担当者は「生活保護者を受け入れてくれる施設は都内では飽和状態。施設も病院も受け入れてくれない。人権を守るため、複数の業者にお願いして入ってもらっている」と言う。 川島社長は取材に「グループホームをやっている時から、生活保護者を受けられないかという相談が(行政側から)たくさんあった。23区の社会福祉事務所とか、さまざまなところと信頼関係ができている」と話した。 ◇費用回収確実な「ビジネス」 介護施設付きの高齢者専用賃貸住宅(高専賃)の運用会社が、あっせん料を支払って要介護の生活保護者を受け入れる理由は、生活保護者にかかわる保護費と介護報酬で、施設の賃料や介護費用などを確実に回収できるからだ。生活保護費と介護報酬の合計額は、1人当たり月40万円を超すケースもある。そこに「ビジネス」が生まれる。 前田雅英・首都大学東京法科大学院教授(刑法)は「あっせん料を払ったしわ寄せが、待遇などにはね返ってくる可能性もあり指弾されるべきビジネスだが、刑事事件として問うには法律を拡大解釈しなければならず無理がある」と指摘。新たな法律など、対応の必要性を強調する。 また、東京の別の業者からあっせんを持ちかけられたという証言もあり、こうした「ビジネス」が広がっている可能性は否定できない。生活保護者が意思に反して入居を強いられていないか、入居後に不当な待遇を受けていないか、チェック体制の強化は、行政の最低限の責務といえる。【立上修、山本将克】(毎日 12月11日)
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