妻にバレてもめても
キラ子のためにツケやカードを使うのをやめない…。
義父はキラ子にぞっこんだから…だけではありません。
それは、自由になる現金が不足してきたことを意味していました。
ハッタリや侠気(おとこぎ)を装い、勢いで取れていた仕事が
取引先の世代交代、株式化などで商談の相手がサラリーマンに変わり
緻密な書類や、細やかな接待などが必要になっていました。
完全に乗り遅れたわけです。
父子二代で恋にうつつをぬかしている間に
ガテンに優しかった昭和の時代は終わっていました。
そんなある夜、トイレに起きた義母は
夫が家を抜け出すところを目撃してしまいました。
義母に起こされ、行き先をつきとめるよう言われた私は
「寒いから行かない」
と断りました。
しかし、言い出したらきかないのでノロノロと出かけました。
義母ももちろん行くと思っていたら
「寒いから行かない…」
おい…
どうせ追いつけやしない。
見失ったとか言って、適当なところで引き返そうと思いました。
M子の転居先は、およそわかっていました。
あのY先生が、こっそり教えてくれていたのです。
教頭しか知らないことになっていましたが
万一を考えて交通費の申請書類をチラ見したそうです。
「こんなことして、もし迷惑がかかったら…」
「いいよ。私、海外で暮らしたいから。
こんな人間、野放しにするほうが危ない」
どこまでもサバサバしたY先生なのでした。
そこでつい、その市の方角に向かいました。
絶対無理と思っていたのに、国道まで出たら
果たして夫の車は私の三台前を走っていました。
夜間工事で待たされたようです。
夫の車は、問題の市内に入ってから山道のほうへ曲がりました。
気付かれた…とわかりましたが、今さら帰るのもシャクです。
寂しい道を猛スピードでどんどん登って行くので
運転が得意でない私は必死でしたが、やがて引き離されました。
Uターンしようと車を止めると
横に夫が立っているので、ぶったまげました。
「気はすんだか?ええ?」
皮肉な笑みを浮かべています。
「おまえは親父にもお袋にも嫌われてるんだ!
もめ事ばっかり起こす嫁はもういらないんだとさ!
同じ嫁なら、学校の先生のほうが聞こえがいいってさ~」
言うことも憎たらしいですが
顔もほんとに憎ったらしい表情です。
「親父に嫌われたら、あの家には居られないんだぞ!
さっさと消えやがれ!」
「親父が怖いのはキサマら姉弟だけだ!」
そう言って帰ろうとすると
夫は突然ピョーンと飛び上がり
バコッ!
ボンネットの上に着地しました。
夫よ…キミは、かざ車の弥七か…。
そのままヤンキー座りをして
私を正面からにらみ、口は笑っています。
ここで急発進してやったら
さぞ気持ちがいいだろう…と思いましたが
我慢してクラクションを鳴らしました。
夫はまたピョーンと飛び降りると、悠々と歩いて去って行きました。
野生動物は、自分の巣穴を発見されるのを嫌がるといいます。
巣穴の場所を知られたくない一心で、飛び上がって見せたのでしょうか?
それにしても人間わざとは思えない不可解な出来事でした。
少し先でライトが点き
夫の車が出て来てどこかへ走り去ったので
待ち伏せしていたとわかり、ほっとしました。
一応人間だったわけですから。
翌朝、ボンネットが凹んでないか調べました。
大男が飛び乗ったのに
何の形跡も見あたりませんでした。
くわばら、くわばら。
キラ子のためにツケやカードを使うのをやめない…。
義父はキラ子にぞっこんだから…だけではありません。
それは、自由になる現金が不足してきたことを意味していました。
ハッタリや侠気(おとこぎ)を装い、勢いで取れていた仕事が
取引先の世代交代、株式化などで商談の相手がサラリーマンに変わり
緻密な書類や、細やかな接待などが必要になっていました。
完全に乗り遅れたわけです。
父子二代で恋にうつつをぬかしている間に
ガテンに優しかった昭和の時代は終わっていました。
そんなある夜、トイレに起きた義母は
夫が家を抜け出すところを目撃してしまいました。
義母に起こされ、行き先をつきとめるよう言われた私は
「寒いから行かない」
と断りました。
しかし、言い出したらきかないのでノロノロと出かけました。
義母ももちろん行くと思っていたら
「寒いから行かない…」
おい…
どうせ追いつけやしない。
見失ったとか言って、適当なところで引き返そうと思いました。
M子の転居先は、およそわかっていました。
あのY先生が、こっそり教えてくれていたのです。
教頭しか知らないことになっていましたが
万一を考えて交通費の申請書類をチラ見したそうです。
「こんなことして、もし迷惑がかかったら…」
「いいよ。私、海外で暮らしたいから。
こんな人間、野放しにするほうが危ない」
どこまでもサバサバしたY先生なのでした。
そこでつい、その市の方角に向かいました。
絶対無理と思っていたのに、国道まで出たら
果たして夫の車は私の三台前を走っていました。
夜間工事で待たされたようです。
夫の車は、問題の市内に入ってから山道のほうへ曲がりました。
気付かれた…とわかりましたが、今さら帰るのもシャクです。
寂しい道を猛スピードでどんどん登って行くので
運転が得意でない私は必死でしたが、やがて引き離されました。
Uターンしようと車を止めると
横に夫が立っているので、ぶったまげました。
「気はすんだか?ええ?」
皮肉な笑みを浮かべています。
「おまえは親父にもお袋にも嫌われてるんだ!
もめ事ばっかり起こす嫁はもういらないんだとさ!
同じ嫁なら、学校の先生のほうが聞こえがいいってさ~」
言うことも憎たらしいですが
顔もほんとに憎ったらしい表情です。
「親父に嫌われたら、あの家には居られないんだぞ!
さっさと消えやがれ!」
「親父が怖いのはキサマら姉弟だけだ!」
そう言って帰ろうとすると
夫は突然ピョーンと飛び上がり
バコッ!
ボンネットの上に着地しました。
夫よ…キミは、かざ車の弥七か…。
そのままヤンキー座りをして
私を正面からにらみ、口は笑っています。
ここで急発進してやったら
さぞ気持ちがいいだろう…と思いましたが
我慢してクラクションを鳴らしました。
夫はまたピョーンと飛び降りると、悠々と歩いて去って行きました。
野生動物は、自分の巣穴を発見されるのを嫌がるといいます。
巣穴の場所を知られたくない一心で、飛び上がって見せたのでしょうか?
それにしても人間わざとは思えない不可解な出来事でした。
少し先でライトが点き
夫の車が出て来てどこかへ走り去ったので
待ち伏せしていたとわかり、ほっとしました。
一応人間だったわけですから。
翌朝、ボンネットが凹んでないか調べました。
大男が飛び乗ったのに
何の形跡も見あたりませんでした。
くわばら、くわばら。