東京多摩借地借家人組合

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日本高齢者大会第10分科会「民間借地借家人の実態と高齢者の住宅問題」

2023年12月02日 | 底地買い・地上げ
1,令和の地上げ問題、地上げ屋の手口
・東京、横浜、京都、大阪など大都市で低金利政策の下で、銀行から不動産業者や地上げ屋に資金が流れ、地上げ事件が多発し、「令和の地上げ」問題が発生している。4月3日のNHKクローズアップ現代で「追跡令和の地上げの実態~不動産高騰の裏で何が」が放送され、悪質な地上げの実態が放送された。練馬区の事例では、借地人の自宅の周りに足場を組み、電飾で飾られ、隣地の空き地で深夜まで騒がれるなど、人権侵害の嫌がらせを受けた借地人の家族が死亡する事件も発生している。
・港区白金台の賃貸マンションでは、旧家主からマンションを購入した大阪の地上げ業者の複数名の社員が夜間に居住者宅を訪問し、立退料を出すから数カ月以内に立ち退きに応じるよう契約書に署名捺印を迫り、立ち退きに応じないとマンションの1階部分に生魚をぶら下げ、ゴミをまき散らし、生卵を地面に置き「卵育て中」と書くなど、嫌がらせを行い入居者全員が数カ月以内に退去している。
・住民が警察や行政に相談しても有効な対策が取られず、事実上泣き寝入り状態。借地借家法で借地借家人の権利は守られていても、悪質な地上げを規制する法律はない。
・バブル期のように札束でほほを叩くのではなく、賃借人を脅迫に近い状態で圧力をかけ、安い立退料で追い出す。そのために様々な嫌がらせで借地借家人を精神的に追い込む。家賃や地代を毎月集金に来て、借地人に対しては「土地を買うか、借地権を売るか」二者択一を迫り、借地人が住み続けるといえば地代を大幅に値上げする、他の不動産業者に転売すると脅す。借家人の中には勤務している会社まで押しかけられ、契約期間の途中にもかかわらず不満でも地上げ屋の条件を認め、数カ月以内に転居する借家人が多い。

2、トラブルが多い借地・借家
・高額な更新料と賃料増額
 建物所有を目的に土地の賃貸借契約をしている借地人に対して、最近の地価の高騰を受け賃貸人から高額な更新料(地価の5%から10%)が20年おきに請求され、断ると更新を拒否されるが、借地人には借地借家法で法定更新が認められている。地主にかかる相続税を地代に転嫁するため高額な地代増額を請求。地価に数パーセント利回り率に固定資産税・都市格税を加えた地代を支払うよう請求。借地人の賃料支払い能力の限界を超えた請求も見られる。賃料の増額も借地借家法では賃借人は賃料の相当額の支払が認められ、賃貸人の言いなりに賃料を支払う必要はない。
・民間賃貸住宅は建物が粗悪で遮音性が悪く、近隣トラブルが多発している。
・入居時、入居期間中、退去時などトラブルが多い借家契約
 建物賃貸には不動産業者が仲介から管理、賃貸人の代理行為まで不動産業者がかかわることが多く、賃貸人と賃借人が直接契約を結ぶケースがほとんどである。賃貸人がお客さんであり、賃借人から仲介手数料、更新事務手数料、保険料(保険会社の代理店)、更新料(賃貸人と折半)、賃貸人から管理料を得て営業するため、賃貸人のために動く場合が多く、賃借人からは建物・設備の修繕を要求しても動いてくれない。重要事項説明もきちんと行われていない。入居したら、トイレが壊れて使えない等のトラブルも起きている。
重要事項説明もデジタルで行うために、物件を内見しないまま契約するためトラブルが起きやすい。契約書も著しく公平性に欠き、消費者契約法違反の契約が横行している。
・賃貸住宅の空き家が増える中で、老朽借家の明渡し問題が増加している。家賃の数か月分の転居費用の提供で、明渡しを求められる。明渡しの理由として「建物の耐震性不足」が多いが、耐震性不足のみで明渡しの正当事由には当たらない。住宅弱者である生活保護受給者、高齢者、障がい者、シングルマザー、低所得者等は転居先が見つからず、移転することが困難な状況にある。
・賃貸住宅からの退去時には、高額な原状回復費用の請求に伴うトラブルが多発している。賃借人は退去時に入居時の状態に戻す必要はなく、賃借人の建物設備の使用に伴う通常損耗や経年劣化部分の損耗は家賃の中に含まれており、賃借人の過失や落ち度によって起きた損耗の内経過年数を考慮して賃借人の負担分を支払えば良い。通常損耗の修繕義務を定めた賃賃借契約もあり、賃借人に一方的に不利益な契約書も横行し、賃借人の知識不足によって不当で高額な請求で泣き寝入りする賃借人が多い。

