花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

ポピュリズムにさえも背を向けて

2017-05-14 10:02:55 | Weblog
 5月10日付朝日新聞夕刊に森千香子・一橋大学准教授によるフランス大統領選の解説が掲載されていました。今回の選挙の特徴であった移民や移民2世が多い地区で棄権が多かった点について、理由としてアルジェリア移民2世の社会学者の言葉を紹介しています。それによると、投票を棄権した人は自覚が足りないのではなく、「自分を排除してきた社会に対し信頼感がなく、投票しても何も変わらない、それどころか利用されるだけだと考える。あえて投票箱に背を向け『自分は騙されない』と示すことで尊厳を保っている」のだそうです。仏大統領選で棄権と白票が有権者の3分の1に及ぶことを踏まえて森さんは次のように述べています。「グローバリゼーションの敗者が排外主義に走るという分析が散見されるが、その一方で社会の最底辺に滞留する有権者の中には沈黙し、政治から事実上排除された状態にある人が実に多い。民主主義が直面する最大の問題は『ポピュリズムの台頭』ではなく、ポピュリズムにさえも背を向け、既存の制度内では自らを政治から排除してしまうしかない人々の増大ではないか。」フランス社会のアパシーが看過出来ないレベルにまで広がっているとの見立てです。
 同じ記事では、「11人の候補全員が白人、9人が男性、残り女性2人のうち1人は極右、もう1人の極左は反イスラム発言ばかり。誰もが自分とあまりにかけ離れていて、投票できる人がいない」と語る棄権者の声も紹介されていました。政治への不信から政治に背を向ける人もいれば、選択肢がないと感じている人もいるようです。森さんは、「この『沈黙の声』に耳を傾け、そこから言葉を掬い取る技法を創造できるかどうかに、民主主義の未来はかかっている」と文章を結んでいます。「言葉を掬い取る技法」の創造により魅力ある選択肢が提示されることに期待したいと思います。ただ、何も変わらない、自分たちは利用されている、投票できる人がいない、などの言葉に同情はしますが、賛同は出来ません。沈黙が白紙委任を意味する以上、より悪くない選択をする割り切り、覚悟が必要ではないかと思いますが、フランスの移民系の人々が置かれた立場は私の想像を超えて過酷なのかもしれません。