『シビックスペース・サイバースペース』より 公共図書館
公共図書館の世界におけるレトリック、そして特定の図書館の実践において見られる最近の動向は、多様な地域社会のニーズを満たすために、地元地域社会に存在する諸組織、諸機関と協力関係を結び、とくに電子的な情報システムを利用し、図書館の資源と能力を高めて、地域社会における図書館の有用性と位置づけを強化することである。
また、本書でも先に言及した通り、このアプローチは、共同体主義的な思考の普及と新しいコミュニティ・ネットワークの成長を反映するもので、いくつかの報告書に記されているように、公共図書館に関心を寄せる財団や諸団体の姿勢をうかがわせるものである。
ペントン財団(BebtonFoundation)の報告書『建物、図書、および電子情報:デジタル時代における図書館と地域社会』(Buildings, Books,皿d Bvtes: Libraries 皿dCommunities加訥丿:')igital Age)は、今後も存続してゆくためには、公共図書館ぱつなぎ目のないコミュニティ情報網’のなかで「コミュニティ教育と情報ネットワークを市民みんなに開かれ、利用可能なものにするために、他の公共サービス情報提供機関と共同して」、‘新しい生活様式’の創造に関与しなければならない、と結論付けている。
‘図書館の未来に向けて' (Libraries for the Future)とベントン財団によって1997年に作成された『住民が集まる地元の場所、地球規模に広がる交流:デジタル時代における図書館』(Local Places、Global Connections:r.ihraries in theDigital Age)は,安定した物理的な場所と地域社会の情報ニーズに関する知識を備えた図書館は「コミュニティ・ネットワークにとっての適切なパートナーとなる」もので、そのような協力関係は「両方の機関が直面している財政的な窮状に対する対応策のひとつともなり得るものであろう」と記している。ケロッグ財団が支援する図書館資源に関する評議会(Kellogg-fiinded Council on Library Resources)が行った12のモデルとなる革新的公共図書館を対象とするケース・スタディを取り扱った報告書には、「検討したそれぞれの事例の中心的な問題は、(さまざまなやり方はあろうが,)公共図書館の地域社会のニーズに応える能力を拡大、向上するために技術を利用することである」と述べられている。地元の状況とリーダーシップに大きく依存するが、いくつかの公共図書館は、コミュニティ情報を提供するために、コミュニティ・ネットワークとの協力、およびいくつかの事例ではコミュニティ・ネットワークの管理運営をも含めて、積極的に様々な形でコミュニティ・ネットワークと提携関係を結んできた。その他の図書館の大部分は、独自に地域社会志向の諸目標を追求する傾向にある。図書館資源に関する評議会の調査研究が指摘したように、必ずしもすべてのものがすべてのところでうまく機能しているわけではなく、「必ずしもあらゆる図書館がその将来を地元のコミュニティ・ネットワークあるいはフリー・ネットの運命に結び付けて考えているわけではない。」
公共図書館は、本質的に、コミュニティ情報ないしはその他のあらゆる情報を社会に普及させる存在をはるかに超えるものである。図書館は、文化的および教育的センターとして、すなわち知識機関として、地域社会に対してサービスを提供しており、そして市民も図書館に対してぜひとも永続的にそうあり続けてほしいと期待しているように思われる。(もっとも高く評価されている図書館システムのひとつで、地元の多くの行政機関や企業が協力協定を結んでいることでも良く知られているフロリダ州のブラワード郡図書館は、論理的に検討し、古い伝統的な公共図書館を学生たちのための学習の場として整備するとの結論を得ている。その図書館を第一義的にはフロリダ大西洋大学とフロリダ国際大学のフォートローダーデール・キャンパスのための図書館と考えたのである。)公共図書館は、ボルチモア郡公共図書館が掲げているスローガンを言い直し、やはりみずからを多面的な‘世界への窓’と呼ばれるものであることを認識すべきであり、そしてシカゴ公共図書館のように、市民に対して、‘読書しなさい、学習しなさい、発見しましょう’と熱心に働きかけなければならない。公共図書館の使命に関する宣言では、より大きな目標を目指して技術の利用に言及される。図書館利用の多くはいまだに図書や視聴覚資料の貸出である(住民が多くの時間を車の中で過ごさなければならない地域では、それらに加えて録音テープや録音されたディスクが非常に重要なものとなる)。
図書館はいまもなお多数にのぼる(印刷物とデジタルの両方の)読書案内リストや教育的および文化的イベント、展覧会や様々なサービスの通知を発行している。昔から行われてきた図書館の古典的な諸活動は放棄されることなく続けられている。しかし、利用できる諸資源が限られ、新しい技術の導入が不可避でしかも高価な場合、どこに力点をおくかが重要になってくる。『ライブラリー・ジャーナル』(Library Journal)誌のサンプル調査によれば、最近、図書館予算が全国的に増加していることについては、実際のところその割合はわからないし、資料コレクションの強化のための支出が増えているとの証拠が示されてはいるが、図書館予算の大部分は技術の導入・整備につぎ込まれたもののように思われる。このことは、財政的側面とイデオロギー的側面の両面において、バランスをどうとるかという問題を提起している。図書館システムのいたるところに通信ケーブルが敷設され、新たにコンピュータやモデムが設置されているのに、ライブラリアンたちはいまだに子どもたちのためのお話の時間を維持し、10代の児童生徒が宿題に取り組むのを助け、高齢者市民センターや介護施設を訪問し、視覚障害者の人たちに対して録音図書設備や拡大読書器を整備し、識字教育や第2外国語としての英語教室を開催したり、展示会や詩歌の朗読会、コンサート、演劇セミナー、および定期的な映画鑑賞会を計画したりするための支援を必要としている。