3、家賃以外に様々なオプション契約が賃借人の負担に
・賃貸借契約時に、仲介手数料以外に24時間サポート費用、クリーニング費用、鍵交換費用、保証委託料(家賃保証業者の代行)、更新時には家賃の1ヵ月分相当の更新料、更新事務手数料、保証委託更新料が賃借人に請求され、契約書に明確に記載されていると支払いを拒むことが困難である。

4、賃借人に重い家賃負担
・収入に対する適切な家賃負担率は手取り収入の30%と言われる。インターネットネットなどの通信料の負担増、収入の減少と物価高等によって、家賃負担率は年々高くなっている。阪東美智子氏(国立保健医療科学院)の調査(2013年)によると、家賃負担率が30%を超える借家世帯の割合について、年齢別では25歳未満63%、30歳~35歳15.8%、60歳~65歳36.6%、65歳~70歳41.9%、70歳~75歳42.1%、75歳以上41.9%を占める。性別では男性23.5%、女性40.2%。配偶者あり17.1%、配偶者なし37.2%、正規雇用8.8%、派遣・アルバイトなど非正規雇用43.1%、無職48.3%であり、借家世帯の内、若年者、高齢者、女性、非正規雇用、無職ほど家賃負担が重い。非正規雇用は正規雇用の実に4.8倍に及ぶ。民間賃貸住宅に居住する単身高齢者の中には、年金だけの収入の中で家賃負担が50%を占める人もおり、物価高騰の中で食費や医療費を減らしながら家賃を支払っている人も多い。
5、法規制のない家賃保証業者、保証委託契約が最高裁判決で違法に
・家賃債務保証業者との契約を求める賃貸人、管理会社が急増し、家賃債務保証業者との契約は2021年度の調査で約8割を超え、今では家賃保証業者と契約しないと賃貸物件を借りられない。家賃保証業者との保証委託契約では、契約時の保証委託料も年々高額になっており、月額家賃の数%の月額保証委託料を支払う契約もある。
・家賃保証業者とのトラブルも増えている。賃貸人の滞納家賃を立替えると求償権による過酷な滞納家賃の取立てあり、滞納家賃を即刻支払わなければ退去を求められ、自宅の訪問、会社への架電、早朝深夜に及ぶメール・ライン等による家賃の取立てが横行している。また、連帯保証人を立てていても家賃債務保証業者と契約させられ、家賃保証業者との契約に機関保証として連帯保証契約をさせられるなどダブル保証が行われている。
・全借連の家賃保証会社問題対策班は2022年11月に家賃保証業者被害の実態をウェブ調査で行い、「家賃保証業者実態調査」結果を発表した。調査結果を基に国会議員にも要請し、衆参の国土交通委員会で3月と4月に家賃保証業者問題で初の国会質疑が行われた。保証委託契約書も賃借人の権利を侵害する契約条項が多く、保証業者フォーシーズが使用している契約条項「家賃3ヶ月以上滞納すれば賃借人への連絡もなく賃貸借契約が解除される」等の追出し条項が昨年12月の最高裁判決で消費者契約法違反であると消費者団体の差止請求が認められ、使用禁止となった。
・国の住宅セーフティネット法や住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅供給の基本的な方針の中で家賃保証業者の活用が謳われているが、任意の登録制で登録業者は違法な行為をやらないよう自主ルール任せの状態で、早期の法規制が必要である。

