数十年ぶりに鴎外の「高瀬舟」を青空文庫で読んだ。この小説は史伝小説であり、参考とされたのは「興津弥五右衛門の遺書」同様、神沢杜口の「翁草」である。
病の床にあった弟が、剃刀で喉笛をつき自殺を図る。苦しみ死にきれずにいる弟は兄の喜助に手助けを乞い死んでいく。その場を見た者がおり捕まえられる。
そして遠島処分を受け「高瀬舟」にのり川を下っていく中で、同心の庄兵衛はそのいきさつを知り、死に苦しむ弟に手を差し伸べたことが殺人となるのかと自らに問いかける。
そして、お上が決めたことは間違いないのだろうと納得する。
ずいぶん昔、森茉莉さんのエッセイ「父の帽子」を読んだが、その中に「注射」という項があり、幼いころ百日咳にかかり、父鴎外が医師のすすめにより「安楽死」を考えたという。
兄と揃ってり患しているが、兄は死んでしまいそれを受けてのことであろう。岳父から叱られ思いとどまると、数日後には快気したという話である。
鴎外は軍医総監迄上り詰めた医者であり、最先端の医学の知識を有していた。当時は「安楽死」が許容されていたらしい。「高瀬舟」も主人公・庄兵衛に託して、その「安楽死」について問を投げかけているのだろう。切ない内容だが、鴎外は良い題材を「翁草」から求めたものだ。
一つは「言い訳」と「自己弁護」 http://nozawanote.g1.xrea.com/03episode/episode79.html
いま一つは「岳父への意趣返し」 https://www.sankei.com/article/20230415-SXAN4SDBMJL6XDPER5FZHG6JYA/
何れにしても、太宰とは異次元の「人間失格」ぶりが透けて見えてしまいます。