それでは、忘れないうちに昨日の続きで、
音羽屋以外の役者さんについての感想を書いておきたいと思う。
皆さんいずれ劣らぬ名優の名演揃いであり、
「良かった」「見応えがあった」という意味では全員になってしまうので、
特に記しておきたい方々、個人的に思い入れの深い方々についてのみ、
ここには記録しておこうと思っている。
巷の観劇感想や劇評で必ず取り上げられる方々とは必ずしも一致しないが、
飽くまでここは、私が自分勝手に書いている「道楽日記」だということで。
ということで、まず今回、私にとって大変に嬉しかったのが、
河原崎権十郎の良さを久々に堪能できたということだ。
前名の坂東正之助時代から、私はこの人を贔屓にしていたのだが、
以前は、しばしば、シャープな持ち味が裏目に出て、
せっかくの力演が一本調子に(私には)見えてしまい、
残念に思ったことが幾度かあった。
それが今回の海斗鳰兵衛役では、その勢いの良さが的確に発揮されていて、
要所要所で芝居に明確な句読点を打って行く素晴らしさがあった。
これこそ権十郎ならではと思い、長年観てきた私としては感激だった。
特に、安藤(翫雀)と獅子丸(菊之助)が腰の引けた決闘をする場面で、
鳰兵衛が、頼まれもしないのに割り込んできて大騒ぎすることにより、
ここからいよいよ、獅子丸と主膳之助(菊之助。二役)とが別人だと、
皆に知られるようになる、という方向性が、気持ちよく明確になった。
呼吸が難しく、かつ流れの向きを変える「力」の要る役だと思うのだが、
権十郎のセンスは卓越したものがあって素晴らしかったと思った。
次にやはり書いておきたいのが、皆様例外なく心惹かれるであろう、
織笛姫につかえるお女中の麻阿(まあ)役、市川亀治郎だ。
正直に言って、最初は普通の女形にしか見えなかったのだが、
序幕第9場で、洞陰(左團次)と英竹(翫雀)らの
深夜の酒盛りに加わって騒ぐあたりから、
だんだん、この人の面白さが分かってきて、目が離せなくなった。
とりわけ可笑しかったのは、酒盛りに坊太夫(菊五郎)が来たのを見て、
麻阿が驚いてハデにコケる場面、続いて、その坊太夫の説教の背後で、
ヘビ少女のように、密かにゆっくり這って逃げ出そうと試みるところ、
更に、皆で捕まえた坊太夫を棒で殴るときの動きと手つき、等々だった。
こうして書くと、歌舞伎らしくないアチャラカが新鮮だったのか、
と思われそうだが、亀治郎の麻阿は、ちゃんと女形の動きになっていて、
その中で、破調なのだが過不足なく、予想外の動きの出るところが、
とても鮮やかで、うまい呼吸だったと思うのだ。
(続)
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