6、賃貸住宅を借りられない高齢者
・高齢というだけで不動産業者から賃貸物件の仲介を断られる。賃貸人は高齢者などへの入居拒否感が強く、居室内での孤独死・孤立死、家賃支払い、残置物処理等の事務負担等の不安が強く、高齢者に貸すことはリスクと考えている。家族関係も希薄となり、連帯保証人も立てられず、緊急連絡先も見つからない人が増加している影響も大きい。
・住宅セーフティネット法に基づく住宅確保要配慮者の入居を拒否しない登録住宅においても家賃保証への加入が条件となっており、家賃保証業者の入居審査で高齢者、生活保護受給者などが審査で落とされるケースもある。
国土交通省が発行している住宅セーフティネット制度の活用を促すパンフレットでは、Q「入居を拒まない」とはどのような意味ですか。A 登録にあたって、入居を受け入れることとした属性の要配慮者については、その属性であることを理由に入居を拒むことはできなくなります。例えば、「高齢者の入居を拒まない」場合、「高齢者であるため孤独死の不安がある」ことを理由に入居を拒むことはできません。一方、「収入が低く家賃滞納の不安がある」などの理由によって入居を拒むことは禁じられていません。これでは、入居審査で一定額の預金がない、高齢者や生活保護受給者、低所得者など住宅確保要配慮者の入居拒否が国の法律の下で公然と行われていることと同然である。
・摂南大学現代社会学部の平山洋介教授の調査(日本住宅会議会報118)によると、
2023年3月の住宅セーフティネット登録住宅の内、大東建託の物件790,098戸(95.5%)、ビレッジハウス21,185戸(2.6%)、一般家主15,993戸(1.9%)で、専用住宅5,242戸(0・6%)、一般住宅822,034戸(99.4%)で、空き室は9363戸(1.1%)しかなく、入居中の物件が807,671戸(97.6%)を占める。大東建託の物件には専用住宅はゼロで、空き室物件もないために住宅セーフティネット登録住宅制度は大東建託の物件の広告宣伝の場になっている。また、登録住宅の家賃は、月額5万円未満の住宅が東京では1%しかなく、住宅に困窮し高齢などの理由で入居を拒まれている人達が入居できる物件がそもそもなく、家賃低廉化補助のある専用住宅は全く増えず、住宅セーフティネットは機能不全状態にある。

7、高齢者や住宅弱者が安心して住むための課題
・国交省・厚労省・法務省では、住宅確保要配慮者の円滑な住まいの確保や、住宅政策と福祉政策が一体となった居住支援のあり方についての検討会を本年7月から開始し、10月に「住宅確保要配慮者のニーズに対応した住宅を確保しやすくする方策」について意見募集を行い、年内に中間とりまとめ案を発表する予定。
・検討項目には、「大家等が安心して貸せる環境整備のあり方」が議論され、大家の安心のみが強調されている。大家側に依存した議論ではなく、賃借人が安心して借りやすくする視点こそ議論すべきである。家賃補助制度の創設や保証人が不要の公営住宅の供給の拡大、連帯保証人がなくても賃貸住宅に入居できる仕組み等。連帯保証人不要の公的な保証人制度の創設等があれば、賃貸人が安心して賃貸住宅を貸すことができる。当面は、居住支援法人による入居から退去までの居住支援活動が求められているが、現行の支援措置では不十分であり、まじめに居住支援を行っている団体に対して支援措置の拡充が必要。居住支援法人のない地域はどうするのかも不十分。
・住宅セーフティネット法がなぜ機能しなかったのか、登録住宅制度の在り方を含め抜本的な制度の在り方の改革の議論を行うべきである。
・家賃債務保証についても、営利を目的とする家賃債務保証業者を安易に活用するのではなく、保証業者による賃借人の権利を侵害する悪質な求償権の行使、消費者契約法に反しない保証委託契約の適正化、ブラックリストの禁止、ダブル保証の禁止など法規制を行う必要性がある。法規制を行った上で義務的登録制にすべきである。住宅セーフティネット登録住宅の入居希望者に対しては入居拒否を禁止すること等が必要である。

❈添付資料 ドキュメント地上げ(週刊フライデー5月12日号 5頁)、賃貸住宅に関する相談内容(東京都 6頁)、家賃債務保証の利用状況(国交省 7頁)、家賃債務保証契約における緊急連絡先の実態(国交省 8頁)、保証会社についての被害(全借連実態調査 9頁)、具体的な被害内容(全借連実態調査 10頁)、セーフティネット住宅の登録物件(大東建託の情報 11頁~13頁)、セーフティネット登録住宅の現状(国交省 14頁)、住宅確保要配慮者に対する大家等の意識及び入居制限の理由(国交省 15頁)

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