社会の動向分析と対応戦略
もちろん、新しい技術は、伝統的な諸活動を周知するために役立つばかりでなく、それらを実施するときにも大いに役立ち得るものである。たとえば、第2外国語としての英語教室や識字教育の受講生たちのためのコンピュータ学習カリキュラムがある。(ニューヨーク公共図書館のある分館では、他の言語を話す人たちを対象とするコンピュータ支援の英語教育のために、8週間の間で1,543時間のコンピュータ利用が記録されている。)18)児童生徒の宿題への取り組みを援助する場合には、インターネットやCD-ROMのレファレンス・トゥールで見つけだしたデータを利用することができる。 CD-ROMの図書リストには、大人と子どもの両方が拾い読みできるように図書の内容を記述し、また分類している。ビデオと電気通信設備は視覚障害者もしくは聴覚障害者の情報ニーズに応えるものである19)。そして、もちろんのことであるが,データベースとインターネットは、あらゆるレベルの調査研究を遂行する能力を大きく向上させることができる。
実際に、ライブラリアンたちは、これらのあらゆるメディアの利用の仕方を身につけようとしている。彼らが日常行っているほかのすべてのことに加えて、おそらくこのことに予想される関係業務は大変な量になろうが、彼らはまたそれを魅力的な仕事と考えている。1996年の調査によれば、公共図書館職員の59パーセントが、主として新しい技術が導入されたために、過去数年の間に、彼らの仕事が変化していると答えている。公共図書館に働くライブラリアンたちは、多くはインターネットに関する職員研修に参加し、一生懸命取り組んでいる20)。その多くは特にケロッグ財団からであるが、財団提供の資金によって、図書館現場における研修事業の費用負担の大きな部分かまかなわれてきた。そして, 1996年、ケロッグ財団はミシガン大学情報学部に資金を与え、同学部はそのカリキュラム作成のために500万ドル追加した強力な研修部門を擁するフリント・コミュニティ・ネットワーキング・イニシアティブの創設のために頑張った。都市図書館評議会は、ケロッグ財団の資金を受取り、一連のビデオを用いた職員の能力開発研修資料を作成し、また同評議会会員館のシステム職員のための技術研修に取り組んでいる。1980年代に休止期を迎え、大学が経費の節減と規模の縮小を追及したところから大学院図書館情報学研究科の数が減少をみた後、明らかにいわゆる情報社会の成長とそれに見合ったカリキュラムの改正に対応して、図書館情報学研究科の入学者数はいくぶん回復しているように思われる21)。
ライブラリアンたちは新しい技術に関する研修を経験すると同時に、かれらはどのように技術を彼らの人間性豊かなものの見方、考え方に調和させるかということについて検討しようとしている。歴史的に見ても、公共図書館に勤めるライブラリアンたちは、専門職としての技術的側面を志向しつつも,それに過度には関心を払ってこなかった人たちである。理論的には技術が究極的に目標とするところは市民にサービスを提供することではあっても、概して、図書館専門職は、伝統的にいわゆる技術者官僚と公共サービス労働者の両極に分裂してきた。今日、一般のライブラリアンたちのなかには、新しく素敵な技術の導入とその利用がもたらすマイナス面に不安を感じたり、そして新しい技術の利用に必要とされる力量、経費が図書の購入やプログラミングにつけられた予算を大きく上回るとともに、公共図書館の知的、文化的本質ばかりでなく、図書館利用者との人間的なふれあいをも損ないかねないことを懸念して、不安を感じている人たちがいる。
ライブラリアンたちは、慣行的に、地域社会内の個々人が積極的にみずからが目標とするところを実現しようとするのを支援する彼らライブラリアンの仕事のなかに、コミュニティ・サービスや地域社会における権利利益の付与が具体化されているものと考えてきた。地域社会は、情報に対する現実的および政治的ニーズばかりでなく、それぞれが特定の多様な文化的で知的な関心を持つ人びとから構成される集団と見ることができる。ロサンゼルス公共図書館の図書館の使命に関する宣言の言葉を借りれば、図書館は「膨大な思想と情報に無償で容易にアクセスできるようにし、それを推進することにより、また人びとを歓迎し受け入れる環境のなかで生涯学習を支援することによって、当該地域社会に居住するすべての個々人に対して、情報を提供し、豊かにし、そして生きる力を与えようと努力している。」多くの図書館は、人口構成やその他の地元社会の変化の動向を分析し、それらに対する図書館の対応を定めた戦略的計画をすでに公表しているか、現在その作成に取り組んでいる。ニューヨーク市の行政区のなかでも非常に多様な性格をもったところにあるクイーンズ区公共図書館は、現在、職員のなかにひとりの専門的な人口学研究者を抱えている。ワシントン州のキング郡のように、いくつかの図書館システムでは、図書館職員は継続的に詳細なコミュニティ分析や図書館に対するニーズ評価に取り組んでおり(キング郡においては、通常、毎年、同図書館システムを構成する図書館から4館を対象として調査を行っている)、そこでは館長以下の専門職ライブラリアンたちは地元地域社会に強く結びついている。多くの図書館の使命に関する宣言、戦略的計画、およびコミュニティに関する検討は、あらゆるレベルのライブラリアンたちによって表明された公式のコメントとともに、幅広い図書館サービスに対する考え方を明らかにしている。